精霊の見える喫茶店 ~ファースト・ストーリー~
「お姉ちゃんお姉ちゃん! てるてる坊主見つけた!」
来客を告げるベルよりも大きな声を上げながら走る妹の姿を見つけ、私はグラスを磨く手を止め視線を横に動かすと窘めるように言った。
「妹、もう少し静かに。ここがどういう場所なのか、分かっているでしょう?」
「お姉ちゃんの喫茶店! それぐらい私にも分かるよ!」
屈託なく微笑む妹に、私は微かな嘆息と苦笑を漏らす。
ここが喫茶店と分かっているのなら、その底抜けに明るい声のボリュームをもう少し抑えてほしいのだが、恐らく今の彼女に言っても無駄なことだろう。つい先日十歳の誕生日を迎えたばかりの妹に、場の空気を読めというのも少し酷な話に思える。
もっとも、今は営業時間外なのでお客は誰一人いないのだけれど。
「それで、見つけたものは何だったかしら?」
よく見ると妹はその小さな手をきゅっと、まるで壊れ物でも扱うかのようにふんわりと握りしめている。
「てるてる坊主! あのね、森の入り口で泣いてるのをね、見つけたの!」
私の正面の席に着くと、妹は今まで握りしめていた両手をそっと開いた。
喜色満面といった表情の妹だが、しかしその手の上には特に何も見えない。傍目から見ても何も見えないのだが、私には手の平の上の“誰か”の声がハッキリと聞こえていた。
ひっく……ッ、ぐすッ……、しくしく……
「ね、泣いてるでしょ?」
さっきまでの明るさとは打って変わり、妹は眉根をくしゃっと曲げ私の方を心配そうに見上げている。
そう、私の耳には確かに泣き声が聞こえていた。
泣き声こそ聞こえるものの、その“誰か”の姿カタチは私には見えない。けれど私には、その声を聞くだけ十分に分かった。
「えぇ、確かに泣いているわね。……少し、お話してもいいかしら?」
「お願い、します!」
そんな所作を何処で覚えたのか、ぺっこりと頭を下げる妹に再び苦笑してから、私は誰もいないはずの手の平に向かってそっと声を掛けた。
「もし。私の声、聞こえるかしら? 聞こえたのなら返事を頂戴」
『……だ、誰? 私の声、聞こえるの?』
どうやら手の平の上の“誰か”とは女の子らしい。
美しい竪琴の音色のように澄んだ声色だが、微かに震えているのが分かる。見知らぬ存在を前に恐怖しているのだろう。私は警戒させないようにと、平時よりもさらに声を和らげ“彼女”へゆっくりと話しかけていった。
「恐がらないで。私はキミの味方よ。妹が、泣いているキミを見つけてここまで連れて来てくれたのよ。分かる?」
『妹……? じゃあ、あなたはこの子のお姉さん? でも、私の姿は』
「見えなくても、その声を聞けば分かるわ。何かお困りのご様子なのね」
お誂え向きにここは喫茶店。
まずはお茶でも出して彼女にリラックスしてもらおうか。気分を静める効果のあるハーブとティーポットを棚から取り出そうとして――私は妹から肝心なことを聞くのを忘れていたのを思い出した。
「ねぇ、手の平の上の彼女、どんな姿をしているの? 教えて頂戴?」
「はーい。んじゃ、ちょっとゴメンね」
妹は手の平をそっと動かし、手の上に居るであろう“彼女”をゆっくりとカウンターに降ろす。そしてスケッチブックと鉛筆を取り出すと、鼻歌を交じえながら真っ白な紙に鉛筆の黒い軌跡を走らせていく。
「この子の大きさは?」
「んっと、お姉ちゃんの薬指と、同じぐらい」
とすると、彼女の身長はだいたい5センチ程度だろうか。
ハーブティーを用意しながらぼんやりと考えていると、妹の手の中でくるりくるりと舞う鉛筆がピタリと止まった。出来上がった“彼女”のイラストを、妹は少し誇らしげに胸を張りながら私に見せてくれた。
「出来たよ!」
妹の描いた“彼女”の全体像。
どうやら“彼女”は大きめの白いレインコートを着ているらしく、頭はすっぽりとフードで隠しているが、ほんの少しだけ、フードの奥から毛先が見え隠れしている。
なるほど確かに、これではまるで、てるてる坊主に手足が生えてそのまま歩き出したかのような格好ではないか。
出来上がったイラストを眺めつつ、私は茶葉を入れたポットにお湯を注いでいく。この店、そして私が編み出した独 自ブレンドのハーブティーを蒸らしながら、彼女用のカップとソーサーを用意するため、ここでくるりと体を回しあるモノに手を伸ばした。
それは、カウンターの奥に置かれた小さなドールハウス。
本来は人形たちのお茶会のために用意されたはずの、私の指先程度の小さなちいさなカップとソーサーを拝借すると、ポットのハーブティーを一滴、また一滴と慎重に注いでいく。ついでに、ドールハウスの中にあったテーブルと椅子も借りると、その上に出来たてのハーブティーのカップをそっと乗せた。
「どうぞ召し上がれ。これを飲めば、少しは落ち着くと思うわ」
泣き声の方は多少鳴りを潜めたものの、時折しゃくり上げているのは分かっていた。ハーブティー、彼女の口に合うといいのだけれど。と、ミニチュアテーブルの上のカップが、ふわり、と音も無く浮かんだ。
『……美味しい。これ、凄く美味しいです』
「ふふ、ありがとう」
さて、一息ついたところで早速話を、と思ったのだが、不意にぽつぽつと小さな音が屋根を叩くのが聞こえてきた。窓に目を遣ると、どんよりと広がった濃い灰色をした分厚い雲から雨が降り出していた。
「あ……」
降り出したのと同時、妹がしょんぼりとした声を上げる。何かあったのだろうかと私が妹の顔を覗きこむと、無言で“彼女”を示した。
「がっくり、してる。雨が降っちゃったから?」
「……あぁそうか。彼女、てるてる坊主だって言ってたものね」
ふわりと浮かんでいたカップが、カチ、と小さな音を立ててソーサーに置かれる。せっかく元気になってくれたと思ったのに、この雨の所為で台無しだ。……いや、むしろこの雨にこそ原因があるのかもしれない。何せ彼女はてるてる坊主という話だから。
『……やっぱり、駄目だった』
「駄目って、雨のことかしら?」
『……はい』
一拍の間を置いて“彼女”が答える。消え入りそうな声音を耳にし、私は何となくだが彼女の抱える悩みに見当がついたような気がした。
『私、雨に負けちゃうんです。どうしても、どう頑張っても、太陽に届かないんです』
「はて、それはどういうことかしら。キミがてるてる坊主なら、あの雲の向こうに祈りを届けなくてはいけないのでしょう?」
『だって、怖くて……』
やっぱり、か。
「お姉ちゃん、この子何て言ってるの?」
彼女の本音。
それは雨に対する“恐怖心”。
確かに、灰色の空から降り注がれる数多の雨粒は、小さな精霊たちにとっては幾千と注がれる弾丸のように思えるのかもしれない。私だって、そんな危ない雨なら御免被りたい。
「雨が怖いんですって。てるてる坊主なのに不思議ね。……ふふっ」
「何で何で、お姉ちゃん笑うの~?」
「うぅん、可笑しくて笑ったんじゃないの。ただちょっと、可愛いなって思っただけよ」
『…………』
この無言は恐らく、今の私の言葉に彼女が複雑そうな表情を浮かべているからに違いない。それを想像するのも面白いかもしれないが、これはまたの機会にしておこう。今は、彼女のためにするべきことがある。
「妹、私の手芸セットを貸して頂戴」
「おまじない、するんだね!」
『おまじない……?』
彼女は私のおまじないに興味を示したのだろうか、僅かにだけど声が此方へ向けられたような気がした。
「えぇ。この喫茶店、不思議なことにキミのような精霊さんがよく迷い込んでくるのよ。……や、正確には、此処に連れて来られるといったところかしら?」
「えへへ~」
照れ臭そうに頬を染める妹。私は別に褒めたつもりはないのだけれど、妹は今の言葉をそう感じ取ったということだろう。我が妹ながら単純である。
さて、どうして彼女のような精霊がここに来るのか少し話しましょう。といっても、その原因のほとんどは件の妹なのだけれど。
「私が精霊であるキミの声が聞こえるように、妹も、精霊の姿を見つけ、触れたり感じたりすることができるの」
「えっへん!」
そこまで威張るようなことでもないぞ、妹。
「だってだって、てるてる坊主さんすっごく悲しそうな顔してたんだもん。ほっとけないよ!」
「……自慢するわけじゃないけど、妹はご覧の通り優しい性格をしててね。困っている精霊を見つけるとついつい連れてきちゃうのよ」
『…………』
この沈黙は、何か考え事でもしているのだろうか。返事を待とうかと思ったけれど、やがて彼女の方から声を発した。
『それであの、おまじないというのは……?』
「ん、今から見せてあげるわ」
私は手芸セットに手を伸ばし、小さな針と糸、次いで色鮮やかなフェルト、大小様々のボタンも取り出していく。材料は……うぅん、これでは少し足りないか。周囲を軽く見まわし、玄関の脇に使えそうな物を発見する。
「……ねぇ妹、そこの古い箒を貸して頂戴」
「はーい」
ちょこちょこと、まるで小動物みたいな足取りで小さな箒へと駈け出していく妹。箒を受け取ると、私は手芸セットの中から新たにハサミと木工用ボンド、それにリボンや塗料と、つまようじなんかも合わせて取り出していく。妹は瞳をキラキラさせながらその様を見つめている。手芸セットの箱だというのに、あれやこれやと取り出す私の姿が面白いのだろうか。相変わらず、妹は私のおまじないを気に入っている様子だ。
「時にキミ、てるてる坊主の起源はご存知?」
『起源……ですか?』
妹の書いたイラストと手元とを交互に確認しながら、私は熟した林檎のように鮮やかな赤のフェルトにハサミを入れていく。
「そう。今でこそ私たちは『てるてる坊主』と呼び称して親しんでいるけれど、元々は中国より伝わったおまじないなのよ」
へー、と感嘆する声が二人分聞こえる。
私は作業を進めながら、同時に話も進めていった。
「諸説あるのだけれど大元となったのは中国に伝わる雲掃人形、掃 晴 娘だそうよ。
――その昔、中国のとある地方の村では毎日のように大雨が降り続いていたの。
ある日、村に住んでいる晴娘という人が天に向かって祈りを捧げたそうなの。すると突然天から声が響いて、『龍王様が、貴女を妃にしたいと所望している。応じなければ、村をこの雨で一晩のうちに沈めてみせようぞ』と言ったそうよ」
「りゅうおうって……神様?」
「えぇ、そうよ。いきなり求婚するだなんて、ずいぶんと我儘が過ぎる神様みたいだけど」
『…………』
恐らく彼女は私の話に聞き入っているのだろう。一拍置いてから、話を続ける。
「彼女は言われた通り、龍王の妃となることを決め天に上ったわ。すると、あれだけ立ち込めていた暗雲が嘘のように消え去り、村に平穏が訪れたの。だけど、龍王の妃となった彼女は当然村に戻って来ることは出来ず、村の人々は彼女をしのんで、雨の降る季節になると、自分たちの娘に彼女の姿を象った切り紙を作らせて家々の門に飾ったの。これが、てるてる坊主の起源とされているわ」
一通り語り終えた私は自分のハーブティーに一口つける。
妹の好奇心に満ち満ちた瞳が、私に訴えかけているのが嫌でも分かった。
「はいはい! 質問!」
「どうぞ、妹」
「お姉ちゃんの作ってるおまじないってその、そうせいにゃん? ってヤツなの?」
『え? 中国のてるてる坊主を作ってるんですか?』
「ふふ。イイ線いってるけど、残念ながら少し外れで少し当たりね」
「ぶー」
頬を膨らませる妹に私は微笑を浮かべる。そして私は、話を続けながら作っていたあるものをカウンターに置いた。つまようじと箒の毛先とで作った、ミニチュアサイズの箒だ。
「あれ? 箒作ったの?」
「そう。今言った中国のてるてる坊主はね、その晴娘の当時の姿、赤い服を着せて箒を持たせるのが普通なのよ。赤い外套は豪雨から身を守り、箒は雨雲を払い除けるとされてるの。だから、ホラ」
今しがた作ったミニチュアの箒と、その隣には赤い外套が出来上がっていた。サイズはこれで合っているだろうか。少し心配だけれど、ひとまず妹に視線を動かしてみた。
「うん、ちょっと待ってて!」
意気揚々とミニチュアの箒と外套を手に取ると、妹は彼女の元へと指を動かす。すると、不思議なことにミニチュアの箒と赤い外套がフッと、音も無く姿を消してしまった。
『……ど、どうですか?』
「うん! すっごく似合ってる! イイ感じだよ!」
『あ、ありがとうございます……』
「鏡、貸してあげるね!」
ここでまたドールハウスの家具の出番。
何度も借りてしまって申し訳ないけど、妹は鏡台を引っこ抜いてミニチュアテーブルの傍にちょんと立てた。たぶん、彼女は外套と箒とを握りしめて鏡の前でくるりと体を回して塩梅を確かめているに違いない。ただ、妹と違って彼女の姿の見えない私としては、ちょっと残念。箒と外套も、精霊が触れてしまったものは基本的に人には見えなくなってしまうし。
「でもでも、お姉ちゃん。こんな姿にして何の意味があるの?」
確かに。精霊の声が聞こえる私が作ったとて、出来上がったのは何の変哲もない小さな箒と外套に過ぎない。おまじないと銘打ってはいるが、実際特別な力は何ら備わらない。
「原点回帰、かしらね」
「げんてん……?」
『かいき……?』
妹は不思議そうに首を傾げている。恐らく、彼女も。
「何かに迷った時、困った時、私はよくそうするの。自分の原点に帰るのよ」
「げん……てん?」
「もっと分かりやすく言うなら、初心に帰る、とか、自分の最初の気持ちに帰るって感じかな」
『最初の気持ち……』
「そう。一番最初の気持ち。あなたが生まれた時、いや、創られた時、どんな気持ちだったのかしら」
『どんな、気持ち……?』
私は胸に手を当て、瞳を閉じる。
「あなたが生まれた時、そこには必ず願いや祈りが込められているはずよ。それは、私が言わなくてもわかるでしょう?」
かの国で少女が願った、彼女と同じ小さくて大きな気持ち。
根っこにある気持ちはそうそう簡単に忘れられるものじゃない。彼女だってきっと、私が導くまでもなく自分で気づいてくれるはず。
『……明日天気に、しておくれ』
「ふふふ。キミを創ってくれた人は、きっと明日素敵な出来事が待っているのね」
「何だろ? 遠足かな! それとも……遠足かな!」
「まさか。もしかしたら、好きな人とデートかもしれないわよ?」
『遠足……です。サヤちゃん、明日遠足だってお母さんにお話してました』
声に、ほんの少しずつ覇気が戻っていく感じ。
僅かな声の変化だけど、私は彼女が徐々に自信を取り戻しつつあるのが分かった。
「遠足楽しいよね! 皆で公園行って、お弁当食べて、遊んで、お菓子食べて!」
「でも、雨が降っていたら遠足も中止になっちゃうわ。だからこそ、ここで貴女の力が必要になるの」
『……わ、私!』
声を張り上げる彼女。恐怖も怯えも一切感じさせない、勇気と決意に溢れた逞しい声だ。
『私、頑張ります! あの雲を乗り越えて、太陽に届くかわからないけど……けど、明日の天気のために、サヤちゃんのために、頑張りますッ!』
「ふふッ、元気が出たみたいで何よりね」
こんな微々たる手助けしか出来なくて申し訳ないけれど、それで彼女が元気を取り戻したのなら良しとしよう。妹が手の平をそっと合わせ“彼女”を乗せて玄関へと走っていく。妹だけでは不安だし、私も見送りに行こう。両手の塞がっている妹のため玄関を開けると、軒先から灰色の空を見上げた。
「じゃあ、頑張ってね! てるてる坊主さん!」
「無理はしないように。キミが倒れてしまっては、元も子もないもの」
『あの、色々とありがとうございました! サヤちゃんのためにも私、きっと青空を手にして見せます!』
「ふふ、それは頼もしいわね」
「気をつけてね!」
『はい! それじゃあ……行ってきます!』
妹がポンと両の手を空へと掲げると、ふわっと風が舞い起こり私の髪を揺らす。風が収まると同時、妹の手が寂しそうにだらりと下がってしまった。
「行っちゃった」
「これでいいの。彼女には、彼女にしか出来ないことがあるのだから」
「……うん」
しとしとと降り頻る雨と風が冷たい。
いくら春を迎えたばかりとはいえ、このまま外にいたら風邪を引いてしまうかもしれない。
「……ほら、お店の中に戻りましょ。あったかいココアでも、淹れてあげるから」
「わーい! 私、お姉ちゃんのココア大好き!」
途端にご機嫌な妹の背中を横目で追ってから、私は玄関をそっと閉じた。
※
その、翌日。
「……おはよぉ」
「あら、おはよう。早起きするなんて珍しいわね」
時刻は6時をほんの少し経過したところ。普段の妹なら、だいたい遅刻寸前までは寝ているはずなのに、今日に限ってどういう風の吹きまわしだろう。
「てるてる坊主さん、どうなったのかな」
「……なるほどね」
妹は彼女の事が気になって早起きした――いや、気になっていてあまり眠れなかったのだろう。証拠に、目元に小さなくまが出来ていた。
「気になる?」
私はもったいつけるような言い方で妹に言うと、寝ぼけ眼の妹はこくり、と小さく頷いた。
「ほら、こっちおいで」
百聞は一見に如かず。
私はテラス席の方へ妹を手招きすると、カーテンの端をそっと摘まんで妹が来るのを待つ。
「さ、どうぞ?」
妹が窓の正面に立つその瞬間を見計らって、私は勢いよくカーテンを開け放った。
「……わぁッ!!」
降り注ぐ麗らかな陽光。木々にこぼれ落ちた溢れんばかりの銀色の雫。そしてその最奥、雲一つない青空の真ん中に、まるで世界の果てまで届きそうなほど大きくアーチを描く七色の掛け橋。
「すごいすごい! てるてる坊主さん、頑張ったんだ!」
「えぇ、どうやら成功したみたいね」
「やったぁッ! あっはははは!」
まるで自分のことのように喜ぶ妹を見て私も笑みを浮かべる。あまり大それたことは出来なかったけれど、それでも、誰かの力になれればやはり嬉しいものだ。妹も、私も、揃って太陽に負けないくらい微笑んだ。
「お姉ちゃん! 私たちも遠足に行こうよ!」
「えぇ? でも、今日はお店を開ける日で――」
「いいの! ほら、早く準備しようよ!」
「あぁん、そんな引っ張らなくても。わかった、わかったから」
強引に私の腕を引っ張る妹に苦笑しつつ、私は店の玄関に掛けてあった看板を『clause』のままにしておいた。
突然の臨時休業だけれど、たまにはそういう日があってもいいのかもしれない。
「…………ふふッ」
だって、空はこんなにも良い天気ですもの。
~おしまい~
お初の方は初めまして、お見知りおきな方も含めて初めまして。
夜斗です。
このたびは、オリジナル短編『精霊の見える喫茶店』を読んでいただき、ありがとうございます。
なお、『見える』という部分は“み”えると“まみ”えるのダブルミーミング。
これは、オレがてるてる坊主でお話を書きたいなぁと思って書いたファンタジーなお話であり、作者にとっては初の一人称視点の物語。
本来は電撃大賞の短編に応募しようと考案したものなのですが、予想以上に物語のボリュームが足りず、結果おおよそ7000文字程度の短編として此方に投稿いたしました。
それと、姉、妹、てるてる坊主の女の子に名前はありません。ミスなどではなく、これは仕様です。
よろしければ、ご感想、ご意見ご指摘など頂けたら嬉しいです。