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2-5章

「つっかれたー。もうダメ・・・・・・」

 私は総武線の電車の中で突っ伏してしまった。


 あれから三時間。

 お掃除したご主人様の数、十五人。

 私がお掃除されてしまいそうになったご主人様の数、十人。

 怒られた数、百人以上・・・・・・

 キリが良く感じるのは、それが今日のノルマだったからだ。

 まあ、途中から数がいくつかよく分かんなくなっちゃったんだけどね・・・・・・

「今日は早めに上がって良いわよ」との店長の言葉に甘え、今はすでに帰りの電車の中にいる。

いや、確かに大したことはしていなかったんだよ。単に、

「琴ちゃんがそこら辺の人を叩く →ご主人様が怒る →琴さんがぶった切る →私がお掃除する」

だったんだよ! そう、最初の一時間は・・・・・・

 そしたら、「じゃあ、今度は恋ちゃんがやってみるのです」って変な棒みたいのを渡してきたんだよ!

 初日なのに!!

 今思い出しても、現実とは思えない・・・・・・


「さあ、勇気を出すのです! 人間、怖いのは最初だけで、慣れると気持ちよくなっていくものなのです!」

「琴ちゃん・・・・・・ それ何か違う・・・・・・」

「とりあえず、その棒で、怪しい人を叩くのですよ!」

「怪しいって・・・・・・ すみません。みんな普通の人にしか見えないんですけど・・・・・・」

「恋ちゃんはマジメさん過ぎるのです! 疑いの目で人間を見るのです! この世の中なんて怪しい人だらけです!! というか、怪しく無い人なんていません!!」

「あのー、その論法だと、『片っ端からぶっ叩け』って言ってます?」

「はい、なのです!」

「間違えて普通の人を叩いたらどうするんですか?!」

「その時は謝れば良いのです。首を飛ばす前だったら、人生何度でもやり直しが効くのです!」

「・・・・・・なんだろう、すっごい反論したいのに、反論出来るだけの語彙力がない・・・・・・」

「じゃあ、まずはあの人なのです! Goなのです!!」

「ひえぇぇ・・・・・・」


 ・・・・・・

 よく無事に帰れたものだ。

 むろん、怒られた。怒られまくった。

 でも、そんな時は横に佇んでいる琴ちゃんが、ススっとやって来てフォローしてくれるのだ。

「ごめんなさいなのです。この、新人さんなので、お仕事にまだ不慣れさんなのです。私に免じて許して上げて欲しいのです」

 ・・・・・・なぜだろう? 私のせいなのか?? これは!!

 しかし不思議だ。なぜ世のご主人様たち(予備軍)は、こんな言葉で納得出来るのだろう?

 やっぱり琴ちゃんの魔力なのだろうか? 琴ちゃんに謝られた人は、全員嬉しそうに笑って去っていくんだもの。しかも琴ちゃん、さりげなくお店のチラシを渡しているし。

 琴ちゃん、恐るべし!!

 彼等がご主人様予備軍から、ご主人様に立候補しにお店に来る日は近いに違いない。まあ、琴ちゃんは二週間先まで予約で埋まってるんだけどね・・・・・・

 でも私が同じことやったら、十倍返しで怒られるんだろうな・・・・・・


 とりあえず、初日のお仕事を終えた結論は、

「わかんない」

 この一言に尽きる。

 だって、普段だって、何千人とすれ違う人達に、どれくらい注意を向けているかと言われたら、全く意識していないと断言出来る。道端の石ころと同じだ。

 これがもっと田舎で、道を歩いている時に会うのが数人とかだったら違うんだろうけど、はっきりいって、秋葉原の人口密度は半端じゃない!!

 多すぎる存在は、全体としてひとつとしか認識出来ないんだと思う。ほら、しらす干しだって、柿ピーだって、一つ一つの味に注意なんてしないでしょ? きっと多くの人は、柿ピーの中に、一個や二個オカキが紛れていても、気付かず食べちゃうに違いない。オカキじゃなくてオカピーだったら気付くだろうけど・・・・・・

 話がそれた。

 つまりは、行き交う人、一人一人すべてに意識を集中するなんて、普段やらないことをやらされたおかげで、脳みそがオーバーヒートしそうだっだ。

 きっと、私の脳みそが、適度にスカスカだから良かったんだよ、きっと。もし中身がぎゅうぎゅうに詰まっていたら、今頃熱暴走してたのに違いない。

「でも、どうしようかな・・・・・・」

 私は小さくため息をついた。

 お金につられて思わずOKの返事をしたものの、どう見ても場違い過ぎる。

 そもそも、何で私みたいなごく平凡な腐女子が、こんな秘密警察みたいなことをしなくちゃいけないんだ!

 そうだ、考えれば考えるほど、頑張って続ける理由なんてない。ただ、

「スガさん・・・・・・」

 結局今日は逢えなかった。

 もっとも、逢えたら逢えたで、色々怖かったんだけど。それでも逢いたかった。

 最後にあったのは、もう、三週間以上も前のことになる。

「・・・・・・逢いたいよぉ」

 自分でも意識せず、私はつぶやいていた。

 その音の悲しさに、何だかドンドン寂しさが増していく・・・・・・

 連絡先、交換しておけば良かった・・・・・・

 こんな想いを抱くなんて思わなかった。いつでも会えると思っていた。いつでも逢いたいって思った時、すぐ傍にいてくれた・・・・・・

「スガさんに逢えるまでは、続けよう!」

 大切なことは、いつだって失ってから気付かされる。でも、まだ失ったわけじゃないはずだ!

 この気持ちは、恋じゃない。

 きっとそんな高尚なものじゃない。きっと。何かは分からないけど、でも、もっと単純な想いだ。


 あ、い、た、い、な・・・・・・


 明日は日曜日。午後一からシフトは入れてある。

 もうちょっとだけ、頑張ってみよう。

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