【三話】 少年、幼女の正体を知る
いつもドラグがお世話になっている街の道具屋でドロップアイテムを換金した後、幼女に連れて行かれたのは大通りから細い道に入り、少し進んだところにある小さな酒場だった。
薄暗い、細い路地裏にひっそりと建つその酒場はとても趣があった。味のある木製の扉には小さな札がかかっており、そこには『集いの酒場』とかいてあった。
「ここです」
と、幼女が言い、扉を開けると、そこには人一人いないがらんとした酒場があった。
「ただいまです!」
と、幼女が唐突にそう元気に叫ぶ。
「た、ただいま?」
「あ、ここ僕の家です」
「え~っ!」
(ヤダこの子、大胆! 会ったばっかの男を家に連れて行くなんて!)
もちろん幼女にはこの変態とヘンなナニをするつもりなど毛頭ない。ドラグの勘違いである。
すると突然、
ドタドタドタッ!
酒場の奥にある、二階に続いているであろう階段をものすごい勢いで駆け下りてくる音がして
「シャル~っ!? あんたまた勝手に家抜け出して!」
幼女の瓜二つの幼女2が見参した。
どうやら金髪幼女のほうは『シャル』というらしい。
幼女2はシャルの髪を黒髪ロングにしただけのような幼女で、
「・・・双子?」
と、思わざるを得なかった、が、シャルの方から衝撃的な発言が、
「初心者のくせにオークの森なんかに一人で行って、もしものことがあったらどうするのよ!」
「ごめんなさい・・・・お母さん」
(お、かぁ?)
「お母さん!?」
「「!?」」
ドラグの突然の大声に、幼女二人の体がビクッと震える。
大口開けて唖然としているドラグをチラリと黒髪幼女が見てシャルに話しかける。
「だれ?あの人、お客さん?」
「じ、じつは今日・・・」
シャルは黒髪幼女に今日あったことをすべて話した。
「・・・という感じで、もしものことが起きてしまって・・・・」
「ほれみたことか!」
黒髪幼女、改め幼女母の怒鳴り声にシャルがびくつく。
すると幼女母はシャルをにらんでから、シャルの手を引き、ドラグの前にきて二人、横に並び、そして、
「本当にありがとうございましたっ!」
幼女母はシャルの頭を右手でがっちりとつかみ、無理矢理、自分と一緒に頭を下げさせた。
「・・・・・・え? あ! いえいえ、そんな! たまたま通りがかっただけなので・・・あ! 俺、ドラグっていいます。よろしくお願いします」
いまだに黒髪幼女がシャルの母であるということを信じられないでいたドラグは、急に目の前で頭を下げ始めた幼女二人にとまどって、なぜか自分も深々と頭をさげた。
傍からみれば、さぞおかしな図になっているだろう。
「お母さん、ドラグさんにお礼がしたくて・・・」
「当たり前でしょ!?」
「いや、全然気にしなくていいんで・・・」
「あなたはおとなしくお礼されなさい!」
「怒られた!?」
その後、幼女母は階段をかけあがると、ガチャガチャと何かを探り始め、また階段をかけおりてきて、その両手に抱えた何かをドラグの前にぶちまけた。
「うちにある金目のものはこれで全部です。どうかお引き取りを・・・」
その「何か」は、貨幣や宝石類だった。
「いつ俺は強盗か借金取りになったんだ!?」
「金でないとすると・・・地位か?名誉か?」
「どっちもいらないから!」
「じゃあ体で・・・」
「急に生々しくしないの!すぐ横に子供いるでしょうが!」
ドラグは幼女母に徹底的にツッコミをいれた。一種の才能を感じる。
ちなみに、「じゃあ体で・・・」のところで少し心が揺れたことは、ドラグだけの秘密だ。
「なら・・・」
「いや、ホントに大丈夫で・・・」
ドラグが、ホントに大丈夫ですから、と言い切る前に、不意に、
グゥゥーー
ドラグの腹の虫が鳴った。盛大に鳴った。
ドラグの顔が赤くなり、一瞬の静寂の後、三人が誰からともなく笑った。
「ごはん、まだですね?」
「はい・・・」
「食べてくれますか?」
「・・・・・・はい」
小さな店の小さな窓から見える空からは、赤みがだんだんとひいて行っていた。
~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~
「大体予想はついてるかもしれないけれど、私『パルゥム』なのよね」
「へぇ~、じゃあ本当にシャルのお母さんなんですね・・・」
カウンター席に座るドラグと向かい合うようにしてキッチンで料理をする黒髪幼女、カレン・ロー・ランドさんは食材を切りながらこういった。
『パルゥム』
亜人間の一種で、特徴はその幼い容姿といえる。身長は基本140センツまでしか伸びず、顔も死ぬ直前まで老いないという。
12歳頃の子供にみえるものが酒場で酒を飲んでいたら、まず間違いなく『パルゥム』の成人である。50歳というジジイでさえ、可愛い子供に見える。「見た目は子供、頭はクソオヤジ」である。とてもタチが悪い。
また、『パルゥム』は一様に勇敢であるといううわさもある。
「ということはシャルも?」
「えぇ、シャルも小人の血をひいていますよ。純潔ではないですけどね」
「え、じゃあハーフ・・・」
「小人と『ドワーフ』のハーフです」
「『ドワーフ』!?」
『ドワーフ』
これも亜人間の一種で、パルゥム同様背丈は小さいが、力がとても強く、とくに男は一様に素晴らしい筋肉美を持っている。女の場合はパルゥムほどではないが背の低い、かわいらしい女の子が生まれるが、普通に老ける。
というか、一様に老けやすい。男に関しては、幼いころにすぐにひげが生え、年齢が10を超えるころには立派なオジサマの完成となる。
(言われてみれば、あの小さい体でぶかぶかのハードアーマーを身に着けたまま、俺に跳びついてきたっけ・・・。普通あんだけ装備つけた状態で跳べるわけがないもんな、ドワーフでもないと)
ドラグが今更のようにおかしな点に気付くと、ふとあることに気が付いた。
「もしかしてシャルの歳って・・・」
「13よ。今年で14になるわ」
「14!?」
圧倒的に年下だと思っていた相手が自分の歳からたった3つしか離れていないという真事実を突き付けられたドラグは
「ということは俺はやっぱりロリコンじゃない?いやでもあの時は子供だと思いながらも可愛いと思ってしまったわけだからやっぱりロリコンなのか?いやでも実際には自分とそんなに離れていない歳だったわけだし、俺の本能がそれを感じ取っていた?いや、そもそも13歳はロリだったりないか!?」
顔青くしながら下を向いてブツブツ呟き始めるドラグを見て、カレンは何かを察し、ニヤリと笑った。そして
「もしかしてシャルのこと、女の子だと思ってる?」
「へ?」
「シャルは男の子よ。名前はシャルロット・ロー・ランド」
「シャル、ロット・・・!?」
人は本当に驚いた時にはリアクションできないのである。
石像のように動きを止めたドラグの頭は形容しがたいほどに乱れに乱れていた。
(えぇ~~!?まじか!ってことは俺・・・ホモ!?)
「そんな馬鹿な!?」
「よく間違えられるのよね~。私に似たのかしら?」
似たどころか、瓜二つである。
俺は認めない、俺はみとめないぞ~!、っと叫び始めたドラグ
はっきりいって、哀れであった。