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14章

 それは、懐かしい景色だった。


 住み慣れた実家、子供には広すぎる庭には畑があった。

 おじいちゃんが中心となって手入れをしていて、小さな私は、土でお団子を作りながらも一緒に畑仕事するのが大好きだった。


 いつまでも続くと思っていた風景

 終わることなんて考えすらしなかった


 大好きなお姉ちゃんと、小生意気な妹と、多分意識したことは無かったけど、やっぱり私は幸せだった。


 成長するということは、何かを知ることだ。

 何かを知るということは、そこに"何かを選択する"という行為が発生する。

 何かを選択しなければならない時、もし"選択しなくても良い"という選択が出来るのなら

 人生ってもっと楽なのに違いない。

 でも、現実はそうではなくて、やっぱり何かを"選択"しなくちゃいけなくて、"選択し続け"なくちゃいけなくて・・・・・・

 だから人間って苦しむんだと思う。

 だって、"何かを選択する"ということは、それ以外を切り捨てるということ。

 じゃあ切り捨てられた"想い"は、いったいどこに行けばいいの?

 もやもやと心の中のそのまた奥に隠れこんで、ひたすら無視を続けても

 私だけは知っている。

 その切り捨てられた"想い"の大切さに

 その"想い"の苦しさに。


 だから私は胸を張って生きるんだ。

 今の私は、そうしたたくさんの想いの"切なさ"を受けて生きているのだから。


 そう、やっぱりこれは夢だ・・・・・・

 だから、だからこそ、私は覚えていなくちゃいけない。

 そう、私は私だけど、でも私は一人じゃないのだから・・・・・・


 ・・・・・・

 ・・・

「おはよう!」

 うすぼんやりした灯りの中、まどろみに包まれた私の瞳に、スガさんの優しい微笑みが映っていた。

「おはよう、ございます・・・・・・」

 私は鈍る頭をゆっくりと動かしつつ、シバシバする目をこすった。

 ・・・・・・あれ? 何か枕の感触がいつもと違う

 ・・・・・・っていうか、私、いつ寝たんだっけ

 ムクムクと湧き上がる違和感が、急速に私の意識を覚醒させる。

「って、スガさん! 何でいるんですか?!!」

 ちょっと待って!! スガさんの顔が、私の顔の50センチ前にあるぅ!!!

 反射的に立ち上がろうとした瞬間、強烈な目眩に襲われて、私はスガさんの胸の中に倒れこんでしまった。

「だめだよ、そんな急に動いちゃ」

 スガさんが私を優しく抱きしめると、頭を撫でながらささやいてきた。

「・・・・・・あの、私、どうしたんですか?」

 恐る恐る質問する。とりあえず服はいつものメイド服を着ているみたいだけど、それ以外は何も記憶に無い。

「お店に来たらね、恋ちゃん、倒れていたんだよ」

「え? 倒れて?」

「そう。で、お店の人が薬買ってくるって伝言残していなくなっちゃったんで、とりあえず寝かせて看病していたところ。街が停電で大騒ぎ状態だから、ちょっと時間がかかってるのかもしれないね」

 そう言われて見れば、確かに部屋は真っ暗だった。近くにある非常灯の灯りのおかげか、顔とかはかろうじて分かるけど、ちょっと離れた場所は、まるで異世界のように闇の中に埋もれてしまっている。

 まるで世界には、私とスガさんの二人だけしかいないみたい・・・・・・ って、そのまんまじゃんかぁ!!

「あ、あの・・・・・・ 看病って、何かしてくれたんですか?」

 私は急に不安やら恥ずかしい気持ちが湧きあがってきた。

「いや、別に大したことはしてないよ。キスしたくらいかな」

「へっ?!」

 えっ!!!???

「ほら、おでこをくっつけたらすごい熱だったんで、その風邪をひきうけようかと思って、ね」

 スガさんが妙にニッコリ笑う。私は急激に体温が上昇するのを感じた。

「えぇぇぇぇえぇ! 嘘でしょ?!」

「うん、嘘」

 スガさんがテヘっとばかりに片目を瞑る。

 真顔でそんなこと言うんじゃないよぉ!! もう、いたいけな少女の心をもてあそぶんじゃない!! まったく、そんな爽やかな笑顔でサラッと恥ずかしいセリフを吐けるなんて、なんという清々しさなんだ! スガさんだけにスガスガしいとは、さすがですなぁ・・・・・・ って、ちがう!!!!!

「さすがに意識の無い女の子を襲ったりはしないよ。さっきのは、キスしたくなるくらい可愛い寝顔だったっていう意味だよ。実際には、膝枕して頭を撫でていたくらいかな」

 そうだ! 言われてようやく違和感の正体に気付いた。さっきから、やけにスガさんの顔が近い、というか近すぎるなぁとは思ってたんだ・・・・・・ っていうか、寝顔をずっと見られてたの?!

「・・・・・・あ、ありがとう、ございますでしたです・・・・・・」

 うわぁ、恥ずかしいよぉ。変な寝言喋ってなかったかなぁ? ヨダレとか垂れてないよね? っていうか、意識した途端に頭のクラクラがどんどんひどくなっていくような気がする。なんだろ、これ?!

「ほら、無理しない」

 スガさんの手が、私の頭を優しく包み込み、再びひざの上へと導いてくれる。慌てふためく心とは裏腹に、私の体は微塵の抵抗も出来ず、されるがまま、ポフッとスガさんのひざの上に収まってしまう。

 うぅ、恥ずかしいのに、恥ずかしいのに、体が動かないよぉ・・・・・・

 まるで昔からの定位置であるかのように、身じろぎすら出来ずに膝枕されてしまった私の体に、スガさんは着ていたカーキーブラウンのジャケットを掛けてくれた。

 そして、そっと私のおでこに手をあてる。スガさんの冷たい手の感触が、火照った頭にとても気持ち良い・・・・・・

「ありがとう」

 その気持ち良さに絆されて、自然と感謝の言葉が出てきた。さすがに今度はトチらない。

 緊張にこわばった体の筋肉が緩んでいくのを感じる。不思議なほど、あったかい想いが、心の中からじんわりと溢れ出てきて、止まらない。

「何だかこうされていると、すごく落ち着くの。なんでだろ? ねえ、スガさん。私、ずっと前にスガさんと会った気がするの。変な話だよね」

 スガさんが、変わらず私の頭を撫でてくれる。

 サワサワ、サワサワ

 なんだか眠くなってきた・・・・・・

「変じゃないさ。ありがとう。でも、今は、もう少しお眠り」

「うん、あのね、すごく気持ち良いの・・・・・・ お願い、ずっとそばにいて・・・・・・」

 熱のせいか、意識が朦朧としていく。

 でも、ずっとこのままでいたいな・・・・・・

「ああ、約束するよ。未来永劫、俺がお前を守り続ける・・・・・・」

 どこかで、そんな声が聞こえたような気がしつつ、私の意識は旅立っていった。


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