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三話 フォックスクランブル


 緑の葉をたっぷりつけた木の枝と、そこから除く青空が目に映った。


「あれ?」


 目を瞬かせる。

 喉の渇きが消えている。空腹も無い。まさかの天国? いあー天国って随分森っぽい場所なんだね、というか。

 仰向けに寝た体勢から上半身を起こす。周囲を見回して思った。死んだ場所の森だこれ。天国じゃない。


 数メートル離れた木の陰を見る。怯えきった子狐が尻尾を丸めてガタガタ震え、きゅんきゅんか細い鳴き声を上げながらこちらを見ている。


「何が起きた……?」


 私は確かに死んだはず。喉笛を喰い千切られた生々しい感触がまだ残っている。

 首を触る。

 しかし噛まれた痕がない。


 えっ。

 ちょっ、えええ?


 もう一度体を確認する。身長体格髪etc、全て死亡前と変わらず、というか日を追う毎にハリを失ってしわしわになっていた肌もすべすべに戻っている。足の裏を見てみれば擦り傷も消えている。完全に初期状態に戻っている。

 不可解な現象。まさかまた手術を受けて同じ肉体のクローンに脳移植を……いや、子狐がまだいるという事は喉を喰い千切られてからほとんど時間が経っていないという事。とても手術する暇は無かったはず。

 足元を見ると灰のようなものが溜まっている。触ってみても灰のように軽くて灰のような臭い。つまり灰か。なんで灰?


 死ぬ前は安楽死したいと思ったけど、いざこうして健康な状態で生き返る(?)と生きてて良かったと心底思う。思うけど、なにこれ。

 周囲に木の三角錐は無く、点々と森に刺さった木だけがある。時間が巻き戻って出発地点に戻ったわけでもない。死亡後すぐさま、単純に、体だけ、記憶以外が初期状態に戻った、という事になる。そんなファンタジーやメルヘンじゃないんだから。


 まだ怯えて動かない子狐をじっと見る。殺された、という憎しみは全くわかない。極限状態で脳がおかしくなっていたからか。むしろ可愛らしく感じる。

 この子狐は私を噛み殺した子狐で、私に何が起きたのか目撃しているはず。その何かを目撃したせいでこんなにも怯えているとみて間違いない。

 何が起きたのか聞ければ一番なんだけど、残念ながら狐語はちょっと分からない。


 それでも調べるだけ調べてみようと子狐に近づく。貴重な手がかりに逃げられないように、そーっとそっと。

 子狐はいくら近寄っても弱弱しく鳴いて震えるだけで逃げようとしない。

 子狐の目の前三十センチでじっくり観察する。うーん、ただの狐に見える。


 もしかして中身はロボットなのかと思って毛皮を触って感触を確かめてみる。


「!?」


 反射的に手を放した。びっくりするほど熱い。尋常じゃない熱だ。

 そう思ってよく観察すると、怯えて震えているのではなく全身が不規則に細かく脈打つように蠢いているのが分かった。鳴き声も怯えている声ではなく、苦しんでいる声。

 一体何だどうしたと警戒して逃げる準備をしながら見ていると、子狐の尻尾が裂けるチーズの如く一気に先端から分かれ、二本になった。分かれて細くなった尻尾はブワッと膨らんで毛を伸ばす。もふもふ力が二倍になったところで子狐は脱力し、へなへなとその場に伏せた。


 えー。

 なんぞこれ。


 とりあえず危険はなさそうだったので私も座り込む。そっと手を伸ばして子狐の尻尾を触ると、幻覚でもなんでもなくボリュームたっぷりの二本の尻尾の感触がした。にぎにぎするともふもふする。

 おお。

 おおおおお。

 おおおおおおお。

 おおおお……はっ!

 いけない無心でもふってた。


 ……いや、でも、これ、もう、なんだか変に考え込まない方が良い気がしてきた。

 明らかに脳移植とか誘拐とかクローンとかそういうレベルじゃない。どう考えても私が知っている科学では説明できない状況、つまり考えても無駄。

 まず死んで生き返ってまた死んで生き返ったのが意味不明だし、子狐の尻尾分裂も全過程で三十秒ぐらいしかかかっていない。もともと尻尾が分かれる品種の狐だったというのは無理がありすぎる。


 変に科学的に考えようとするとおかしくなる。頭を柔らかくしないと脳みそがフットーしてしまう。

 多分、そう、宇宙から降り注いだ特殊な宇宙線のせいで森の中に飛ばされ、その時発生したプラズマの影響で突然変異を起こして死んでも不死鳥のように生き返る体になった。子狐は私の肉を食べたせいで尻尾にブルーツ波が集中して変化したとかそんな感じじゃないかなよくわかんないけど。偉い学者さん達に調べて貰えば何か分かるかも知れない。


 細かい理屈はひとまず棚上げにして、どうやら死んでも生き返るらしい、という事はまず間違いないはず。最初の蘇生と二回目の蘇生では少々形式が違うが、最初の蘇生で体質が変化したと考えれば筋は通っている。

 ただし蘇生に回数制限があるのかは不明だから油断はできない。調子に乗って無茶をして何度も死んでから十二個しか命のストックがないと分かったりしたら困る。回数制限があってもなくても死ぬのが怖いのは変わらないから、結局水と食料探索をして、人里に移動、という当初の方針は変わらない。餓死前提で死にながら人里を探して彷徨ったらきっと発狂する。二回死んで錯乱を起こしていないのは我ながら奇跡的だと思う。奇跡的というか例外的で、落ち着いているのは単に死んでも死なないと分かった安心感のせいかも知れないけどまあ自己分析はこれぐらいにしておいて。


 問題はこの子狐。尻尾の枝分かれで体力を消耗したのか落ち葉に突っ伏してぐったりしている。

 どうしようこの子狐。選択肢は……「放置」「殺す」「連れていく」の三つか。


 放置すれば足手まといを連れていく必要がなく、何事もなかったかのように身軽に探索を続行できる。ただしこの状況や自分の体についての手がかりを逃す事になる。

 殺すのは放置を過激にした処置。変異を起こした子狐が狂暴化して襲ってくるとか、生態系に変な影響が出るとか、そういう危険の芽を摘み取っておける。ただ危険の芽といっても発芽するか疑わしい。ちょっと過激。

 連れていくのは逃げないように監視したり食料を子狐の分も集めたりと労力が増える。一方で貴重な手がかりを手元に置いておける。


 子狐の寝顔をじっとみる。ゆっくりとした寝息に合わせてひげがゆれている。


「……うーん」


 これは殺せない。殺されたけど、殺せない。生きた魚を捌くのとは訳が違う。こんな愛くるしい生き物を殺すなんてよほど切羽詰ってないとできない。

 多分私が元気で、かつ食べ物を与えていれば喉笛にかみついて来るなんて事はないだろうし。子狐は弱肉強食の自然の掟に従って私を食べただけと考えれば憎しみも沸いてこない。私だって餓死寸前の状態で半死半生の牛が転がっているのを見つけたら喜んで食べる。

 まあ流石に今度喰い殺されそうになったら殺さないといけないけど。子狐が人を襲うようになっても被害は知れているものの、人の味を覚えた獣を野放しにするとどうなるか分からない。


 やっぱり連れていくのが一番だろうか。

 人里に降りた後研究者に渡せば何か分かるかも知れない。子狐に興味がいってくれれば私が研究材料としてヤメロショッカーされる危険性も減る。

 なんだかんだで一人が寂しいというのもある。

 それに何よりも連れていきたい。個人的ペットにしたい動物ランキングで二位に大差をつけてトップに輝く狐、それも妖狐っぽく尻尾二本で子狐とくればもう連れていくしかないよね! 連れて行こうそうしよう。













 子狐にはタマモと名付けた。スターフォックスとかマイケルJフォックスとか色々候補はあったが、最終的には有名な化け狐から拝借した。分かり易くてシンプルなところがいい。ついでに語感もいい。

 おねむのタマモをだっこしながらまた枝を刺し刺し探索を続ける。今日も枝を刺す(命がけの)作業が始まるお……

 と、鬱になっていたら、八十二本目の枝を突き刺したところで木々のざわめきに混ざって微かな水音が聞こえた気がした。

 

 一瞬気持ちがざわっと膨らんだが、何度も空耳に騙されてガッカリしているので、ぬか喜びにならないように心を落ち着けてじっと音に意識を集中する。

 ……確かに水道を少し開けてタライに張った水に水を流しているような音が聞こえる。


 本当に水かこれ。水が見つからない事に慣れ過ぎて、なんだか半信半疑になる。水が見つかるまでもう一回ぐらい餓死するかも、と後ろ向きの覚悟をしていただけに願望から来る幻聴じゃないかという疑いが強かった。でも水音が聞こえる。聞こえてる、と思う。たぶん。

 最新の木の枝から前方三方向に数歩歩き、最も水音が大きくなる方向を割り出す。その方向に進んでいくと、三十歩ほどで小さな沢を発見した。

 幻覚じゃない。幻聴でもない。本当に沢があった。積もった落ち葉の絨毯の間を縫うようにして石がむき出しになった地面が蛇行して続いていて、水が浅く緩やかに流れている。水面に反射した木漏れ日が月並みな表現だが宝石のように輝いて見えた。流れに沿って大きな葉を広げたフキの群生が点々とある。


 沢縁にひざまずき、タマモを膝に置いて両手で冷たい水をすくう。ひんやりと手に染み入る水を飲むと、口から食道、そして胃へ落ちていくのが分かった。

 水が美味しい、と感じたのは生まれて初めてだった。全身に胃から水分が広がっていくような心地よい錯覚にしばらく酔う。


 死んでまで探し求めたものを手に入れ、深々と息を吐いた。涙が滲む目元を拭い、水が垂れた喉元を手で擦る。口から垂れた水は喉元から胸、腰のあたりまで濡らしていた。タマモの毛皮にも水滴がついている。


「……あー」


 空を仰ぐ。水と食料入手の目途が立ったらなんだか文明人として恥ずかしくなってきた。全裸て。誰も見てないけど。服が欲しい。

 春とはいっても森の空気は水気を含んでしっとりひんやりとしている。更に木々の間を抜けていく風があり、生い茂る葉で地表に届く太陽の光は少ない。要するに肌寒い。体を冷やさず体力消耗を抑えるためにも服は欲しい。


 タマモをそっと水際に置いて、沢縁に生えているフキの葉を手のひらで触ってみる。水際にあるだけあってしっとりしていた。でもしなやかさは十分で、軽く引っ張っても破れな……破れた。繊維に沿って派手に裂けた。あ、でも繊維に垂直方向には結構強い。これでいいか。

 麻も綿も絹もあるわけないので、服はフキの葉っぱで作る事にする。

 特に大きなフキの葉を六枚とり、芯の部分を抜く。三本をちまちま三つ編みにして、できた三つ編み二本を結んで腰を一周できる程度の長さの紐にする。

 フキの葉を切ったり折ったりして前掛け風とマント風の二枚を作り、頭からかけて腰を紐で回して留める。膝上丈変則ワンピース風の服になった。下着も同様につくる。

 着心地は悪い。肌触りが悪くてムズムズするし見た目の割に重いしなんだか動きにくい。


 しかし完成した服に身を包むと、急になんとも言えない安心感がわいてきた。服が「森」と「自分」の間に境界を作り、自分の陣地というか安全地帯というか、そういうものができた気がする。いや絶対錯覚なんだけども。というか今までが不安感に包まれていたのかも知れない。やっと人間らしくなってきた。


 水場を確保して、服もできた。衣食住の内衣だけ申し訳程度に満たしている。住を満たすには時間がかかるから置いておくとして、次はいよいよ食を整えたい。

 でもその前にちょっと休みたい。タマモ、わたしはもう疲れたよ。なんだか、とても眠いんだ。

 体力はそれほどでもないが気疲れが酷い。頭の中にごちゃごちゃとバグが溜まっているのが分かる。人は睡眠時に記憶の整理をするという。一眠りすれば漠然としたもやもやに包まれた頭もすっきりするはず。こんなに頑張ったんだから少しぐらい休んでもきっとバチはあたらない。


 私は太い木の幹の根元で横になり、タマモを抱えて丸くなった……

 …………

 ………

 ……

 …











 腕の中で何かがもぞもぞと動く感触で目が覚めた。見れば目覚めたタマモがフキ服の匂いを興味津々な様子で嗅いでいた。

 一瞬状況が掴めなかったが、すぐに思い出す。眠ったんだった。

 日はかなり傾き、空は茜色に染まりはじめている、半日ほど寝ていたらしい。思ったより寝ていなかった、起きたら夜か翌朝ぐらいはあるかなと思っていたんだけども。


 日没までそんなに時間は無い。どうしようかと思案する。

 抱え込んだタマモはもぞもぞしているだけで逃げる様子はない。私の視線に気付くと動きを止め、「ねえねえ、これから何するの?」とでも言うかのように見つめ返してくる。

 懐かれた? どこに懐かれ要素があったのかよくわからない。


 試しにタマモを解放して立ち上がり、数歩歩くとてってこついてきた。懐かれたらしい。いや、単純に変な生き物に好奇心を刺激されてるだけかも分からん。でも好奇心だけで野生動物が見知らぬ生き物に抱きかかえられて大人しくしてるとも思えないし、実際どうなんだろう。


「…………」


 前脚で頭を掻いているタマモを見ながら考える。

 一緒に連れていくと言っても、この状況から首輪をつけたり檻に入れたりして完全に逃げられないようにするのは難しい。仮にできたとしても暴れたり逃げようとされたりしたら衰弱死するかも知れないし、それを抑え込むのも大変だ。

 餌付けして自発的についてこさせるのが楽でいい。食料は自分で探してきてもらって更に自発的についてきてくれればそれが最良だけど、流石にそれは、ない、か? 案外遊んだりあやしたり構ってあげればついてくるような気もする。というか遊んであげたい。戯れたい。キツネかわいいよキツネ。小さな三角耳をはみはみしたい。


 くっ、でもタマモと戯れてたせいで時間使って餓死するのも嫌だ。水で誤魔化せてはいるけどお腹へった。

 結局若干餌付け+構うで好感度を上げて自発的についてきてもらう事にする。これで逃げられたら仕方ない。


 遠くに行くと日が落ちてから沢の位置が分からなくなるので、水音が聞こえる範囲で食料探しをする。

 サバイバルの勉強をした事はなくても、聞きかじった知識をかき集めれば確実に食べられると分かる野草はそれなりにある。

 分かるのはタケノコ、ドングリ、クリ、クルミ、セリ、フキノトウ、フキ、サトイモ、ワラビ、ゼンマイ、ヨモギ、ツクシ、タンポポ。木々の新芽から察するに今の季節は春だから、秋に実クリ、ドングリ、クルミは除外。竹が見当たらないからタケノコも外す。するとセリ、フキノトウ、フキ、サトイモ、ワラビ、ゼンマイ、ヨモギ、ツクシ、タンポポしかない。ワラビとゼンマイとフキは見つけたが、生では食べられないから保留。ツクシも生で食べられず、日のあたる場所で育つタンポポも抜いて、サトイモは確か外来植物だったはずだから、野生で見つかるかは微妙なところ。フキノトウはフキの花で、フキの群生がある時点で見つかる望みは薄い。するとセリとヨモギしか残らない。


 見つかっても三食セリとヨモギ。そんな草食動物じゃないんだから。

 いや、贅沢は言うまい。餓死よりはマシ。


 沢があるなら水辺に生えるセリが見つかるかな、と思ってフキの葉をかき分けかき分け探索すると、あっさり見つかった。この独特の葉の形、間違いない。匂いが無いのは野生品種だからだろうか。

 立ち上がるとフキ林の入り口の離れた場所でタマモがごろごろしているのが見えた。逃げる気配はない。


 ぶちぶちとセリをむしり、沢の流れで軽くすすいで口に入れる。生なだけあって筋張っていて、水気がたっぷりだった。

 胃に限界まで詰め込むつもりでひたすらむしって食べる。五口目ぐらいであまりの味気無さに嫌になってきたが食べる。塩の一つまみか醤油の一滴でもあればいいのに。

 しかしやっぱり市販のセリとは味が違


「あ、れ?」


 唐突にくらりと頭がゆれ、その場に倒れた。食べ過ぎたからかお腹にも鈍い痛みがある。

 生水に生食で食あたりでも起こしたかと思い切り上げようとするが、今度はどんどん息がし難くなってきた。


「う、あ、お、げぇえええええ!」」


 体がびくびくと勝手に痙攣し、刺すような腹痛と共にわきあがる吐き気。たまらず吐瀉物を吐き出す。すっぱい臭いのする胃液と一緒に半消化されたセリがびちゃびちゃと沢辺にまき散らされた。

 これは尋常じゃない。立ち上がろうとするが眩暈が酷く視界が揺れ、意識まで朦朧としてくる。


 助けを呼ぼうという考えが一瞬頭を過る。しかし近くにいるのはタマモだけ。子狐がいてもどうにもならないし、また喰い殺される悪寒すらする。というか内臓を掻きまわされるような腹痛と吐き気と呼吸困難のコンボでもう声が出なかった。


 なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで。どうして私がこんな目に!

 もういっそ一気に死にたい。でも舌を噛んで自殺するもの怖い。でも苦しい。でも自殺は怖い。でも、でも、でも。

 迷いと苦しみでフキの葉をなぎ倒し沢の水をまき散らしながらのたうち回り、私は――――












「嘘だと言ってよバーニィ」


 気がつけば裸になっていて、足元にまた灰が積もっていた。

 また死んだ。生き返れたけど、死んだ。今までで一番苦しい死に方だった。思い出したくもない。

 しかしナンデ? 中毒死ナンデ?

 まさかセリっぽくても違う植物だった? そんな馬鹿な。こんなにセリっぽいのに……そういえばセリ特有の匂いが無かった。え? そこ? それだけで判別するの? なにそれ怖い。なんというデストラップ。リザレクションが無かったら即死だった(?)。


 沢の水を飲んだ時は大丈夫だったから、水溶性の劇毒ではない、と思う。触ったり食べたりしなければ大丈夫。そう、触ったり、食べたり、しなければ。

 また食料がなくなった。神様は私に恨みでもあるのか。というか殺して生き返らせてをやってるあたり愉快犯的に楽しまれてるのか。いいよ、笑いなよ。ハハハッ。

 ……はあ。


 凹んでいると足元に冷たい感触があった。見ればタマモが心配そうに鼻を押し付けてきている。叫び声はなくてもあれだけ七転八倒していれば気付くか。毒に当たっている時はいっぱいいっぱいで分からなかったが、一部始終を見ていたらしい。

 鼻を押し付ける次は舐めてきた。心配はうれしいがくすぐったいので剥がしてぎゅっと抱きしめる。タマモは抵抗もせずにされるがままだった。


 ああ、あたたかい。癒される。人肌じゃなくても人は落ち着くという事を思い知る。


 タマモから何かこう生存に必要不可欠なふわふわしたものを思う存分摂取し、顔を上げると、いつのまにか一メートル先もはっきり見えないぐらい暗くなっていた。

 これはもう迂闊に動けない。明日の事は明日の私に任せる事にして、タマモを抱きしめて眠った。明日こそは死にませんように。


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