研究者→白衣の男、研究対象→リサ 2
血生臭い研究室に新たに少女が来てから一週間が経っていた。
「リサ、いい加減答えてくれないか?君の嫌いな生物は?」
リサ、それが少女に与えられた名前だ。
しかし、少女は認めていなかった。
自らを証明する唯一の名前を全て奪って行った相手に与えられる。
そんな現実を認められなかったのだ。
まあ、それが続いたのは最初の内だけで、今では無意識に反応するようになっていた。
それでも、先ほどの男の問いにはまったく答えない。
自分自ら、これから変えられる事となる異形を決めるなど出来るはずも無いだろう。
もちろん、男に決めさせるより、自分で決めた方が言い事はリサも気付いている。
でも、成りたい異形などリサにはない。
そもそも、異形に成りたくないのだから当たり前だ。
故に一週間も経っていた。
そんな風に答えをあやふやにするリサに対して男はしばらく机に向かって考え込んだ後に部屋の角のあった本棚から数冊本を取り出し、読み出す。
その光景をリサは不思議そうに見つめていた。
「ん?気に成るかい?これは、あれだ同人誌だよ」
そう言い、リサに見せる本の表紙には確かにそれらしい絵が書かれている。
「これは同人誌の中でもTFと言われるやつさ。内容はそうだな・・・正しく、今の君達みたいな内容さ」
見せた方が早いと考え、男は檻の前に本を放り投げる。
それで丁度開いたのは一人の少女が異形へと姿を変えられるページであった。
リサはすぐに目を逸らす。
以前の彼女なら、気持ち悪いとか言いながら笑えた話だろう。
しかし、今は笑えない状況だ。
「つまり、これは私の参考資料な訳だよ。これらを読みながら薬を作ったりするんだ」
檻の前の同人誌を拾いながら告げる。
のんびりしていると、自分は最悪のシナリオを用意出来る、と言われているような気分になる。
実際に男は告げているのかもしれない。
リサは焦ったように思考する。
自分が一番、異形となって大丈夫な生物は何だ?
しかし、思いつくわけない。
どんな物になっても待っているのは絶望だけなのだろうから。
そうと分かっていても必死に思考を巡らせるしかあるまい。
そうしてリサが必死に動物の姿を思い浮かべては拒否していると電子音が鳴り響いた。
数台あるパソコンのディスプレイのうちの一つにメールが届いたらしい。
男はため息を大いに吐いて、同人誌を本棚に戻してからディスプレイに向かう。
そして、じっくりと読んだ後、鉄格子まで来て告げる。
「まったく、君がなかなか教えてくれないから。組織の方から命令が来てしまった」
リサには男の言っている意味がよく分からなかった。
しかし、これから先に続く言葉が良い事の訳がない。
「君の堕ちる生物が決まったよ」