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異世界召喚側の憂鬱。

作者: 朔夜伸影

センター試験の前々日、「出陣式」という名目で久々にクラス全員が教室に集まりパーティをしていた。ケータリングや実家からの差し入れだけでなく、女子力を見せ付けるための手作りな料理や菓子が大量に持ちこまれた。

しかしすでに開始から90分が経過して、もうまばらにしか残ってない。一体感と高揚感の中、校歌でも歌って〆ようと言う時にそれは起きた。床と天井に紫電が走り、幾何学模様な魔法陣が浮かぶ――――勇者召還、教室にいた全員が現世(うつしよ)から消失した。



◇◇◇◇◇



ラピス王国、玉座の間は魔力反応の煙の中に多数の人影を見てどよめき立っていた。

「勇者召還、成功しました。」

ローブを纏ったスキンヘッドが杖を掲げて高らかに宣言する。

参列者から歓声と拍手が巻き起こる、煙が薄まり視認できるようになったところで、一段高い玉座から静かにするよう手を挙げてに制した。

トランプ絵札のK(キング)そのままのロン毛にヒゲは嫌いだが、伝統とか格式とか五月蝿いので我慢してる。この毛皮コートの正装にしたって今は夏だ。恐らくもう亡くなっているだろうが決めた奴をぶん殴りたい。おまけに普段は魔法で空調しているのに勇者召喚に専念したのでうだるような密室サウナ状態。冒険者に戻って酒場で冷たいエールを(あお)りたい。しかし今は王としての仕事をしなければならない。

「おお、よく来てくれた勇者殿!!」



勇者たちの代表だろうか?女性の中で一人だけ異なる服を着た者が一歩前に出た。深呼吸をしてから良く通る声で発言した。

「私は(あずま) 和泉(いずみ)。この子達の先生です。これは一体どういうことでしょうか?」

参列者から勲章を下げたヒゲが飛び出して立ちはだかる。

「控えよ王の「かまわん」」

ウザいよおべっか大臣。恭しく礼をして引き下がってるけど、勇者達が機嫌を損ねて暴れだしたらどうするつもりだ?


「余はラピス王国の王、ラピス=ラズリ16世である。誘拐同然に勇者として呼び出した事をどうか許して欲しい。だがこの国、この世界は魔王の台頭で滅亡の危機に瀕しておる。どうかそれを理解して協力して欲しい。」

「その3つの願いを叶えたら魂でもくれんのか?あぁん?」

唯一金髪な男が前に出て睨み付ける。

またしても飛び出しそうになる大臣ズを手で制する。

「そうだな。魔王軍がこのまま侵攻して城に来ればどの道余は殺される。余の臣下でもなく国民でもないものを、無理やりあの魔王と戦わせようと言うのだ。さらに死地に赴くならば帥らの中にも犠牲者が出るかもしれぬ。それに報いるためには金銀を山ほど詰んでも明らかに足らぬだろう。余の命が欲しいと言うならばそれも良い。」

「わが王はなんと慈悲深い。」「我が代わりに。」「いや我らも命を捧げねば。」

「ならばこそ王の命をまもらねば。」……。

アズマと名乗った者が金髪を止めながら小さく手を挙げ発言を求めたので、再度手を挙げて参列者を黙らせる。……が止まらない。

「ええい、静まらんか!馬鹿者ども!!」

怒鳴りつけると水を打ったように静まる。


「すまんな、アズマ殿。発言を許す。」

「相談する時間が欲しいのですが、よろしいでしょうか?」

「かまわんよ。ただしこの場で頼む。こちらの世界について聞きたい事も山ほどあるだろう?」

「ありがとうございます。」

「大将軍と魔導長、15名ずつ残して他は下がらせよ。魔導士達は疲れてる所悪いが、前線復帰転送と空調を頼む。国庫のハイマナ薬の使用も許可する。」

「「ははっ。御意のままに。」」

「侍女長、勇者殿にテーブルと椅子を。それから冷たい茶を、警護も含めた人数分頼む。余と勇者殿には水差しと菓子付でな。」

「畏まりました。」

「それ以外の者は下がれ。」

「しかしそれでは……。」

「大臣、心配するのも解るが警護もいる。それに一々口を挟まれたら相談も進まん。」

「……仰せのままに。」

「結果は後で報告させる。聞き耳立てたり余計なことはするなよ。」

手を振って退室を促すと渋々と退出してくれた。



◇◇◇◇◇



3分とかからず侍女長は侍女10人とカートを引き連れて戻ってきた。カートにはお茶と菓子も忘れていない。勇者達はすでに立ち話で相談を始めていた。

「勇者殿。すまないがテーブルと椅子を並べるので場所を開けて欲しい。それとアズマ殿、こっちに来てくれぬか?」

「はい?」

「この中から5つ水差しを選んでくれ。」

二台のカートに20個ずつ乗った葢付きの水差しを指差して促す。アズマは意味が解らないという顔をしているので続ける。

「ただの毒味だ。余ではなく勇者殿の為のな。」

狐につままれたような顔は相変わらずだか、これそれと5つ選ぶ。侍女長に目で促すと最後に選んだポットとカップを持って来させた。

「先に戴くぞ。」

侍女長に注いで貰って護衛が止める間もなく一気に飲み干す。魔法でキンキンに冷えていた。カーッと叫びたいのをグッと堪える。

「うむ、美味である。護衛も暑かろう交代で飲ませてやれ。勇者殿はテーブルの用意が出来るまで少しだけ待ってくれ。」

「「「「仰せのままに。」」」」

侍女長と3人の侍女がアズマが選んだ残り4つのポットを持って護衛の間を駆け回る。残りの侍女たちは壁収納から部品を取り出し、テーブルと椅子を組み立てに取り掛かっていた。

「それから勇者殿、暑かったら上着を脱いだり開襟しても構わんぞ。」

「へぇ、話せるじゃねーか。」

言われるまでもなく学ランのボタンを全開にしていた金髪男から声があがる。

「こちらは頼む立場だから当たり前だ。食事や用足し、他に要るものがあれば遠慮なく侍女達に頼んでくれたまえ。」

手酌でもう一杯飲んだところで一息ついて、ジャムを塗った焼き菓子を一つつまんだ。これは渋い茶に良く合う。勇者達もおそらく気に入ってくれるだろう。



◇◇◇◇◇



第四次人魔戦争――――有史から4回目の魔王との戦争は10年に及んでいた。戦争の長期化でじりじりと人類側押され始めた。何しろ魔王側は生まれて3年で十分に人が殺せる魔獣やオーガが文字通り量産される。一方で人類側、最短の人種でも一人前に育てるまで15年はかかる。エルフやドワーフは長寿な古強者(ふるつわもの)が奮戦しているが、子供ができにくく回復力がないに等しかった。


そして3年前、第二次人魔戦争で使われたと言う「勇者召喚」を500年ぶりに行う事に一縷の望みを託すことになったが、6回の失敗を重ねることになった。「勇者召喚」に協力し立ち会ったというエルフは第三次人魔戦争で家族や弟子と共に亡くなっており、記録自体も虫食い状態だったからである。

6回の失敗のうち5回は不発、うち1回は勇者本人ではなく本の山が召喚されていた。その中には勇者を書いた『異世界転生ライトノベル』が多数含まれていた。


解読は困難を極めたが、紙と印刷技術の解析よりもその内容が重視された。なぜなら勇者の簒奪を恐れたり、兵器として蔑ろ(ないがしろ)に扱ったが故、被害が拡大しただけでなく、勇者と敵対して召喚した国が少なからず滅んでいるからである。この事実は秘匿され王である自分・大将軍・魔導長・侍女長・教皇、それと翻訳に携わった者しか知らない。


我々は同じ失敗をする訳にはいかんのだ。すでに賽は投げられた「帰還方法も定かではない」と言う問題を抱えてでも先に進むしかない。



◇◇◇◇◇



ヒゲの大臣は自分用の執務室に戻っていた。

「大臣様、勇者達はどうでしたか?」

従者から差し出されたコップ入りの温い水を一気に煽った。

「どうもこうもない。男15人、女16人。師を自称した女でさえ剣や杖どころか農具さえ握ったことがない素人だ。手を見れば解る。」

右手の奇妙なところにタコができていたが所詮小娘だ、気にすることもあるまい。

「それ以外の30人はもっと酷い。肉付きはいいから女は別の使い道もあるが、男はオークの餌にもならん。あいつらは固い筋肉が好みだからな。」

「しかし、神の祝福と呼ばれるユニークスキルには十分注意すべきでは?」

「あんなものおとぎ話だ。そもそも別世界から呼び出した勇者ではなく、何故我々に神は祝福を与えてくれないのか?おかしいではないか!」

憮然として、叩き付けたい衝動をぐっと我慢してコップを差し出すと従者がお代わりを注いだ。

「それでは、このまま勇者達を放置するのですか?」

「そうはいかん。王の様子も明らかにおかしかった。早いうちに手を打たなければ……。」

「はぁ。」

「他の大臣を呼んできてくれ。」

「ははっ。」



そう言えば王はやたらと俺や他の大臣を追い出したがっていたように見える。そして『聞き耳立てたり余計なことはするなよ。』との念押し、これは別行動をして様子を探れと言うことではないだろうか?あるいは勇者のユニークスキルで脅されて、既に王が傀儡になっている可能性すらある。


前線から魔導師を引き抜いて勇者召喚儀式を1週間行った。計画された遅滞戦闘で自陣に引き込み、現在は魔導師復帰に合わせた包囲殲滅作戦が現在進行中だと言う。おかげで城の防備は何時もよりかなり緩い。

外周は近衛隊長を除けば2年以内の新兵が50人ほどいるが、4組交代制で常に張り付いているのは半分の24人前後だ。問題は王座の間で警護している大将軍に魔導長・加えて配下の30名だが、これも全員が不寝番ではなく二交代はするだろう。日の出と共に朝駆けの不意打ち。眠気で集中できずに魔法が使えない魔導士なぞひ弱な鈍器使いでしかない。侍女隊は護身術に通じていると言う話があるが、物の数には入らん。勇者達は戦闘の素人、自分の道程を決める相談で一睡もできない可能性が高い。しかしこちらの兵も足りないか。呼び出した大臣が全員応じて私兵を集めてもやっと五分以上ってところだろう。


到着した他の大臣とも相談して、私兵を持つ有力者に大将軍と魔導長名義で「王を勇者から救出せよ」と檄文を屋敷に投げ入れる事に決めると行動を開始した。



◇◇◇◇◇


検査の結果、勇者達のユニークスキルは主に諜報・索敵・情報伝達などの便利系スキルだった。


具体的には……

内緒話:許可者同士の遠距離思念通話を可能にする(視覚共有などの映像付き)

夢見語:対象者の心を読む。ただし一度会った事がある事、一定距離範囲内かつ相手が眠っている事などの条件が付く。

具現武装:兵器・軍事関連限定で知っている物を呼び出し操縦することができる。フィクションも可。

豊年満作:農業学酪農学マスター。農作物限定で成長促進、品種改良、病害虫除去、耕作放棄な荒地復活もできる。

チェックイン:異空間のホテルに通じる扉を構築する。食事は出ないが軽食や飲み物の自販機はある。滞在費を含めた代金は入室した当人のMP消費で支払われる。スキル持ちが消費するのは扉の出し入れと自分で施設利用したときのみ。

幻影術改:幻影術の強化版、3D映像かつ擬似4DX

天童:なんでもは知らないが、時間を掛ければ知らない事も知る方法に辿り着く。結果的に天を司り全てを知る。

……などなど


これが判明した時点で「帰還方法が定かでない」事をゲロった。いずれ寝た時に確実にバレてたよ。隠蔽してそうなった時の方が不味い。

勇者達は恐慌状態に陥ったが、天童持ちが「試験前日に戻れるように俺が何とかする、折角時間ができたんだついでに試験勉強もしろよ(笑)」の一言で収めてくれた。ほんと助かった。


おまけに具現武装や天童もヤバかったが、もっと酷い奴がいた。


GM(ゲームマスター):異世界の理に干渉できる。スキルレベルupで権限拡大。


これさ、どう見ても召喚で届いた「らのべ」な本の中に出てきた、無敵になったり一瞬で麻痺らせたり伝説の武器を呼び出す能力だよな。権限拡大して世界崩壊させて消去とかしないよな。



◇◇◇◇◇



現在は具現武装持ちが出した「みりめし」というもの中心に勇者達がスキルで出した食料で夕食しながら歓談中だ。

異世界の料理うめぇ。変わった調理法に加えて、塩もコショウも砂糖も惜しみなく使われてる。しかも高級料理でないと言う。昼に飲んだ冷たい茶も良かったが、緑茶というのも実に良かった。そしてコメの飯!やわらかくて噛めば噛むほど甘みが出る。豊年満作持ちが言うには、この世界では南方の島国に自生していて種子さえ持ってくればここでも作れるという話だ。

料理についてもっと情報が欲しいがこっちの世界についても紹介しなければならんな。王位に就く前の話にするか。継承序列が低かったのと格式とか面倒くさくて城から逃亡して冒険者をしてた。大将軍・魔導長・侍女長とここにはいない教皇はその時の仲間だ。世界放浪していた話を交えて、この世界を説明を始めた。



◇◇◇◇◇



そんな中、用足しに出ていた夢見語持ちと案内をした侍女長が戻って来る。

「王様。召喚の時にいたヒゲと勲章を付けた大臣なのですが……明朝私達を襲撃する計画を立てているようです。」


具体的な計画や檄文についても誰に送ったかも実名付きで説明してくれた。


「……って事になっています、どうします?」


あのクソ大臣絶対コロス、慈悲はない。勇者達を敵に回したら魔王が来る前に国が滅ぶだけでなく、世界その物が滅ぶかもしれん。しかし戦うことは簡単だ、問題は戦闘向きではない勇者を守りながら戦う事だ。もちろん騙されてる友軍も殺したくない。そのためにも増援も阻止したい。


勇者達のユニークスキルリストを見て作戦を考えることしばし。


「すまんが確認したい事がある。まず直足(なおあし)殿の『チェックイン』だが、扉は自由に出したり消したりはできるのか?」

「ああ、俺が中に入った状態でもできるぜ。中からは俺が扉を出さなくても出てこれるから、閉じ込める事はできないけどな。」

「もう一つ、『チェックイン』の中から外へ多々良殿の『内緒話』は使えるか?」

「そうね、まだ試してなかったわ。出してくれる?」

「OK」

チェックイン持ちが扉を出すと、内緒話持ちがスタスタと入ってゆく。

あの自動ドアってのもいいな。


『あー、テステス。みんな聞こえる?』

『大丈夫のようだ。』

他の勇者達も頷いてる。

『扉消した状態でもできるかな?リーチ君お願い。』

利市(としいち)だっての。オラァ、消したぞ。』

『ありがと、問題ないようね。ちなみに通話状態なら視覚共有で中から外の映像も見れるわ。』

扉があった場所から内緒話持ちの少女が出てきた。

「これなら行けそうだな。では作戦を説明する。」



◇◇◇◇◇



城下町は寝静まっていた。

昼間は『勇者召喚成功』の祝いで酒や料理が振舞われ大騒ぎ。しかし今は兵どもが夢のあと、泥のように眠っている。そんな中、屋敷から出ようとする集団があった。


「日の出までまだ十分に時間がある。急ぐ必要はない、だが静かに進むのだ。」

大臣から偽檄文を受け取ったアゲート公爵とその私兵集団である。

「しかし、この話本当でしょうか?」

「ワシも勇者召喚に立ち会っていた。ラピス王の様子がおかしかったのは確かだ。大将軍殿や魔導長殿まで居て遅れを取るとは思いたくないが、何しろ相手は勇者だからな……。」

「はぁ。」

「気が乗らないのも解る。だが大将軍殿と魔導長殿の意に逆らうわけにはいかん。彼奴ら(きゃつら)は王が即位する前から10年以上の付き合いだと聞いている、裏切る事はあるまい。」


「「……!!」」

わき道から飛び出す影に、私兵は条件反射的に剣を手に掛け公爵を守る布陣を取る。

「お静かに願います。」

片膝ついてこちらを見上げるメイド。なんでメイド?なんで?

「そちらはアゲート公爵殿とお見受けしますが、相違ありませんか?」

「そうだ。」

「失礼しました。私は城の侍女隊所属の者です。こちらの書状、ラピス王・大将軍・魔導長の連名の伝言をお受け取りください。」

どこからか取り出した羊皮紙の筒が差し出される。

私兵の一人に目配せをして取って来させ蜜蝋を確認した上で開封。

「これは!……なんと言うことだ!!」

大臣が偽手紙を出したこととその内容、城のほうは既存戦力で対応すること、大臣の逃亡阻止のために屋敷に戻らずそのまま街の南門を封鎖する命令、そして国王も含めた3名の署名と城内で見たことあるメイド……間違いなく本物の手紙だ。

おのれ大臣。偽手紙で騙すとはなんと言う卑劣。

「ご返事はいかが致しましょう?」

「御意のままに、と伝えてくれ。おいお前ら、転進して南門に向かうぞ。」

「畏まりました。それでは失礼します。」

シュタッと音だけ残して、メイドが消えた。


「なんなんですか、あれ?」

呆然として時が止まったような静寂の後、私兵の一人が口を開いた。

「名乗った通りだ、王城の侍女。それ以上でもそれ以下でもない。説明は南門に着いてからする。急ぐぞ。」

「「「ははっ。」」」



◇◇◇◇◇



『こちらスノウ。アゲート公爵の説得に成功しました。』

『了解よ、次はクリソプ子爵が近いかな?シュウちゃんガイド出して。』

『あいよ。クリソプ=レーズ子爵だな。』

シュウちゃんと呼ばれた少年がコンソールを動かすと、スノウの視覚にクリソプ公爵が居る方向と距離が表示された。屋根伝いで飛びながらの人探し、特に夜は非常に疲れる。念話にせよこのガイドと言うのにせよ、奇妙な感覚だがとにかく便利でありがたかった。

もう勇者たちだけでいいんじゃないかな?という思いが浮かんだが、(かぶり)を振って否定する。王にせよ勇者にせよ手の長さも数も足りない。その為に我等がいるのだ。


『目標視認。これよりクリソプ子爵に接触します。』

『説得は順調に進んでいる。あと少しだ。頑張ってくれ。』

『『『『『仰せのままに。』』』』』

王からの言葉に呼応して説得活動中の5人の念話がハモった。

夜明けまであと90分。急げば30分くらいは休めそうだ。




◇◇◇◇◇



王城、防音小会議室前

「まぁこんな感じやね。気絶してるだけやから大丈夫。もし起きたときに毒が残って目や喉が痛かったら顔洗ってうがいしたら治るで。」

「光と爆音で目と耳を封じ、さらに涙と咳を止まらなくする毒霧。止めに電撃で気絶させるのか。」

具現武装持ちが出した武器の説明に納得がいかなかった大将軍と無理やり付き合わされた魔導副長は犠牲になったのだ。スタングレネード・催涙ガス・スタンガンの3連攻撃の犠牲にな。


「魔導長、こいつを魔法の障壁とか護符で防げるか?」

「無理じゃな。この金属の塊が何か解っていても目と耳を塞いでたら戦えんぞ。毒霧も魔導師の天敵じゃ。咳なんぞしてたら呪文詠唱どころか集中もできん。」

「そいつは良かったなぁ。ウチらは魔法について素人やから。」

「あひゃひゃ。異世界の武器・戦術は実に面白くて興味深いな。魔法で再現できないか研究したいぞい。」

「最後のスタンガン、電撃で気絶させる部分だけでも魔法でやってくれると楽なんやけどなぁ。」

「広範囲な雷魔法ならあるから、加減さえ解ればすぐにできるぞい。」

相変わらず悪趣味な。おかげで冒険者時代には何度も窮地を救われたが、こいつだけは敵に回したくない。

「ありがと。一人で何十人も気絶させるのは無理やから頼むわ。」

「あとは作戦通り、通路を塞いで中庭への誘導路の設置を頼む。」

「正門から中庭に向かうよう廊下をストーンウォールで塞ぐのじゃな。任せろ。」

魔導長は護衛を残して作業に向かった。


最初は侍女隊に檄文が偽物と言う親書を有力者が館に居るうちに届けさせ増援を止めて、その上で勇者達を『チェックイン』で避難させる。それから玉座の間で迎撃するという作戦を立てた。しかし勇者達の「もっと楽な方法で勝てる」言う提案で却下された。

侍女隊が援軍が屋敷から出るのを待って手紙を渡して転進させたのも、増援が出ているように錯覚させて大臣の激発を中止にさせない為である。


「万一あれがだめでも、中庭に閉じ込めて上から攻撃すればこっちが負ける要素はないやろ。」

「道理にかなってるな、なるほど異世界の戦術か……。」

「でもウチの世界はなぁ、戦争している国は仰山あるんやれど、ウチの国は70年も戦争してないんや。こっちで勇者なんて言われてても実際に殺し合いをやったことない。戦史を学んだり限りなく現実に近い戦争ごっこ遊びしかやっておらんのや。」

「『げーむ』って奴か。こっちでも子供は棒切れで打ち合って遊んでいる。人魔戦争が始まる前は大人も集団で模擬剣闘したり盤上で戦術を競うのが流行っていた、異世界も変わらんよ。それに(いくさ)がないのは良いことだ。」

「せやね。早いとこやっつけて、この世界をゆっくり見物したいわ。」

「おいおい良いのか?大切な試験があるのだろう?」

「ああそっちは心配無い。(あがた)が天童で何とかすると言ったら絶対何とかする。」

「……そうか、信頼しているのだな。」

その当人は「その作戦なら問題ない、任せた」の一言で書庫に篭って魔法関連の情報収集に没頭してる。

「その代わりウチらで手助けしたり邪魔が入らんよう何とかするんやけどな。王様達も帰れるよう手伝ってくれるんやろ。」

「ああ。」

「やったら、無理やり連れてきた事も反省してるようやから許したる。頭ごなしの命令で無く、協力のお願いなら聞いたる。あんま無茶言うようなら、ごほうび請求したり作戦修正するけどなぁ。他の連中もあんたを責めても帰れないのは理解してると思うし、少なくとも一宿一飯分くらいは義理は通すで。」

「まだ半日しか経ってないけどな。」

「せやったなぁ。」



◇◇◇◇◇


作戦室と化した玉座の間に部下を引き連れた魔導長が戻ってきた。

「ストーンウォール設置終わったぞい。」

「よくやった魔導長。大臣が来るまで休んでていいぞ。」

「折角だから直足(なおあし)殿の厄介になるかのう。」

既に帰還した説得要員の侍女は、先行して風呂と冷たい菓子で疲れを癒してるらしい。

なお侍女隊が帰ってきた時点で、不幸な事故が起きて視覚共有は一時封鎖された。

「念のために言っておくが、酒は朝まで買えないから自販機壊すんじゃねぇぞ。」

「うひゃひゃ。そいつは残念だ。大臣とっ捕まえてからのお楽しみにしておくぞい。」

魔導長は直足(なおあし) 利市(としいち)のユニークスキル「チェックイン」の宿屋に消えていった。

ドアマンとして残った彼以外の勇者はほとんど中で休んでる。

気絶から復活した大将軍と休んでない勇者は中庭での待ち伏せ準備中だ。



俺はというと、直前ではあるが近衛隊長を叩き起こして作戦を説明していた。

「それにしても、跳ね橋降ろして門番もなしで良いのですか?」

「正直篭城戦は分が悪い。城側の兵力も少なければ増援も期待できない。むしろ大臣に市民を人質にしたり扇動する時間を与えないことが肝心だ。だから王城に入れてしまった方がやりやすい。さらに門番を残せば、目撃者として確実に殺されるぞ。隊長が自らやりたいと言うなら止めないが。」

「それは遠慮させていただきます。」

「そうだろう。誰にとっての不幸か残ってるのが新兵で、昨日は振る舞い酒で馬鹿騒ぎもした。居なくても『サボってる』と勝手に思ってくれるさ。」

「それで、我々近衛は何をやれば?」

「半数は正門と正門から中庭に向かう通路を避けていつも通り外周警護。残りは大将軍・魔導長の部下と合わせて裏門から出て城外正門近くで伏せていてくれ。」

「大臣が入城したら、正門を抑えて中庭に追い込む訳ですな。」

「ああ。誘導はこっちでやるから、増援に見せかけて追従するだけでいい。もし反転して逃げるようなら交戦して中庭に押し込め。中庭に追い込んだらストーンウォールで正門側を封鎖。混戦状態で中庭に突入しないようにだけ気をつけてくれ。」

「御意っ。」



◇◇◇◇◇




大臣達は王城正門に向かっていた。しかし正門前の大通りに潜んでいるのに檄文を飛ばした有力者が合流する気配が無い。今居るのは執務室で直接交渉した者と私兵併せて約50名。

「増援が館を出たと言う報告がいくつもあるのに、おかしいではないか?」

「中止すべきだ!」

「だが……見ろ!王城正門に門番の姿がない。猪武者が先行したに違いない。」

これは勇者の責任にしてラピス王を排斥する好機だ、失敗しても大将軍と魔導長に責任転嫁するか「偽手紙で騙された」で済むではないか。

「我等も突入して、ラピス王を勇者から保護する。取り押さえられない時は……いいな。」

「「「応。」」」

大通りに飛び出し一気に正門に詰め寄る。後続の応援がこちらに向かっているのが見えた。いける!いけるぞっ!そのまま城内に駆け入ると剣で打ち合う交戦音が聞こえてきた。

「居たぞ!ラピス王を守り参らせよ!!」

大将軍の声だ!予想通りラピス王は勇者に……。ストーンウォールが大量にあるのは魔導長も参戦しているのか?!

「ラピス王を保護すれば褒美は思いのままだ!遅れをとるな!」



大将軍を追って長い廊下を抜けて中庭に出る。その奥に待ち構えていたのはラピス王・大将軍・魔導長、そして昼間見た勇者達だった。

「ぃよう大臣。そんなに息を切らして病気か?」

「ラピス王、ご無事で何より。」

「その後ろの連中はなんだ?魔王軍でも襲来したか?」

「いえ大将軍と魔導長から、勇者共が反乱したという手紙を受けまして……。」

「大将軍、魔導長そんな物出したか?」

「まったく心当たりが無いですな。」

「勇者殿、反乱を起したか?」

「んなこたぁない。」

「楽しくお茶会してた位仲良し。」

他の勇者たちも頷いて答える。

「どうした大臣、顔色が悪いぞ?」

「……。」

やられた。完全に逆手に取られた。

「お前は昔から(はかりごと)は得意だが、相変わらず人を見る目も無ければ、腹芸も駄目だな。」

「王は勇者共に騙されてるのです。」

「とは言ってもなー。勇者殿が俺を陥れる理由もメリットも無い。」

「それは勇者共が連れてこられた事を恨んで、簒奪を……。」

「無理やり異世界に連れてきた事は気に入らないけど、恨んではいないわ。恨んだところで帰れる訳でもないもの。」

「簒奪とか面倒くさい。ああ見えて王様は政治や人魔戦争で苦労してるみたいやからな。」

「俺たち勇者が協力しあえば苦も無く王城から逃げられる。逃げた先で、この異世界でも今の王様より良い生活できるぞ。」

「……という訳だ。どうする?」

「乱心した王をお諌めせよ!勇者は打ち倒せ!!」

「「「応っ。」」」

「交渉決裂だな。」

その合図で勇者とラピス王らの姿が光の粒子になって消えた。



◇◇◇◇◇



『幻術、思った以上にうまくいきましたね。』

『こちら近衛隊、ストーンウォールによる中庭封じ込めに成功しました。』

『視点移動してもちゃんと別角度で見える立体映像な幻術って一体……今度何か映画上映してくれよ。』

『大将軍は将軍辞めても役者で食っていけるな。』

『逃げたフリで誘い出すのは、冒険者時代から得意でしたよ。』


廊下にいた大将軍も含めて中庭の俺も勇者達も全て幻影改で生み出した偽者。

本物は屋上で幻影改で生み出した大臣らのリアルタイム映像を相手に並んで演技していた。


『はいはいお口チャックしてお仕事お仕事、作戦開始や。魔導長は煙が行き渡ったら雷魔法頼むで。』

『うむ。心得た。』


中庭に面した屋上から一方的にスタングレネードと催涙弾を打ち込む作業がはじまった。




◇◇◇◇◇



長い夜が明けて大臣たちの無血鎮圧に成功した。

大臣達はひとまず地下牢行き。とりあえず生かしておいて帰還魔法の実験台にするらしい。

大臣付の私兵集団も地下牢に放り込んであるが、事情聴取した上で城下からの追放になるだろう。王への反逆は死刑が通例なのを考えるとかなり軽い処分だ。


勇者達はと言うと帰還魔法開発を急ぎつつ確実にする為に遺跡調査を行う、その為に侵攻して遺跡を領地にしている魔王軍を追い払う。「帰るついでに魔王軍と戦う」という本末転倒ではあるが改めて全員の協力を確約した。


この内乱の後始末、最前線の包囲殲滅作戦、連合国への勇者に関する報告と根回しなどなど

やる事は山積みで先が思いやられる。

とりあえず今は休もう。せめて昼くらいまでは寝かせてくれ。



◇◇◇◇◇



勇者達が魔王を篭絡し共存案を通して人魔戦争を完全に終結させるのは、また別の物語である。



「勇者の帰還方法が定かではない」のは「魔王を撃退した、めでたしめでたし」で終わっている文献が殆どなのと、元の世界に戻れたか確かめる方法がないからです。


王様:両手剣な魔法剣士、30代後半♂、出奔して冒険者やってたが第四次人魔戦争で王族が次々に倒れ繰り上がって王座に就いた、できれば全部ぶんなげて冒険者に戻りたいが国民や部下のしがらみが断ち切れない、大臣ズとは出奔前から仲が悪い

大将軍:片手槍+盾なタンク、40代前半♂、動く筋肉の壁というか脳筋、声は多分玄田哲章

魔導長:土風闇な地味系、40代後半♂、デバフ中心の絡め手が得意、直接攻撃な強力な魔法も使えるが面倒くさがりを前面に出し温存する傾向、雷皿♂最低だな、スキンヘッドにアゴヒゲ、DT

侍女長:弓+ナイフのスカウト系なハーフエルフ、魔法もちょっと使える、年齢不詳♀、外見は10代後半、王様ラヴだが異種族問題があるので秘めている、クーデレ、ポニテ、並乳

教皇:スレッジハンマー持ちな撲殺ヒーラー、ぴぴるぴるぴる。パーティ最年少で20代後半♀、大将軍の嫁、普段は優しい聖母だか怒らせると物凄く怖い、おっぱい


言うまでもなく、侍女隊裏の顔はお庭番な諜報部隊です。

王城に出入りしている者には公然の秘密になっていますが、そうでない者は知りません。


最後まで読んでくれてありがとうございます。

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