第4話 始まりの終り
秋葉原の街を雪が舞っていた
いつから降り出したのだろう
時間と共に激しさを増し、止む気配さえ見せない・・・・・・
普段であれば騒がしいほどの、街行く人々の雑踏を、絶え間なく続く車の喧騒を、
その胎に飲み込み
シンシンと、無音の静寂をもって・・・・・・
陽は落ち、街頭の灯りと看板のネオンサインのみが眩く光る中で
しかし
降りしきる雪に乱反射された光源は、辺り一面をホワイトアウトさせ、
どこまでも、白く、白く、世界全体を極寒の純白に塗り変える・・・・・・
それはまるで、異世界への誘い
日常と、非日常の境目
上も
下も
右も左も
どこまでも続く、永遠の白い虚無
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
「ふむ・・・・・・」
スガさんは顎に手をやり、つぶやいた。
鈴といたリフレ部屋のドアを開け、共有スペースに出た時のこと。
店内に鳴り響くオルゴールのクリスマスソングの中、他の部屋から洩れてくる雑多な話し声、時折り足音さえも聞こえるというのに・・・・・・
人の気配が無い。
いや、正確に言えば『人の気配は感じる』。感じるのだが、『感じるだけ』だ。
人がいれば当然あるべき『熱』が、全く存在しない。
人の存在をはっきりと『感じる』のに、誰も『存在しない』世界。
まるで、自分だけが平行世界に引き込まれたかのような違和感・・・・・・
「さて、どうしたものかな・・・・・・」
意識せず、独り言が口から漏れる。
鈴は、『隣の部屋に恋がいる』と言った。
しかし、どの?
確かに、『隣のドア』は存在する。
無数に・・・・・・
入店した時は確かに存在したはずのリフレ部屋へと続く並んだ扉は、ダリの絵画のように、歪んだ空間に繋がり、大小連なる数えきれないドアが、天地左右に永遠と続いている・・・・・・
試しに、一番身近にあるドアの取っ手に手をかける。
ドアはカギが掛かっているということもなく、キィーという乾いた音を立てて開いた。
その中は?
簡素な部屋に、一人の男性の後ろ姿があった。
顔が全く見えないのにも関わらず、どこかで見たことがあるような、そんな強烈な既視感に襲われる。
開いたドアの奥にもさらにドアがあり、その男性もまさに奥のドアを開けようとしていた。
いや・・・・・・
スガさんは即座に直感する。
あれは、『俺』だ!
一歩踏み出す。
目の前の男性も、全く同じタイミング、同じ歩幅で、一歩を踏み出している。
開いたドアの先に、まさしく『今』ドアを開けている自分の姿が存在していた。
(空間が歪曲されているのか?)
そう思った時、中にいた男性が『自分が見ている目の前で』振り向いた!
ゾワッ
背筋を悪寒が駆け上る! 生物としての本能が悲鳴を叫ぶ!!
その瞬間、スガさんは手にした刀を振り抜いていた。
奔る一陣の風。
チンという鞘に収める音が鳴り、一拍おいて、ゴトっという首が落ちる音が響く。
その首に、しかし、顔は無かった。
輪郭も、髪型もスガさんと寸分違わぬというのにも拘らず、塗りつぶされたかのような、目も鼻も口も存在しない顔。
その口の無い顔が、無言で驚愕の悲鳴を上げていた。
無意識に、スガさんは自分の首筋に手をあてる。
傷など何もない。何もないはずなのに、そこには刀の軌跡そのままに、うっすらと赤い線が一筋、幼子の時に付けた傷痕のように、走っていた。
「・・・すまない、俺がこの世界に来なければ、お前も俺として存在し続けられただろうに」
スガさんが微かな間、目を閉じ、黙祷のようにつぶやく。
「しかし、さて、困ったな。空間が歪んでいるだけでなく、別の平行世界に繋がっているのか・・・・・・」
世界とは虚実である。
平行世界はどれほど無数にあろうとも並行世界でしかあり得ない。
その中で、『虚構』と『真実』の差は、しかしそれ単独では何の意味も持ちはしない。
だが・・・・・・
そこに本物の自分が訪れてしまった。
虚実の世界に二人の同じ人間が存在がすれば、どうなるか?
スガさんはドアを閉める。
目の前には、無限に続くドアが続いていた・・・・・・・




