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07

良かった。メルレーンは生きている。


それにしても、どれが敵で、どれが味方なのか・・・。

ラコットが、そんな事を考えているとザパルが声を上げた。


「何をボケッとしてやがる!こいつもオレの力で下僕にするから、やりやすいように押さえつけやがれ!」


ザパルの声に一番に反応したのはメルレーンだった。

槍をラコットに向けて突進する。


咄嗟に躱すラコット「メルレーン?!何するんだ!」


続いて、ロコの人形たちとゲイルの伸びた腕がラコットを襲う。

視線はメルレーンに向いたまま鬱陶しそうに、それらを薙ぎ払うラコット。


「メルレーン!どうしたんだってば!」


ラコットは問いかけを続けるが、当然メルレーンには届かない。


「黒竜!いや、ラコット!人の言葉を解するならば聞け!メルレーンは、そこの竜騎兵の力によって洗脳されておる!まずは、そいつを倒してくれ!」


ジールの叫びに反応してザパルの方に向き直るラコット。

ザパルに向かって拳を振り下ろそうとするが、ザパルを庇う者に気付いて、手を止める。庇う者がメルレーンだったからだ。


恐る恐る顔を上げたザパルが恐怖に引きつらせた顔を笑みに変えて叫ぶ。


「おいおい!このドラゴン・・・もしかして、アレか?」


メルレーンが突進する。それを躱すだけのラコット。


「アローニアの竜騎兵には手を出さねぇってか?このドラゴン!おもしれぇ・・・おい、ゲイル!ジギド!お前らは下がってていいぞ!」


「・・・正直助かった」とジギド

「・・・この黒竜には勝てる気がしない」とゲイル。


それぞれ安堵を口にする。

そんな間にもラコットはメルレーンの猛攻に耐えている。


「ならば、ワシが・・・」


とジールがラコットの援護に向おうとするが、バウトスが立ち塞がる。

翼に損傷がある今なら、先ほどの借りを返せると踏んだのだろう。


「おい、ロコ。赤いので、あの竜騎兵を攻撃してみろ」

「え?あの竜騎兵って?バウトスとやってる方?」

「違う違う!槍の方だ。オレが下僕にした方だよ」

「なんでよ。せっかく黒竜をいい感じに追い詰めてるのに・・・」

「いいから。やれって」

「はいはい。いけー。赤人形ー」


命令を与えられた赤人形はメルレーンに襲い掛かる。

不意を突かれる形でメルレーンは吹き飛ばされる。

更なる追撃を加えようとする赤人形からメルレーンを守ろうとするラコット。

赤人形を叩き潰し、無情にも隙が出来たラコットの脇腹にメルレーンの槍が突き刺さる。

「はははっ!やっぱりだ!おい、ロコ続けろ!」

「なんか、趣味悪いなぁー・・・」


と言いつつもザパルに従い赤人形を繰り出す。

ザパルの作戦は功を奏し、ラコットは幾つかの深手を負うことになる。

しかし、ラコットにはどうにも出来ないで居た。

ジールは、その様子を見て焦りを感じ、半ば強引にバウトスを躱してメルレーンの前に立ちはだかる。


黒竜が、ラコットが倒れれば、この戦に勝機は無い。


「メルレーン!いい加減に目を覚まさんか!黒竜の耐え忍ぶさまを見ても何とも思わんのか!目を覚ませっ!」


ジールの言葉に怯んだ様子を見せるメルレーン。

それを見て、問い掛けに効果が有ると見たジールは言葉を続けようとするが、怯んだ様子を見せたのは一瞬だけだった。

槍は、無情にもジールの体を突き破る。


「ぐぅ・・・。油断した」


口から大量の鮮血。あきらかな致命傷。ジールはヨロヨロとメルレーンに歩み寄り、そのまま縋りつく。


「スマン、メルレーン・・・。貴様の手に掛かってしまうとは・・・。きっと、オヌシは自分を責めるだろう・・・。何と言う失態・・・。だが、頼む。目を覚ましてくれ。そして、ワシに代わってアローニアを守ってくれ。頼む。メルレーン・・・」


崩れ落ちるジール。それを見下ろすメルレーン。

まったくの無表情が、徐々に驚愕に変わる。


「え・・・?あぁっ・・・あ・・・う・・・。ジール・・・?私が・・・?」


「ちぃ。もう切れかかってやがる。おい、ロコ、あの黒竜を抑えとけ。メルレーンを洗脳しなおすからよ」

「え?黒竜に掛けるんじゃないの?1日に2、3回が限界じゃなかったっけ?

竜玉の光で洗脳を掛けるのって・・・」

「いいんだよ。コイツが居れば黒竜は倒せるし、何よりコイツが気に入った。コイツに砦の連中を殺らせた時の絶望する様が見てぇんだよ」

「うっわー・・・。悪趣味ぃー・・・」


不快な表情を浮かべながらも、黒人形に指示を出す。

黒人形はラコットの顔に張り付き、視界を奪い、呼吸を止める。

のた打ち回りながら、ようやく黒人形を引っぺがし、開けた視界には、再び表情を失ったメルレーンが立っていた。


「さぁ、続きだ、メルレーン!この黒い役立たずに止めを刺してやれ」


再びメルレーンによる、責め苦が始まる。


(さっき、メルレーンの洗脳が解けかかっていた・・・。ジールを自分の手で殺めてしまったショックで・・・? だとしたら、ボクが相手なら?自惚れるわけじゃないけど・・・。きっと、メルレーンなら・・・)覚悟を決め、ラコットはメルレーンを正面から受け止めようと両手を広げる。


「止まれメルレーン!」


ザパルの命で急停止するメルレーン。

ラコットの元には、メルレーンの代わりにバウトスが突進してくる。

ラコットの腹にバウトスの巨大な角が突き刺さる。


「もうメルレーンは下がってろ。残念だったな黒竜。身を挺してメルレーンの洗脳を解こうとしてるのは見え見えだったぜ?ゲイル!ジギド!バウトス!てめーもだクアラフタ!とっくに気が付いてんのは解ってんだぞ!お前らはメルレーンの代わりに、その黒竜に止めを刺せ!ロコとメルレーンはオレについてこい。砦を攻めるぞ」


ジギドはクアラフタを足蹴にする。


「手負いとはいえ、あの黒竜・・・。3人では足りない。アンタも手を貸して・・・」


飛び起きるクアラフタ。


「貴様!上官を足蹴に・・・」

「・・・ジールに負けたくせに」

「ぐ。待て!ジギド!」


捨て台詞を残して黒竜に向かうジギド。残されたクアラフタも後を追う。

他の2人は既に黒竜と交戦を開始している。

その様子を見て満足そうに砦に向うザパル。

メルレーンは虚ろな表情で何事か呟いている。


「砦・・・砦・・・砦を攻める・・・。砦・・・?砦・・・」


それに気付くロコ。


「ザパルー。こいつ、何かブツブツ言ってるよー?もしかして、また洗脳が解けちゃうんじゃない?」

「そうかもな。だから、急いでるんだ。何としてもコイツが砦にいる連中を殺すところが見たい。・・・ま、洗脳が解けたら、すぐにお前の人形で止めを刺せばいいんだよ」

「げー。悪趣味ー。やめさせてもらいたいわ」


立ち去る3人の後を追おうとするラコットだったが、4人の竜騎兵がそれを許さなかった。


いくつもの深手を負ったラコットを4人の竜騎兵が攻める。


クアラフタの動きに翻弄され、ジギルの素早い動きと鋭利な鋏がラコットの鱗を削り取り、ゲイルの伸縮自在の両手は予想外の動きで右目を奪い、失われた視界がバウトスの強力な角の一撃を許してしまう。


ラコットの意思に反して、その身が倒れた時、ラコットの名を呼ぶものが有った。


「ラコットー!えぇい!ラコットから離れろ!人間ども!」

「ケ、ケラーネ!?」

「助けに来たよラコット!ずっと見てたんだ。ラコットがしたい事、解るよ?私も手伝うから!」

「駄目だ!ケラーネ!すぐに下がって!戦うのは得意じゃないって言ってたじゃないか!」

「でも、ラコットが居なくなるのは嫌なの!私、他の誰かから優しくしてもらったことが無かったから・・・。それに、私分かったんだ。誰も私に優しくなかったのは

私が何かと一生懸命戦ってなかったからだって!だから、戦うよ!ラコットの為に!」


「ケラーネ・・・!」


自由に身動きの取れない今、ケラーネの助けは有り難かった。

しかし、戦いに不慣れなケラーネの攻撃は見え透いていて、敵に当たることは無かった。

「ふぅ。新手のドラゴンが来た時は焦ったが、こいつは大したこと無さそうだな」


そう呟いたのは、ケラーネの背に飛び乗ったゲイルだ。

ゲイルは、伸縮自在の腕を伸ばしてケラーネの首に巻き付け、手綱の様に引き寄せる。

ゲイルのよって自由を奪われたケラーネは、正面から突進してくるバウトスに気付かない。


「ケラーネ!危ない!」


身を挺してケラーネを庇ったラコットは、また新たに深手を負ってしまう。

それに気付いたケラーネが叫ぶ。


「ラコット!あぁ、ゴメンナサイ。私の為に・・・」


ラコットは最後の力を振り絞り、バウトスとゲイルを掴み、遠くに投げ飛ばす。

そして、ケラーネを庇うように覆いかぶさる。

そんなラコットの背中をクアラフタの槍が、ジギドの鋏が苛む。


「いいんだ。ケラーネ。もういいんだよ。ボク達は十分頑張った」

「いやっ!いやだよラコット!私、まだ戦える! ・・・そうだ!私が囮になるから・・・」

「無理だよ。ボクは血を流し過ぎた。もう動けそうにない。ケラーネ。君は逃げるんだ」

いやいやと、足掻いていたケラーネが諦めたように大人しくなる。


「わかったよ。ラコット。でも、私も一緒に居るよ。だって、一人ぼっちは寂しいもん」

ハッと我に返るラコット。自分が死んだらケラーネだって助からないだろう。

竜騎兵が4人も居る、この戦場からケラーネが一人で逃げ切れるとは到底思えなかった。

何を弱気になっているんだ。メルレーンだって待ってるのに。


「・・・ボクがどうかしてた。最後まで足掻こう。2人で」


そう言って、ケラーネの方を見る。

見覚えのある腕が目の前にあった。これはゲイルの腕だ。地面の下を潜って

ゲイルの腕はケラーネを貫いていた。


「・・・ラコッ・・・ト・・・」


ケラーネは鮮血と共に、やっとの事でラコットの名を呼ぶ。


「・・・ケラーネ? ・・・ケラーネ!!」


ゲイルと共にラコットに投げ飛ばされたバウトスは地面に腕を突き刺しているゲイルを不思議に思っていると、ゲイルは独り言のように呟いた。


「そんな風に大事そうに庇ってるから・・・ついな。ぃひっ・・・ぃひっひっひ」

「きぃ・・・さぁ、まぁぁ!!」


怒りの目をゲイルに向けるが、ゲイルの腕が残った方の目も奪う。

ラコットの世界を完全に闇が覆う。

・・・ちくしょう。これで終わりか。

せっかく力を手に入れたのに。守れないのかよ。こんなもんかよ。

・・・いや、こんなもんじゃない!あの恐ろしい黒竜の力は。

こんなもんじゃないはずだ、ボクの諦めの悪さは。

こんなもんじゃないはずだ!ボクが人間の頃の感覚で勝手に限界を決めつけてるだけだ!

「ぐぅぉぉおおおおおおおお!!」


ラコットは咆哮と共に立ち上がる。何も見えないので出鱈目に腕を振り回すと何かがぶつかった感触が有った。


「ぅぎゃふ!」クアラフタだった。


何だ!やれるじゃないか!やはり黒竜の力はボクの想像を超えている!

不意に視界が開けた。

・・・なんだ!?目が・・・。

自分の体を見ると、胸に空いた大穴が徐々に塞がっていくのが見えた。

・・・再生している。これは・・・これは竜玉の力!?

ゲイルの方を見る。


「ひっ」と短く叫ぶゲイル。


ゆっくりとゲイルに向かって歩き出すラコット。その目に向けてゲイルの腕が伸びる。

ラコットは、それを避けなかった。両目にゲイルの腕が突き刺さる。

敢えて避けなかった。ラコットは、ゲイルの腕を掴み、手繰り寄せる。


「ひぃぃぃっ!!は、離せぇぇ!」


これはお前を怯えさせる演出だ。十分に畏れたか?じゃぁ噛み砕いてやる。

バラバラになったゲイルを吐き出す。また目が再生するのを待っていると

背中に痛みが走った。


バウトスだ。目が不自由な間に少しでもダメージを与えようとしたようだ。

手探りで無造作に掴み、引き千切る。

果敢に向ってくるジギドは事も無しに叩き伏せる。

一目散に逃げ出したクアラフタの背中を眺めるラコット。

逃げるのなら、それでも良いと思ったが、あっさりと仲間を見捨てるその姿に考えを改める。


走るクアラフタを上空を飛ぶラコットの影が追い越す。

クアラフタの行く手を遮るように舞い降りるラコットに、震える手で槍を向けるクアラフタだったが、直ぐに踵を返して逃げ出そうとする。


ラコットはその潔さに少しの温情を込めた拳をクアラフタに叩きこんだ。

クアラフタが動かなくなったのを見ると、ラコットはケラーネの元に急いだ。


「ケラーネ!」

「・・・ラコット?凄いね。傷だらけだったのに、すっかり治っちゃったね」

「君の傷も治せればいいんだけど・・・」

「大丈夫。ドラゴンは、こんな小さな傷じゃ死なないよ。でも、これ以上は足手まといになっちゃうから・・・」

「そんな事、気にしないでいいから!」

「ゴメンね。ラコットにはやらなきゃいけないことが有るんでしょう?メルレーンって人が心配なんでしょう?私は安全な所で見守ってるから。ラコットの事」

「・・・わかった。1人で大丈夫?」

「心配しないで?このくらいの傷なら飛べるわ」そう言って羽ばたいて見せる。


ラコットはケラーネを見送る。少しふらついているけど問題なく飛べているようだ。

ラコットは安堵の表情を浮かべた後、砦の方向を睨み、翼を広げた。


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