【二話】 少年、幼女を救う
「まだ時間遅くないから街に戻ったらナンp・・・声掛けしようかな」
そういいながら、片手間に鳥型モンスターのエミューを斬り捨てる。ドロップアイテムの『小さな羽』がドロップしたが無視する。ドラグ曰く「拾うのが面倒」だそうだ。
その帰路の途中でも、ドラグは困っていそうな女の子を探す。
「あぁ、モンスターに襲われている女の子でもいれば、颯爽と助けるのに、俺が」
などと独り言をを呟いていると、ドラグの前方の木々の奥から
「ヴォォォォォーッ!」
という声が聞こえた。
「この声は・・・!」
この唸り声、『バグベアー』という熊型モンスターで間違いない。通常バグベアーは、この森の先、『暗い針葉樹林』に生息しているモンスターで、このオークの森にいるということはとても珍しい、レアケースであった。
が、このダメ人間ドラグのことである。当然バグベアーのことでなく、それとは別のことを考えていた。
「ヴォォォォ―――ッ」「きゃっ!」
「やっぱり!」
そのレベル999という常識はずれの力によって発達したドラグの聴覚は、バグベアーの咆哮に隠れた女の子の悲鳴を確実にとらえていた。さすが女好きである。
女の子が俺の助けを待っている!と思い込んだドラグは声のする方へ、イノシシのように駆け出す。
まさに猪突猛進。目の前にある木をすべて切り倒していく。この男が本気を出せば、小一時間で森の木すべてを切り倒せてしまうのではないだろうか。
間もなく、ドラグはバグベアーを見つける。
「でぃりゃぁーー!」
剣を左にかまえ、思いっきり10メータ先のバグベアーまで一直線に跳び、右へ一振り。
攻撃しようと両手を上げた状態で固まっているバグベアーの上半身が下半身から離れ、地面に落ちる。一瞬の間をおいて、下半身が膝をつき、倒れ、間もなく灰になった。
(キマッタ・・・!)
心の中でそうつぶやくドラグ。
(今、俺が助けた女の子は、自分の窮地を救ってくれた俺をうるんだ目で見つめ、頬を赤くしているに違いない!俺カッケー!)
などとドラグは思いながら剣を鞘におさめ、振り向きざまに
「大丈夫かい?お嬢ちゃん」
といった。イタイ人である。
「う、うぅぅ~っ」
「ん!?」
ドラグの目線のその先にいたのは、ぶかぶかのハードアーマーに全身を隠した幼女だった。キラキラと輝く青い双眸が、アーマーの中からこちらを見ている。
きっとドラグはこう思っているだろう。思ってたのと違う、と。
「だ、だいじょうぶ?」
「うっ、うっ、うぇぇぇ~ん!こわかったよ~!」
「うわっ!ちょっ、えぇ!?」
ドラグが一言声をかけると、目の前のハードアーマー幼女が突然泣き出し、ドラグに跳びついてきた。
突然のことにドラグは驚き、思わず尻餅をつく。
「うわぁぁ~ん!」
「ちょっ!?まっ、ごつごつしてる、ごつごつしてるからぁ!」
アーマー幼女がアーマーを装着した状態で抱きついてきたから、アーマーのごつごつが少し痛い。
ドラグはダメージを負った。この幼女は、ここ最近で唯一、ドラグにダメージを負わせた者になったのだった。
―――――数分後―――――
「すす、す、すいませんでしたぁ~!!!」
「いや、だからもういいって・・・」
ドラグは目の前で土下座をし続けている幼女に困り果てていた。
ドラグの目の前の幼女は頭のアーマーをはずし、必死に頭を下げている。
「とりあえず頭あげて」
「いや、でも・・・」
「いいから」
「・・・・・・はい」
そういってようやく顔をあげた幼女に
「うっ・・・!」
思わずうなった。
金色に輝く髪は首元まで伸び、幼いためか大きく、くりっと丸い瞳は澄んだ青い光を放ち、すこし涙を浮かべ、ドラグを見つめている。
一言でいうと、お人形さんみたいな幼女であった。
「なにか・・・いけないことをしている気がする」
ドラグの守備範囲には入っていないであろう幼女に、ドラグは不覚にもドキッとしてしまった。
「俺ってまさか・・・ロリコン!?」
ドラグが一人でショックを受けていると、金髪美幼女がロリコン疑惑男に話しかけ始めた。
「あの・・・」
「ぅえ!?あ、なに?」
「なにかお礼をしたいんですけど・・・」
「いや、いいよそんなの」
「で、でも・・・」
「あ、そうだ!」
「!?」
どうやらドラグがなにかを思いついたようだ。
「『ドラグお兄ちゃん』って言ってみてくんない?」
「・・・へ?」
おまわりさん、ここに変態がいます。
「わ、わかりました・・・」
いいのかよ!?
幼女は少し口ごもった後、意を決したように・・・
「ドラグ・・おにぃ、ちゃん?」
・・・・・・・・。
「ぐはっ!」
「ええっ!?」
ドラグは鼻血を吹いて倒れた。
「だ、だいじょうぶですか!?」
「ロリコンロリコンロリコンロリコンロリコンロリコンロリコンロリコン」
「頭おかしくなっちゃった!?」
ドラグは鼻血も吹かずに立ち上がり
「ところで、なにか手伝うことない?」
「血!血がとまってないです!?」
その後、ドラグの鼻血がおさまると、幼女が「お礼に食事でも」という申し出をドラグにした。こんな状況でお食事のお誘いなんて、小さいのによくできた子である。
ロリコンな自分を見つけてしまったドラグが、激しく首を縦に振ったことは、言うまでもないだろう。
街に戻る道中、世間話をしながら襲いかかってくるモンスターを片手間で片付けていくドラグの姿に、幼女はいつしかドラグを尊敬の眼差しで見つめていた。