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【六話】 少年、鍛冶屋にて

 ドラグはとある鍛冶屋に来ていた。


 なぜかというと、シャルとメインストリートを歩いていると、シャルが不意にこの店の前で立ち止まったのだった。

 メインストリートに面しているこの店の見た目は、飾り気がなく、儲かってそうにも見えないが、とっても大きく見え、また、何か特別なものを二人は感じていた。

 看板には「武器防具何でもお任せ」や「素材買取行っています」なんてことは書いておらず、ただ店の名前だけ、『鍛冶屋 デュイス』とだけ書いてあった。


 何かに惹かれるように二人はその店の扉を開けたのだった。


 店内は意外と狭かった。


 宿屋の一人部屋ほどの大きさ。壁には盾や剣、斧など、さまざまな武器防具が掛けられ、三つほどの防具盾に三種のフルアーマーがそれぞれ飾られていた。


 そしてその部屋のうち、扉と向かい合うところに、受付と思われるカウンターがあり、その後ろの壁にはまた扉がついていた。


 店には誰もいなかった。


「ん?まだ開店してないのかな?」


 ドラグがそういうと、そのカウンターの奥にある扉が開き、一人の少女が出てきた。


「いらっしゃい」


 どうやら店番のようだ。


 少女は赤い髪を肩まで伸ばし、前髪を後ろに流した状態で赤いチェック柄のバンダナをして髪の毛が邪魔にならないようにしていた。顔立ちや背丈からして、15~16ほどの人間だろうか。雰囲気的に無口で人付き合い悪そうであるが、職人気質といえばそうなのだろう。

 胸は・・・なかった。


 顔立ちもかわいらしく、健康的で瑞々しい少し焼けた肢体。これを見せられては、この男は黙ってはいなかった。


「ねぇ、名前なんていうの?」


 ドラグが速攻食いついた。恐れを知らない肉食系男子である。


 すると少女は恨みでもあるような目でドラグをにらみ始めた。


「そういう冷やかしはやめてくれ」

「え、あ、あの・・・」

「ここは鍛冶屋だ。鍛冶屋にようがないのならさっさと出て行っていけ」

「いや、あの・・・」

「私は鍛冶師。自分の店に、自分の腕を見込んででなく、女としての顔や体目当てで来られるなんて屈辱かつ不愉快だ!」

「すいません・・・え、鍛冶師?」


 あっさりと負けたドラグ。レベルだけは無駄に高くて、その精神、情けないものである。


 どうやらこの少女は鍛冶師であるようだった。てっきり雇われの店番としか思っていなかったドラグは少し面喰ってしまったようだ。隣にいるシャルもそのような顔をしている。


「やはりそうか。みな私のことを店番だのお手伝いだのと勘違いする」


 少女はドラグのつぶやきから勘違いされていたことを察すると、顔をうつむかせて悔しそうにそういった。

 この世界では、鍛冶師は基本男の職業だ。

 鍛冶師という職業は、力も根性も、何より武器に対しての愛情と信頼が必要だ。

 そしてそのどれもが基本、男が女に勝っている面であるためか、女性鍛冶師は滅多にいないのだ。


 ところで、そういう世界に女性が入っていくとどうなるか。

 まずよくは思われない。特に同業者には「女のくせに」とののしられ、いい仕入れのルートは教えてもらえない。

 それにドワーフなどの怪力持ちの種族でない限り、女は男に対して力が弱い。そのためか客からも「女が打った剣は弱いに決まっている」などという偏見で買ってもらえないことが多いのだ。


 それに何より、鍛冶師が主に相手する商買客は、冒険者だ。


 劣悪非道、荒くれ者の集まり、冒険好きの酔狂なものたち。そんな奴らの、特に男どもは、この少女を見て何を思うだろうか。


 先ほどのドラグと同じことを思うのではないだろうか。


 この少女は、先ほどのドラグのような輩に頻繁に出くわしたことだろう。それゆえにドラグの行動にここまでの拒絶反応を起こしたのだ。


 この少女が鍛冶師だときいてそういったことを察してしまったドラグは、申し訳なさから、一度顔を伏せ、その後、いまだに悔しそうにしている少女をまっすぐに見据えてこう話し始めた。


「急に変なこと言ってごめん。それに鍛冶師って聞いて驚いてしまったことは許してほしい。こんなにかわいい子が鍛冶師として店を構えているなんて思ってもみなかったから。」

「・・・別にいい。慣れている」


 ドラグの言葉は、少女の表情をより一層曇らせてしまった。が、ドラグはもう一言、少女に向かってこういった。本心から


「俺は一切、鍛冶は男がするもの、なんて考え持ってないよ」

「・・・本当か?」


 その一言で少女の表情が変わった。まだドラグのことは疑っているようだが、その言葉はどうやら気になったようだ。


「当たり前だよ。考えてもみれば、ドワーフの女性に対して人間の男なんて、男にとっての女よりも軟弱なものなんだし、人間の女の子が鍛冶をやったってなにもおかしくないって俺は考えてる」

「!?そんな考え方初めて聞いた」

「俺はいままでいろんなところに行ったんだけど、女性鍛冶師なんて意外といたさ。なかにはすごい名刀を打って見せた人だったいる」

「!ほんとうか!?」

「ここで嘘なんかついてなんの得になるのさ?それに考えても見てよ。店主も店員も客もむさくるしい男だけの店より、君みたいなかわいい娘がやってるお店の方が、女性冒険家にとってはうれしいんじゃないかな?」

「おぉ・・・!」


 さっきまで顔をうつむかせていた少女は、ドラグの熱弁によって、いつしか目を輝かせてドラグの方に身を乗り出すような格好になっていた。


 ドラグは本当に本心からこのようなことを言っている。先ほどの少女の悔しそうな姿に心打たれてほらを吹いているわけでは決してないのだ。

 なぜならこの男、女好きなのだから。


(女の子がいる店に悪い店はない!女の子が鍛冶師になって店を持って何が悪い!女性鍛冶師バンザイ!)


 ドラグのこの本心を知ったら、この少女はがっかりするだろうか。するだろうなぁ。


 ドラグはうれしそうな少女に気分を良くしたのか、どんどんと少女が喜びそうな言葉をかけていく。口達者な男だ。


「それに今日は、この店の武器をしっかりと見させてもらいに来たんだ」

「!?」


 この言葉の意味はなんなのか、一応説明しよう。


 武器を見させてもらいに来たというのはつまり、「君の武器が気になって来たんだ」ということになり、客である冒険者に一目おかれたという事実になる。それはつまり、「自分の武器が冒険者に認められるほどにいいものだった」という証拠でもあるのだ。


 自分の武器を褒められ、腕を認められたこの少女は、今、何を思うのか。


「本当か!?思う存分見て行ってくれ!」


 うれしいに決まっているだろう。


 思わず先ほどまでずっと緩ませることのなかったその顔に笑みを浮かべてしまうほどに少女は喜んでいた。


「そうさせてもらうよ。今日はこの子が、ここが気になる、って俺に言ってきてね。これでもれっきとした冒険者さ」

「!?」

「ぼ、冒険者・・・・!」


 嬉しそうにしていた少女に、今日ここに着た経緯を話すためにドラグは右隣にいたシャルを話に挙げた。

 そうやら少女は、背の低すぎるシャルに気づかないでいたようで、シャルを見た瞬間に驚きのあまり身を固めてしまった。

 また話に突然参加させられたシャルはというと、今まではおとなしく二人の話を聞きながらたまに相槌を打っていたのだが、ドラグの「れっきとした冒険者」というワードに驚き、そしてうれしさのあまり大口を開けていた。どれだけ冒険者にあこがれているのやら。


 すると動きを止めて固まっていた少女がすーっとカウンターの中から出てきて、シャルの前でしゃがみこむ。そして


「君、名前は」

「え?あぁ、シャルです。シャルロット・ロー・ランド」

「シャルロット、それでシャルね・・・ねぇ、私のこと『ミユ姉』って読んでみてくれない?」

「え、あぁ、えっと、はい。『ミユ姉』?」

「!?」


 シャルが首をかしげながらそういうと、少女、どうやらミユというらしいが、は何かに心打たれたように体をビクンと震わせ、そして


 ガバッ!


「「!?」」


 ミユはいきなりシャルに抱きついた。


「なにこの生き物!かわいすぎなんだけど!?しかもこれで男の子なんて!」

「ちょ、えぇ!あの!うわぁ!」


 あまりのことにドラグは唖然としていた。


 ミユの手の中で髪の毛をぐるぐると撫でまわされ、顔に体を押し付けられるシャル。その輝く金色の髪の毛は乱れに乱れ、口元をおさえられているせいか苦しそうだ。


 幸せそうなミユ、苦しそうなシャル、それを見ているドラグ。


 ドラグは何を考えているかというと。


(いいぁ、シャル、うらやましい・・・)


 やはりドラグは救いようのないアホであった。

============================================================

↑この線より下は、話とは全くの別関係になります。


今回のミユの言動、実はドラグのデジャブなんです。

「君、名前は?」は「ねぇ、名前なんていうの?」


「『ミユ姉』って読んでみてくれない?」は「『ドラグお兄ちゃん』って言ってみてくんない?」


って感じです。


実はふたり、似た者同士だったりしてw


今回も最後まで見てくださってありがとうございます。

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