その名はランページ
私がそう言うと地面が揺れ始めた。
「地震?凄く揺れてる!」
その揺れが大きくなればなるほど周りがどんどん明るくなってゆく。
「地震ではない、私が動こうとしているだけだ」
動く!動くから揺れるって、どういう?
言葉に出す前に頭上から破壊音が響いた。
それと同時に"ランページ"の機能の復旧したのか完全に外が見えた。
私は思わず声を大にしてしまう。
「あ、あわ、守り神…ランページってこんなに大きかったの?」
記憶していたランページの大きさは
博物館の中央の吹き抜けの部分にあったもので精々4mほどでは無かったのか。
それがどうだ、今私がいる場所はそれよりも遥かに高いのだ。
そして真下に目を向けた時に博物館の残骸が見えた。
「さっきの上から聞こえた音って、博物館の天井を破壊した音だったんだ」
「それに、ランページは埋まってたんだ、胸の下辺りから全部」
博物館の残骸の中におじいさんが見えた、博物館は壊れたが命あっての物種だ。
「魚、倒せるんだよねぇ」
何度も聞いたことが気になった、あれほど巨大で強大な敵、本当に倒せるのか。
軍隊が戦いを挑み負けているのを何度も目の当たりにしている。
もちろん、期待もあるが不安の方が大きい。
当然だ、生まれてこのかた人間が魚を倒してるところなんか見たことが無いのだ。
まさに絵に描いた餅のような事柄だ。
「無論だ」
何故かわからない、とても短いがその自信に満ち溢れた言葉は私の心に勇気をくれた。
不安が無いといえば嘘になるが、忘れよう。
「あの魚を倒したら街を直すのも手伝ってくれるんだよね」
「無論だ」
「この博物館も直さないとね」
「そうだな」
体がエレベーターが上下するような感覚に襲われた。
ランページが飛んでいる、街に向かって飛んでいる。
正確にはジャンプだろうがどうでもいい、歩いて何十分もかかるような場所に1分もかけずに到着しようとしているのだ。
遠目からでも巨体とわかる魚が近付いてくる、やはりでかい。
「あああああ!ランページ!!もっと優しくいけないの!?地面が地面がぁ」
ランページの巨体が歩いた後はコンクリートで舗装された地面が壊れていた。
しかしランページはその点においては冷徹である、道路より街なのだ、道路はいつでも直せるだろう。
建物がなくなればそれだけで多くの人が涙にくれることとなるだろう。
生物においてデカイというのはそれだけで有利である、動物は威嚇行動を行う際自らのデカさを相手にアピールする。
人間だってそうだ、多くのスポーツで体のでかいほうが有利なのだ。
だから誰も魚の暴虐を止めれないのだ。
「魚は食べたことあるか?」
目の前でビチビチと暴れる魚を目の前に突然の質問である。
「魚って……ないけど」
あまりに唐突な質問であった、そしてあまりに非日常的な質問である。
魚と人間のパワーバランスが崩壊し、この国が崩壊したその時から魚は食べるものだという常識はすでに消え去ってしまっているのだ。
「ならば!再び!今日が!人類が魚を食べた魚記念日とする!うおおおおおおお」
ランページの叫びが響くと同時に凄まじいものを見た。
ランページはでかい、人間の10倍の巨体ではある。
しかし私の見た光景はそのランページがさらにその巨体の2倍もあろうかというイワシという魚を持ち上げた、そして放り投げた!
「ランページ!どうして海に投げないの!」
街の外にある今は使われていないヤマト空港の跡地に吹っ飛んでいく魚を見て私は思わず声を大にして叫んでしまう、そりゃそうだ、魚は海から陸に上がるから暴れるのだ海に戻せば魚は海に帰って行き再びしばらくは陸地に平和な時間は帰ってくるのだ。
「海に帰せばいつかまた帰ってくるのだ、力が無ければそれも良し
しかしこの私には力があるのだ!見ていろ!」
天高く放り投げられ体を地面に激しく打ち付けた魚に近づくように走りだす。
ガシャガシャと機械の動くような音が鳴り響く。
ランページが走っているということより私はどちらかと言えばランページが動く度に壊れていく道路が気になった。
これは後がたいへんだろうなぁ、と思う。
「くらえっ!アイスビーム!」
叫びが私を正気に戻す、光線が魚に向けて発射された。
光線が発射されたことも驚きだがさらに驚いたのは直接照射されてすらいない地面が凍りついていくことだ。
直接受けていない地面が氷柱を立てるほどの威力である、受けている魚の動きは徐々に鈍くなっていく。
そんな魚の姿を見て思わず小さくやった!と声をあげてしまう。
「魚よ、安らかに眠れ」
いつからだろうランページの左手は炎で燃え上がっていた。
先程の光線と同じようにそういう機能があるのだろう。
動けなくなった魚の口から炎上した左手を凄まじい勢いで突き入れた。
ガンッガンッガンッ
「やっと開いたぁー」
「すまんな、200年も使っていないとこうもなるな」
ランページの老朽化したコックピットの出入口の扉を蹴り飛ばしてそこから出ると一気に深呼吸した。
息苦しかった訳ではないがなんとなくだ。
高い位置から見ると空も街も海も普段と全く違うように見えた。
特に今日の朝までは絶望的なまでに広く青い、そんな海が大嫌いだった。
しかし今は違う、とても澄んだ空と同じ色の海が見えるのだ、ただ印象一つでここまで変わってしまうのだ。
「私の名はランページ、君の名前をまだ聞いていなかったな」
私はずっと自分の名前が嫌いだった。
おばあちゃんがずっと昔のおばあちゃんの名前を付けてくれたそうだがそんな名前が大嫌いだった。
名前を呼ばれるたびなんだか憂鬱な気分になっていた。
しかし今は違う、青い空にランページ、全てが今までとは違って見える。
「私の名前は海、青井海、この海の平和は私が守ってみせる!」
名前はランページに告げたものだが後半は誰かに伝えたものではない、私自身への熱い思い、決意表明なのだ。




