奇譚
今から4ヶ月ほど前のこと。
「未理、高校どこにするか決めた?」
夕食の席で母が突然尋ねてきても、未理は驚かなかった。この時期になれば親なら誰でも訊いてくることだ。
「いやまだ全然。麻衣と同じとこ行くとは決めてるけど。あ、でも、距離的には菊頭かな」
「そっか~。菊頭っていえば、お母さんのいた高校だね」
「え、そうなの?」
「あれ、言ってなかったっけ」
「聞いてないよ!」
という経緯で、未理は母の出身校を知ったわけだが、この後母が気になることを言い出した。
「……そういえば、菊頭高校ってね。面白い話があったんだよ。今でも続いてると思うんだけど」
「面白い話?」
そして未理は七不思議について聞かされることになる。
なんでも菊頭高校は別名『七不思議の学園』と呼ばれているらしい。その名前には理由がある。
どの学校にも七不思議なんてものは存在してもおかしくはないが、菊頭の場合はただの怪談話ではなく、「本当に出る」らしいのだ。実際に行方不明者などもいるらしい。
そして何よりもおかしな点が、年度が変わるごとに七不思議の内容が全く別のものに変わるということだった。
未理の母は25年ほど前に在学していたらしいが、1年生の時に聞いた七不思議と、2年生の時に聞いた七不思議とは、それぞれ内容が全く違っていたという。3年生の時も同様であった。
――ただ一つの不思議を除いて。
「ただ一つ? それって、どういう意味?」
未理は少し気になり始め、母に尋ねた。
「七不思議の内容はなぜか毎年変わるんだけど、なぜか一つだけ、全く変わらずに受け継がれてる話があったんだよ」
「それって、どんなの」
「えっと、七不思議にはそれぞれ題名みたいなのがあるんだけどね、確かその話の名前は……『永命探偵』、だったかな」
「エイメイタンテイ?」
未理はその言葉だけを聞いてもさっぱり意味が分からなかった。
「永命探偵っていうのはね、確か……こんな話だったかな。私は友達から聞いたんだけど」