8章
GIDとホモの間には、谷より深い溝がある。
それはもはや未来永劫交わることのない、月とスッポンのようなものである。
あ、どっちがスッポンとかは聞かないように。
これは人類誕生以来の不滅の命題であって、決して解けないフェルマーの最終定理のようなものである。
あれ? フェルマーの最終定理ってちょっと前に解かれたんだっけ?
いや、まあそれはそれとして、この二つだけならいい・・・・・・
なぜ世の中の多くの人々は、あまつさえ「ゲイ」や「女の娘」や「IS」までひっくるめて、同じカテゴリーで括ろうとするのだろうか! いや、間違っている!!
ならば、誰かが道を正してやらねばならない。誰が? 当然私達でしょう!!!
以上が、私と無二の友人との2時間に渡る激論の末、たどりついた答えである。
まあ、その間にジュース5杯とパンケーキ2つとアイスクリーム(パンナコッタ入り)3カップが消費され、お腹の中がナンテコッタ状態になっているのはお愛嬌というものだ。
もっとも、過去何度も同じ会話を繰り返しているので、ウロボロスの蛇的な予定調和と言っても過言ではないのだけど。
「やっぱり、純愛だよね」
彼女がうっとりした目でアイスをつつく。
「もちろん!」
私に異論があろうはずもない。まあ、それがあっての親友とも言える。
「・・・・・・逞しい腕に抱かれた無垢な彼の体。その腕はそのまま服の中に滑り込んで・・・・・・
ああ、だめ、やめて! 汚れ無き心に、そっと赤いインクを落としたように広がっていく激しい衝動。 そんな所、汚いよ・・・・・・ いいや、君の体のどこに汚い所があるんだい? そして彼の手は、固くいきり立った熱い塊を包み込んで・・・・・・」
「ちょっと! 声が大きい!!」
しまった、ここはファミレスだった。腐女子と言われようと関係ないが、青春のリビドーはTPOをわきまえねばならない。
・・・・・・まあ、オタク女子の会話なんて、こんなものである。
こんなものであるが、ただ、そこに込められた魂は生半可ではない!
ワインだって貴腐ワインというものがある。貴い腐り方が存在するのだ。熟成肉だって、ようは腐る寸前ということだ。豆腐は腐っていないが字がくさっているし、納豆なんてまんま腐っている。
この結論から導きだされることは、世の中、腐ったものが無ければ成立しないのだ!
少なくとも、腐女子ほど日本経済に貢献している存在も少ないと思う。もっとも、極限られた分野のみに特化しているのだけど。
「じゃあ、次のコンセプトはこれで良いかな!」
「これで良いも何も、いつもと変わらないじゃない」
「王道こそ正義!」
「BLって、いつ王道になったんだっけ・・・・・・」
「邪道にも王道はあるのだよ! 恋くん」
そんなこんなで、私の日常は方向性が決まったらしい。
色々考えるべき事はあるにせよ、これも私の人生の一部! っていうか、ある意味すべて!
「ってか、恋くん、何かあった?」
「え? どうして??」
もう、さすがにお開きにしようかとしていた時、不意にそんなことを聞いてきた。
最初、私には何を言われたのか理解できなかった。
「うーん、なんていうのかな? 若干テンションが違うっていうか、何というか・・・・・・」
それは彼女にしても、よく分からなかったのだろう。そのあまりの歯切れの悪さに思わず苦笑する。
「私のテンションなんて、いつも変じゃない」
「いや、そういう『変』じゃなくて・・・・・・ まあ、いいや、ごめんごめん、忘れて」
ひとしきり難しい顔をしていたのだけど、何か自分で納得させたのか、苦笑いをしながら急にパタパタと手を振って、まるで「変な空気よどこかへ行っちゃえ」みたいなポーズをとる。
「じゃあ、次は2週間後。それまでに16ページよろしくね!」
「そっちこそ、落とさないように頑張ってね」
「次こそは完売目指そう!」
これによって、私のHPとMPが瀕死状態に陥る未来が約束されてしまった。正直言ってシンドイ気持ちもあるけど、でも、やっぱりやめられない。
シンドク無い人生がどれだけ楽だって、それが楽しいとは限らない。
逆にそれが本当に楽しいなら、シンドイの何て気にならない。
それが人生でしょ。