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08

砦に向ってメルレーンが歩いてくる。その隣にはザパルとロコ。

見張りの兵士が同じ見張りの兵士に向かって疑問を投げかける。


「3人居る・・・。どういうことだ?1人はジール様かな?」


望遠鏡を奪い取り、応える。


「オレが解るもんか。しかし、8人も居た竜騎兵を打ち倒したって言うのが信じられん。寝返ったとかじゃないのか?とにかく隊長に報告だ!」


メルレーン達は、砦の前で睨みをきかせているコテラルの将兵たちをかき分けて、砦の城門の前で立ち止まった。

その間、3人とも何も言わないのでコテラルの兵達にも動揺が広がっている。


ザパルの洗脳の能力を信じるコテラル。

メルレーンの魂を入れ替える能力を信じるアローニア。


固唾を飲んで3人を見守る両軍の兵達。

その沈黙をザパルが破った。


「やれ、メルレーン」


その言葉と共にコテラル軍から歓声が上がる。

城壁を軽々と飛び越えるメルレーン。逃げ惑うアローニアの兵達。

数十の矢がメルレーンに浴びせられるが、メルレーンの外甲を突き通すことは無く、バラバラと地面に落ちる。


全身を重厚な鎧で守った重装歩兵達が立ちはだかるが、メルレーンの槍はその者たちを容易く串刺しにした。


力の差に絶望する砦の兵達。だが、その時、メルレーンが膝をついた。

度重なる戦闘のダメージが鬱積した結果だった。


「見ろ!あの竜騎兵も損耗している!畳み掛けろ!」


砦を預かる将校が無責任に叫ぶ。


「何言ってやがる、こいつを倒したって外にはコテラルの兵達と竜騎兵が居るんだぞ」


兵達の士気は地に落ちていた。逃げ惑う兵達を追い、蹴散らすメルレーン。

その様子を満足そうに眺めるザパル。


「いいねぇー。あの兵達の絶望的な表情も悪くないけど、我に返った時のメルレーンの絶望する様が今から楽しみで堪らないぜ・・・」

「悪趣味ねぇー・・・。何で、そんなに歪んじゃうわけ?」


ロコがザパルに問いかける。


「ふん。これは必要な事なんだよ。アッシェ様に絶望を献上するためにな。ま、オレの趣味も多分に含んでるけどな」

「アッシェ様?アンタが言ってた竜玉をくれる神様?本当に居るの?そんなの」

「あぁ、居るさ。お前は見込みが有るからな。いつか会わせてやる」

「ふーん・・・。アンタの話が本当なら、コテラルの片田舎で農奴やってたアタシを竜騎兵にしてくれたのは、そのお方だってわけだから、会ったらお礼くらい言わなきゃね」

「ふふ。そうしろ。そろそろだぞ、あのポンコツが我に返るのも」


逃げ惑う兵達の中、猛然とメルレーンに挑みかかる何名かの兵士たちも居た。

メルレーンやジールと酒を酌み交わした、ガルニア達である。


「メルレーン殿?何が有ったんです!?貴女がアローニアを裏切るはずがない!何か理由が有るんでしょう?」


沈黙するメルレーンの代わりにザパルが答える。


「そいつはオレの能力で操られてるんだよぉー。必死に呼びかければ我に返るかもよぉー?」


ガルニアはザパルを睨みつけた後、仲間たちに訴えた


「聞いたか!?みんな!メルレーン殿は敵に操られているだけだ!メルレーン殿が我に返れば、まだ勝機はあるぞ!」


ガルニアは周りの兵達と共にメルレーンの前に立ちはだかる。

兵としての務めだけでなく、メルレーンを助けたいという私情からの奮闘だった。


「無理に近づかなくてもいい!声を掛け続けるんだ!メルレーン殿ならきっと正気に戻ってくれる!」


剣を捨て、盾だけを構え、距離を保ちながらメルレーンに訴え続けるガルニア達。

しかし、歴然とした力の差に1人、また1人と倒れてゆく。


「メルレーン殿!目を覚ましてください!アローニアを・・・。ベルクヌーイ広場の平和な日常風景を守りたいって言ってたじゃないですか!」


ガルニアの叫びに、ピタリと動きを止めるメルレーン。


「あ・・・うぅ・・・。その声は、ガルニア・・・さん?」

「正気に戻ったんですね!メルレーン殿!」


今にも倒れそうなメルレーンを支えようと駆け寄るガルニアよりも先に

メルレーンに近づく者が有った。黒人形だ。そいつは、そのままメルレーンに

絡みつき自由を奪う。もはや、それを振り払う力はメルレーンには残っていなかった。


「はい!そこまでー!」

「きっ!貴様ぁ!」目の前に降り立ったザパルに怒りの目を向けるメルレーン。

「さぁ、周りを見渡してごらんよメルレーン。さて、ここはどこでしょう?」


言われるままに周囲に目をやるメルレーン。


「ここは、アローニアの砦・・・?ま、まさか・・・」

「正解!ここはキミが虐殺の限りを尽くしたアローニアの砦だぁ!どうだ?どんな気持ちか聞かせてくれ?なぁ?聞こえてるか?おぃ!」

「私・・・ワタシが・・・ワタシは・・・」


そこにガルニアが割って入る。


「違う!メルレーン殿!メルレーン殿は何もしていない!やったのは、そいつだ!」

「ガルニアさん・・・。でも、私は混濁した意識の中でも何となく覚えているんです。私が、ジール様を・・・皆を・・・」

「違う、違う!それでも、やったのはメルレーン殿じゃないんだ!皆!何をボケッとしている!メルレーン殿の正気が戻った今こそ反撃の時だ!メルレーン殿を救済し、メルレーン殿と共にコテラルの竜騎兵を撃滅するのだ!」


ガルニアの怒号にすべき事を思い出す砦の兵達。雄たけびを上げてザパルに迫る。


「ち。面白くない!不愉快だ。もういい!ロコぉ!下りてこい!此奴らを皆殺しにするぞ!」


普通の人間では相手にならない程の戦闘力を持つ竜騎士でありながら、実は戦闘は得意ではないザパル。自らは手を下さず砦の兵達から逃げ回っている。


その間、ガルニアは黒人形相手に苦闘していた。

抵抗こそしないが、ベッタリと張り付いた黒人形からメルレーンを解放するのは

時間が掛かりそうだ。


黒人形をナイフで引き剥がしながらメルレーンを気遣って声を掛けるガルニア。


「今、助けますからね。メルレーン殿!敵の竜騎兵は最初、8人も居たのに今は2人だけ。後の6人は倒したんですね。さすが、メルレーン殿とジール殿だ」

「ガルニアさん。私は・・・ジール殿を・・・」

「何も言わないで下さい。今、動けるようにして差し上げますから。そしたら、コテラルの奴らに目にもの見せてやりましょう!メルレーン殿と砦の皆で!」

「ガルニアさん・・・」


ザパルはというと一向に下りてこないロコに苛立ちを募らせていた。


「ロコォ!何やっていやがる!返事くらいしやがれェ!」


しかし、ロコは驚愕を浮かべて立ち尽くしており、ザパルの絶叫は耳に届かない。

ロコの視線の先には、今まさに飛来した黒竜ラコットの姿が有った。


ラコットが咆哮を上げる。

コテラルの兵達は恐慌し、アローニアの兵達は歓喜の声を上げた。


「い、い、いきなさい赤人形」


ロコは震える声で攻撃に特化した赤人形に命令を与える。

脇に控えていた赤人形がラコットに突進するが、ラコットの一撃で地面に叩きつけられて四散する。


ウネウネと蠢きながら元の人型に戻ろうとしている所を今度は足で踏み潰し、「次はお前だ」と言わんばかりに城壁の上に立つロコを睨め上げる。


「なによこいつ・・・。なんで傷が治ってるのよ・・・」


黒竜の姿に足がすくんで動けないでいるロコが呟く。

黒竜が城壁をよじ登り、直ぐ目の前に来てもロコは恐怖のあまり、立ち尽くしていた。

ラコットの視線は目の前のロコではなく、広場の黒人形に囚われているメルレーンに注がれていた。良かった・・・無事そうだ。だが、ザパルが兵士たちを蹴散らしながらメルレーンに迫っている。動けないうちに止めを刺すつもりだろう。


メルレーンの自由を奪っているのが黒人形だと分かると、ロコに視線を移した。


「ひぅ!」と短い悲鳴を上げるロコにラコットは握りしめた拳を振り下ろした。

しかし、ロコを守る青人形に妨げられてしまう。


「ど、どう?青人形が居れば、アタシを傷つけることは出来ないわ!」


ラコットは無言で飛び上がる、翼を広げ、垂直に飛び上がり、羽ばたきながら、ある程度の高さまで上昇するとロコに目掛けて急降下した。

上昇してゆく黒竜を眺めていたロコだが、ラコットの意図が解ると一目散に逃げ出した。


しかし、ラコットがそれを許さず、落下の勢いを利用した拳が青人形ごと叩き潰す。

砦の一部が瓦解し、瓦礫と共に落下するロコの口から竜玉が零れ落ち、

元の少女の姿に戻ってゆく。


それと同時にメルレーンに纏わりついていた黒人形が解けてゆく。

自由を取り戻したメルレーンは、直ぐ近くまで迫っていたザパルに槍を突き出した。

メルレーンの槍先は受け止めようとしたザパルの手の平を貫き、

喉元の寸前に静止していた。


「ジール様は、お前のせいで・・・。お前は私の手で討たなければ気が済まない!」


頼りのロコを黒竜に倒され、ザパル自身も再び洗脳の力を使うには体力を消耗しすぎている。いや、余力があっても1人でメルレーンを抑えて再び洗脳するような戦闘技術はザパルには無かった。


そんな彼には逃げる以外に方法が無かった。

ただ逃げるだけでなく、狡猾にも手近にいた兵士の1人を捕まえ、人質にすると、その人質を盾の様に扱いメルレーンを牽制する。


追ってくるメルレーン目掛けて人質を放ると、それをメルレーンは放っておくことが出来ず、追撃を諦め兵士を受け止める。


その隙に逃走を図るザパル。

その行く手を黒竜が阻む。たじろいでいると、メルレーンが追い付いてきた。


「ま。この状況じゃ、逃げられるわけないわな・・・」


独り言を呟き、ザパルが逃走を諦め、メルレーンと兵士たちが止めを刺そうと

ザパルに詰め寄ろとした時、ザパルの傍に何かが落下し、その衝撃で兵士たちは吹き飛ばされた。


よろめきながらも、その場に留まったメルレーンはザパルの傍に何者かの影が有る事に気付く。


その者は無様に倒れていたザパルを抱き起していた。


「新手の竜騎兵かっ!」と、果敢に挑むメルレーン

「よせっ!メルレーン!そいつは竜騎兵なんかじゃ・・・!」

とラコットが警告を発するが、メルレーンには理解出来ようはずも無かった。


突然現れた男は槍を躱し、メルレーンを無造作に突き飛ばす。

その動作は見た目には軽々としたものだったが、メルレーンは後ろに控えていたラコットの脇を弾丸の様なスピードで通り過ぎ、ラコットの後ろの砦の城壁に激突する。


ラコットは男の名を苦々しく呟いた。


「アッシェ」と。


「黒竜、貴様が何をしようと無駄だと思っていたぞ?想定外だったのはこいつの無能さかな?」


そう言いながらアッシェがザパルの方を見る。


「ア・・・アッシェ様?」


ザパルは自分を救いに来てくれたはずの主人が自分に向けて憎悪の籠った視線を向けている事に気付くと、咄嗟に逃げ出そうとする。


しかし、その背中をアッシェの腕が貫く。

胸から突き出された掌の中にはザパルの竜玉が握られていた。


「朽ちた女神から箱庭を奪い、我が力の苗床としようと思ったが、この様だ・・・この程度の謀が上手く行かぬと知られたら・・・またオレはアイツらに軽んじられてしまう。もういい。腹いせにすべて破壊してくれる。・・・そのためにザパル。貴様の竜玉の中身を貰うぞ?」


アッシェは腕を無造作に引き抜き、手に入れた竜玉を眺める。


「信じていた神に良い様に使われて殺される・・・。オ・・・オレの顔はどうなってるんだ?ひ。ひひひ。さぞ、絶望に彩られているんだろうなぁ・・・」


ザパルが表情も無く呟く。虚空に伸ばした腕は何も掴むことなく血だまりの中に

倒れこみ、そのまま動かなくなった。


その様子は憎い敵ながらも悲壮感をラコットは感じずにはいられなかった。


「本当に貴様は人間を何とも思ってないんだな。そいつだって、貴様の為に働いていたんだろうに・・・」

「ふん。人間の肩を持つ妙なドラゴンが妙な事を言う。必要だからそうしているだけだ。貴様も詰まらんことを気にしている暇はないぞ?」


アッシェはそう言って、果実から果汁を絞り出すようにして竜玉の中身を飲み干した。


そのまま中身が空になった竜玉を口の中に放り込むと、アッシェは人の姿から徐々に変貌する。それは、巨人だった。大きさはラコットと、ほぼ同じ。

鉄の様な肌を持ち、頭からは頭髪の代わりに鎖が伸び、その先には様々な武具が繋がれていた。


「さぁ、死ね」


アッシェがそう言うと、鎖が自在に動きだし、ラコットに向けて目も止まらぬ連撃を繰り出した。


鎖の先に繋がれた剣や槍や斧はラコットに突き立つことは無いまでもその固い鱗を少しずつ削り、赤い火花を散らしていた。


更にアッシェの攻撃は、あまりに現実感のない光景に呆けていた砦の兵達にも向けられる。


「このっ!やめろっ!なんでわざわざ無抵抗な者たちをっ!」


ラコットは鎖を掻き分け、アッシェに飛び掛かる。


「何故?この地に生きる人間どもが少なくなれば、アリュメットの力も更に衰えるだろう?そうなれば、この地に我が君臨する日も近付くわけだ」

「貴様ぁっ!」


殴打を繰り返すラコットだったが、アッシェは無表情で微動だにしない。


「ふん。この程度か」と、飽き飽きとした様子で無造作にラコットを蹴り飛ばす。

鋼鉄の肌を殴り続けたラコットの拳は肉が裂け、血が流れ出していたが次第に修復してゆく。その様子に気付くアッシェ。


「自己再生能力か?面白いな・・・。これは壊しがいが有りそうだ!」


今度はアッシェがラコットに襲い掛かる。

アッシェの体当たりを受け止めた腕は折れ、振り下ろされた拳によって頭蓋が砕かれた。

首を掴まれ宙吊りにされる。そのまま握力だけで首の骨が砕かれ、力任せに投げ飛ばされる。ボロキレのように倒れているラコットをアッシェがジッと見ていると、

砕かれた頭蓋から露出した目がギロリとアッシェを睨み返すと同時にまた、ラコットの体の修復が始まる。


「ほう!これだけの痛手が治るとは予想以上だ!」


ラコットが治りかけのままアッシェに飛びつき、今度は肩口に噛みつく。

お構いなしに、そのままの状態でラコットの顎を砕くアッシェ。

ラコットは堪らず口を開きアッシェを離す。

アッシェが壊し、尚も怯まずラコットが挑む。

それが何度も繰り返された。

その様子をメルレーンは見ていることが出来ず、目を逸らしていた。

いつの間にか傍に来ていたガルニアがメルレーンに声を掛ける。


「目を逸らしてはいけませんメルレーン殿。あの黒竜が頑張ってくれている間にあの巨人を何とかする方法を考えなければ」

「ガルニアさん・・・。しかし、どうすれば・・・」

「出来る事をするしか有りません。黒竜が倒れれば、次は私たちでしょう」


ガルニアの肩を借りて何とか立ち上がるメルレーン。

2人の目の前には尚も黒竜を痛めつける巨人、逃げ惑う砦の兵達とそれを襲う鎖という光景が広がっていた。


鎖は2人にも襲い掛かる。それを躱しながら話を続ける2人。

「私は仲間たちと投石器で攻撃してみます。巨人の気を引けば、黒竜にも反撃の糸口が掴めるかもしれません」

「そんな!危険です!」

「大丈夫ですって。ボクも仲間たちも逃げるのには自信が有りますから」

「そうですか・・・。では、私は貴方達に危険が及ばないよう、援護しましょう」

「わかりました。では、くれぐれも無茶はしないで下さいね」


改めて巨人と黒竜に向き直るメルレーン。


・・・ラコット。懸命に抗う、かつての戦友。


「今、助けるから!」メルレーン震える足を引き摺りながら参戦すべく前に進む。



・・・ラコットはおぼろげな意識の中にいた。

頭部が破壊されているからだろうか、考えが纏まらない。

戦え。許せない。守らなきゃ。誰を?逃げろ。勝てない。逃げろ。

メルレーン。逃げろ。許して。誰から?逃げろ。

ずるずるとアッシェから遠ざかろうとするラコット。


「はっ!ここまでのようだな。もう飽きた。死んでしまえ・・・」


止めを刺そうとラコットに歩み寄るアッシェ。

ゴツッ!

何かがアッシェの頭部にぶつかる音がする。

投石器から瓦礫が飛び、アッシェに直撃した音だった。

驚くラコット(投石?砦の兵達が?)

ラコット以上に驚いたのがアッシェだった。しかし、直ぐに表情を怒りへと変える。


「人間どもがぁ!この私に何をした!すぐに畏れ、逃げ出す子虫どもの分際でぇ!!」

「いけないっ!」


アッシェが矛先を兵達に向けたのを察知したラコットは彼らを守るべく、アッシェに飛び掛かる。不意を突かれたアッシェは無様に倒れた。


「ぐっ!こ、この死にぞこないが邪魔をしおって!」


アッシェを見下ろすラコット。勇気ある砦の兵達を犠牲にするわけにはいかない。

初めてアッシェの背に土を付けたのだ、ここで畳み掛けなければ!

そう意気込むが体が付いてこない。

そのラコットの背を何者かが疾走した。

メルレーンだ。

ラコットの背を駆け、仰向けに倒れているアッシェに向かって飛ぶ。


「でぃやぁぁぁぁっ!!」


雄叫びと共に残る気力を振り絞って特攻する。

メルレーンの槍は巨人の左目に吸い込まれるように突き刺さった。


「ぎっ!? ・・・ぎぃやぁぁぁぁぁぁっ!」


左目を押さえ、のた打ち回るアッシェ。


「凄い・・・メルレーン・・・」


ラコットがメルレーンを探すと、のた打ち回るアッシェのすぐ傍で力を使い果たしたようで動けないでいる。

(あのままだとアッシェに踏みつぶされるか、見つかって殺されてしまう!)


メルレーンを救うべく咆哮を上げ、倒れた体を起こす。

しかし、ぼろ雑巾のような体は思うように動かない。

(動け!)

アッシェは落ち着きを取り戻し、右目を奪った仇を探し出した。

(動けっ!)

ガルニア達は投石器で必死にアッシェの気を引こうとしている。

(動けぇっ!)

気が付いたメルレーンが何とか、アッシェの元を離れようとしている。

(動けって!)

アッシェがメルレーンの存在に気が付いた瞬間、ラコットの自己再生能力は今までにない程の回復力を見せ、力を取り戻したラコットはメルレーンに拳を振り下ろそうとするアッシェに飛び掛かった。


ラコットの突進はアッシェを巻き込み、砦の外壁を突き破ってアッシェを砦の外まで吹き飛ばす。


「アッシェ・・・お前が虫と嘲る人間が、お前に手傷を負わせたぞ?神でもドラゴンでもなく、人間がだ!」


ラコットからの問いを仰向けに倒れたままのアッシェが応える。


「人間・・・。搾取されるだけの存在にすぎん人間が・・・我に・・・」

「人間はいつだって抗ってきた。襲来するドラゴン。理不尽に起きる戦争。人間は搾取されるだけじゃない。お前のような神にだって抗えることを証明して見せた。

アッシェ!人間は強いぞ!」


「・・・そうか。それが人間に肩入れする理由か?だが、我は認めん」


アッシェは立ち上がり、残った右目で黒竜を睨む。


「人間は弱い!すぐに逃げる。直ぐに裏切る!それを証明してやる。・・・ぐぅおぉぉぉぉぉぉ!」


咆哮と共にアッシェがラコットに殴り掛かる。

ラコットの顔面を狙ったアッシェの右拳は、わずかに逸れ代わりにラコットの右拳がアッシェの顔面を捕える。

カウンター気味の決まった攻撃の反動でラコットの腕は拉げ、拳は砕けた。

しかし、お構いなしに、そのまま傷ついた左目を攻めながらアッシェの肩口に喰らいつく。


最初は攻勢だったラコットだったが、再生が追いつかなくなってくると、次第に劣勢に追い込まれてゆく。


「どうだ!黒竜!そこで見ていろ!人間どもが成す術も無く我に蹂躙される様をな!」

「させるかよ・・・。ぐぁ!」

「・・・寝ているがいい」


ラコットを踏みつけて、その後ろの砦に向って歩を進めるアッシェ。

その時、何者かがアッシェに降り注ぐ陽光を遮った。

その影の主を確かめようと空を仰ぎ見ると無数のドラゴンが空を舞っていた。

その中の一匹がアッシェの前に舞い降りる。純白の白竜だ。

白竜は姿をメイド姿の人間に変えた。それはアリュメットの館に居たレメスだった。



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