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6章

 帰りの電車の中で、私は今日あったであろう出来事を思い返していた。

 思い返せば思い返すほど、意味不明だった。

 ありえない、分からない、信じられない・・・・・・

 やっぱり夢だったのかな?

「ふう・・・」

 思わずため息が漏れる。

 ふと、手のひらに鈍痛を感じた。

 見ると、爪の跡が生々しく残っている。

 自分のだろうか・・・・・・ 知らないうちに、強く握りしめていたのかもしれない。

 その後を無意識になぞっていると、いつの間にか手相の跡をなぞっていた。

 あまり細かい線が無く、太く、はっきりした生命線・・・・・・

「そういえば、スガさん、自分とそっくりだって言っていたっけ」

 忘れていた記憶が甦ってくる。

 そうだ、確かに私はスガさんと話をした。そして、

「そうだ、写真!」

 バッグの中には、あの写真があるはずだ。「はずだ」っていうのは、あの後怖くて、手帳に挟んだっきりになっているからなんだけど。

 でも、あの写真を見れば、何か分かるかもしれない。

 分かるかもしれないけど、正直、まだちょっと怖い。

 こんな大勢の人のいる電車の中で、もしまた、あの時のようなことが起こったら・・・

 うん、家に帰ってからにしよう。

 何事にもTPOは大切だよね。


 それはそれとして、もっと考えなくちゃいけないことがある。

「・・・・・・鈴さん」

 夢かもしれないけど、でも、私ははっきりと見た! ナイフを手にする、恐ろしいほど無表情な鈴さんを。

 っていうか、夢のわけがない!

 あれが夢だったら、私の生きてきた約20年の人生はなんだったんだろう。

 でも・・・・・・

「現実、か・・・・・・」

 窓の外は暗い。家の灯りが、走馬灯のように入れ替わり、入れ替わり、ただ、目の前を駆け抜けていく。

 それは、紛れもない現実のはずなのに、あまりにもはかなく、どこかしら非現実的で、私の脳みその中をあざ笑うかのように飛び跳ねていた。


 いずれにしても、次のバイトは1週間後だ。

 正直言って、ちゃんと行けるか自信が無い・・・・・・


「おねえちゃん、どうしたの?」

 妹の声に、私は答えるのも億劫だった。

「食べたくない・・・・・・」

「ふーん」

 妹はそれきり、興味を失くしたようだった。こんな時は、ベタベタしてこない妹の性格がありがたい。

 私の目の前にある、まだ半分以上残っている白飯からは、もう湯気は立っていない。

 家に帰っての、夕飯の席。正直お腹はすいている気がする。

 でも、胸の辺が、よく分からないモヤモヤした塊で溢れ返っていて、空腹感を押しのけていた。

「ごちそうさま」

 もう、今日はお風呂に入って寝よう。

「また無駄なダイエット?」

 後ろから妹の声が聞こえてきた。

 いつもなら一声文句も出るのだけど、正直どうでもよかった。

「うるさい」

 私は振り返りもせずに答える。それはいつものやりとり、いつもの声。

 でも、ううん、正直に言うのなら、ただ、ちょっとだけだけど、いつもと変わらない妹の声に少しホっとしていたのかもしれない。


 いつもより、ちょっとだけ熱めのお風呂に、いつもよりもかなり長く入った。

 いつも念入りにトリートメントする髪は、気が付いたら30分以上もかけていた。

「ハクチっ」

 思わず出たくしゃみが、アラームとなってくれなかったら、私は倒れるまでお風呂にいたかもしれない。

 色々なことを考えていた。

 色々過ぎて、頭がぐちゃぐちゃになって、白いパンダとピンクの象とハイテンションなスガさんが手を組んでマイムマイムを踊り出すくらいシッチャカメッチャカになって、ようやく私はベッドに入る決心を付けた。

 だって、それくらいしなくちゃ、絶対変な光景が浮かんできて、眠れなくなる。

 それは、後から思えば、半分だけ正しかった。

「やばっ、倒れる・・・・・・」

 湯あたりしてフラフラとなりながらベッドまで何とかたどり着くと、頭からシーツの上に倒れこんでしまった。

「髪、乾かさなきゃ・・・・・・」

 なんだか、ふわふわする・・・・・・

 意識を保てない。

 まるで、魂が抜けるかのような、不思議な気分のまま、私の意識は深い闇の中に沈み込んでいった。


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