景気が良くなっても働かないヤツはいる。社会のせいではない。
「最近、小説は書いているのか?」
俺は聞いてみた。
「じつはな」
友人Aは語尾を濁した。
おそらく、もう止めてしまったのだろう。飽きっぽい性格だから。
Aはいわゆるニートだ。アベノミクスで有効求人倍率も上がってきているので就職できないはずはない。
しかし、なんだかんだと理由をつけて就職していないのだ。もう若いと言える年齢ではないのに。
そんなAがケータイ小説で最終選考に残った、小説家デビューも時間の問題だと伝えて来た時は驚いた。半年くらい前だったと思う。出版界のことをよく知らない俺は手放しにAと一緒に喜んだ。
あれから音沙汰がないので用事にかこつけて様子を探ってみたのだった。
「それがな。◯ブリスタがキーボード入力できないから書けなくなったんだ」
意味がわからない、Aの言ったなんとかスタは小説サイトであるとは知っていたが入力ができないとはどういうことなのだろうか?
「パソコンがつぶれてiPhoneから書き込むことにしたんだ。そしたら、iPhoneからはキーボード入力はできなかった」Aは少し詳しく説明してくれた。
「入力の仕方が変わったら調子が狂って書けなくなったのか?」
「そうなんだよ。アイディアはあるんだけど指が動かないだ。スランプだな」
「まだ、デビューもしていないのにスランプとは大変だな」
「そうなんだよ」
俺の皮肉を全く無視して、Aは今考えている小説の原案を得意げに話す。Aは俺が話しを聞いていようがいまいがお構いなしにしゃべる。
「ということで、今は休筆中だ。書きたくても書けないのがつらいぜ」
同じようなセリフを幾度となくAから聞いた。勉強したくても用事が出来てできなかったとか、辞めたくないが家庭の事情で仕事を辞めざるを得なくなった等だ。今回も最もらしい理由をつけて止めてしまうだろう。
「キーボード入力ができるサイトで書いたら良いんじゃないのか?」
解決法を提示してやった。
Aは俺の言葉を聞いて少し驚いた表情をした。予想外だったのだろう。
そして、黙り込んでしまった。
自分の古くからの友人をとやかく言うのは気がひけるがAはダメ人間の典型だった。うまく行かなくなるとすぐに放り出してしまう。簡単な解決法や打開策があるにもかかわらずだ。むしろ、諦める理由を思いついて自分を欺くのは上手くなって行く。
黙り込んだAを見て、俺は話題を小説から変えた。