二
「ぐちゃぐちゃじゃーん、大丈夫?」
感情の入れられていない言葉が飛んでくるだけで、誰もその場の片付けを手伝おうとしない。
心配するくらいなら、手伝ってくれたら良いのに。
落ちた教科書を拾い上げ、もうすっかり折れ目の付いてしまったページを、一枚一枚伸ばす。
教科書をロッカーに仕舞い終わると、机の中に詰められた、べちゃべちゃの雑巾を引っ張って床に落とす。
雑巾や机の中からは、鉄の臭いが強く臭ってきた。
バケツを取り出して、丁寧に水を絞っていく。
それから水を絞り出した数枚の雑巾を使って、床を拭く。
ついでにちゃっかり机の掃除をした。
それから掃除の時間にも、嫌なことはある。
「浅倉の机の周りとか、掃除したくねー」
と、平気で机を避けていく。
後ろに下げてくれる人もいない。
だけど一つ、良い事を思い付いたと思った。
「い、良いよ、掃除」
声を大きめに出す。
「は、浅倉が喋った~。」
「だって朝、お水をいっぱいぶちまけて、お掃除してくれたじゃない……!」
これは良い言い返しだと思って明るく言ってしまったけど、男の子達は、
「っ……は? きも」
と言うだけだった。
失敗したのかな、と思った。
放課後は、いつものように図書館へ行く。
いじめについて書かれた本を読んで、どう言うものかを把握できるようにがんばった。
こんなことをしているなんてクラスの人達が知ったら、もっといじめられるだろう。
だけど、いじめられるくらいなら、しっかりいじめの事を分かって、自分で何とかしたかった。
ある時、クラスの人達が来てもバレてしまわないように隠してやっていたはずだったのだが、本を開いたままで寝てしまっていたらしかった。
「……ねぇ、君。」
それに気がついたのは、柔らかな男の人の声に、上から起こされたからだった。
「………………!」
ここまで来ても、いじめをやめないクラスメートかと思って慌てて起き上がった私は、目の前に座った男の人にとても驚いて、言葉を失った。
「あ、の……」
学年で色が分けられたネクタイは、青色の、二年生の色をしていた。
自分より一つ上。
「二年生……」
「そう。君は、一年生だよね。」
「……はい。」
「席を探してたら、これが目に入って。」
と、自分の腕の下からはみ出して丸見えの、いじめの本を指差した。
「ちょっと気になって、起こしちゃった。」
「ごめんね。」と素直に謝ってくれる良い人だとわかったので、少しだけ心を許す気になった。
でもこれが、一番初めの友達だったこと。
今の私は、何も気にしていなかった。