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野井琅世のコメディー短編置き場

オッス! オラ、公爵令嬢! 婚約破棄されたら神になっちまったぞ!

作者: 野井琅世
掲載日:2026/10/24



「公爵令嬢! お前との婚約を破棄する!」


 オッス! オラ、転生者!

 前世で、階段から落っこちて、気が付いたら、この世界に転生しちまってた!

 そんでも、公爵令嬢に生まれ変わったから将来安泰だと思ったら、夜会で王太子に婚約破棄されちまって、オラ、おっ魂消(たまげ)たぞ!


「聞いているのか⁉ 公爵令嬢!」


 ……おっと、いけない。

 某戦闘民族の物真似で現実逃避している場合ではありませんでしたわ。

 王太子殿下に婚約破棄を宣言されているのですから、どうにか対応しないといけませんでしたね。


「正気ですか?」

「いきなり正気を疑うな!」


 ……言葉が過ぎたかもしれませんね。

 いきなり、殿下の正気を疑うべきではありませんでした。

 どれだけ殿下の正気が疑わしかろうとも、まずは、言葉の真意を確かめる必要がありました。


「頭は大丈夫ですか?」

「言葉が変わっただけだろ!」


 いけない。

 今度は、殿下の頭その物を疑う言葉が出てしまいました。

 ……でも、仕方がないじゃないですか。

 私と言う婚約者を放置して、殿下が愛おし気に腕に抱くものを見れば、殿下の頭を疑いたくなります。


「私は、お前との婚約を破棄し、ここに居るシュガーたんと添い遂げる!」


 殿下の宣言に、正直、頭痛がしてきました。

 殿下の腕の中。

 そこに居るのは、ピンクの髪にピンクの瞳、底抜けに明るい笑顔の可愛らしい少女。

 まあ、何と言うか……


「抱き枕ではないですか!」


 そう、殿下が腕に抱いているのは、漫画キャラのイラストが描かれた抱き枕です。

 描かれているのは、魔法少女物の漫画の主人公。

 何と言うか……、二次コンだったんですね。王太子殿下。


「黙れ! シュガーたんは、疲れ切った私に笑顔を取り戻させてくれたのだ! 抱き枕とか言うな!」


 抱き枕は抱き枕でしょう。

 既に、色々とややこしい事態になっているのですから、これ以上、面倒な事を言い出すのは止めてほしいです。


「お前には悪いが、私は本当の愛を知ってしまったのだ! 婚約は破棄させてもらう!」


 ………………


 いや、本当に面倒なんで止めてほしいです。

 この場合、殿下の有責ではあるのでしょうけど、相手が漫画のキャラでは不貞とは言えないでしょう。

 私に存在しない罪をきせてきたとかもないです。

 こうなると、婚約破棄の理由が『王太子殿下が二次コンだったから』と、言う事になります。

 こんなバカげた婚約破棄、通りますかね?


「何とか言ったらどうだ!」


 そんな事言われましても……。


 とりあえず、助けになりそうな人物を探しましょう。

 夜会の出席者は、皆、関わり合いになるつもりはなさそうです。

 まあ、こんな訳の分からない事態に首は突っ込みたくないでしょうから仕方がありません。

 王太子殿下の側近は……。


 ………………


 駄目ですね。

 側近が、皆、漫画キャラのプリントされた抱き枕を連れています。

 下手に助けを求めたら、余計にややこしい事になりそうです。


 こうなったら、私が、どうにか殿下を丸め込むしかありません。


「……王太子殿下は、貴方の愛するシュガーを傾国の悪女にするおつもりですか?」

「なっ⁉」


 殿下が、驚愕の声を上げました。

 表情も、驚愕に染まっておいでです。


「何故、その様な事になる⁉」


 何故って……。


「王太子殿下は、将来、国王となるお方です」

「それがどうした⁉」

「そんな殿下の婚約を壊し、国家に混乱をもたらしたとなれば、そう言われるのも仕方ないかと」

「シュガーたんは悪くない!」

「それに、シュガーは、王太子妃の仕事を何もできません」

「私がカバーする!」

「そもそも、殿下はシュガーと会話すらできないではないですか」


 私の言葉に、殿下が膝をつきました。

 そんな衝撃を受けた様な態度をとられても、私は事実を述べただけです。


「何が悪いというのだ……」

「何が悪いも何も……」

「次元が違うからか⁉」

「次元が違うからですね」


 ああ! 殿下! 何を分かり切った事で落ち込んでいるんですか⁉

 本気で二次元と結婚するつもりだったんですか⁉


「……お前に、……かる」

「……何かおっしゃいましたか?」

「お前に、シュガーたんの何が分かる!」


 急にキレないでください。

 驚くじゃないですか。


 それに、何が分かると言われましても……。


「殿下よりは分かりますよ」


 まあ、分かるでしょう。

 これは間違いありません。


「よく言えたな! 何を根拠に言っているのだ⁉」


 何を根拠にしているかと言われましても……。

 もう、面倒なので、全部、ぶっちゃけてしまいましょう。


「私が原作者だからですよ!」


 まあ、そういう事です。

 私は、前世で中堅どころの漫画家でした。

 ですので、公爵家の権力と財力を使って、自分の漫画を出版していたのです。

 そもそも、この世界には漫画がありませんでしたし、漫画のテンプレストーリーなどもありませんでしたから、元が中堅漫画家だった私でもヒット作を連発できました。

 まさか、自分が描いた漫画が原因で婚約破棄されるとは思いませんでしたがね。


「う、嘘だ!」


 殿下の叫びに溜息が漏れます。

 まあ、信じられないのも仕方がありません。


「では、何か、書く物を下さい」


 私の要求に、殿下の側近の一人が、紙とペンを差し出して来ます。

 ちょっとしたものを描くには十分な物です。


「少し失礼します」


 そう言って、近くのテーブルでペンを走らせます。

 簡単なイラストとサイン。

 これで十分でしょう。


「これを王太子殿下に」


 殿下の側近に、描いた物を渡します。

 すぐに殿下の手元に届きました。


「なっ……!」


 殿下が絶句しています。

 まあ、分かる人は分かるでしょう。


「まさか……! 本当に……!」


 暫し呆然とした後、殿下がフラフラと立ち上がります。

 そして、私に向かって口を開きました。


「お前が……。いや、貴女が……」


 『お前』から、『貴女』になりましたね。

 敬意を持ってもらえたようで何よりです。

 そう思って、ちょっと得意げになっていたら、殿下が、とんでもない言葉を放ちました。



「貴女が神か……!」



 ………………


 オッス! オラ、公爵令嬢! 神になっちまったぞ!


「数々の御無礼、誠に申し訳ございません」


 殿下の謝罪の言葉に我に返りました。

 地球育ちの戦闘宇宙人になっている場合ではありません。

 神呼ばわりは流石に不味(まず)過ぎます。


「ただの漫画家です。神呼ばわりは止めて下さい」

「そんな! 神を神と呼んで、何が悪いというのです⁉」


 おい。コラ。マジで止めろ。

 神殿とは良い関係を築いてるんだよ。

 折角(せっかく)、神殿の要請で神話を漫画化したり、寄進をしたりしてるんだから、これで異端審問とかにかけられたらどうしてくれる。


「落ち着いてください」


 とりあえず、落ち着かせないと話になりません。

 そして、此方の言い分を飲ませないとですね。

 まずは、婚約破棄を撤回させる事。

 二つ目に、私への神呼ばわりを止めさせる事です。


 ……とりあえず、婚約破棄を撤回させましょう。


「私が原作者だと分かって頂けたのですから、婚約破棄は撤回して頂けますね?」

「そんな! 神の伴侶(はんりょ)など恐れ多い!」


 ………………


 ……マジでどうしてくれようか。この王太子。

 好感度が限界突破したせいで、逆に婚約の続行が難しくなるなんて思ってもいませんでしたよ。


「貴方のシュガーも、きっと、婚約を続行し、将来的に立派な国王になる事を望んでいるはずですよ」


 こうなったら、殿下の好きなキャラクターをダシにするしかありません。

 もう、形振り構ってなどいる場合じゃありませんからね。


「それに、私と結婚したら、寝室では、シュガーのお面を被ってあげますよ」

「なっ……⁉」


 これまでにない反応……。

 これは行けそうですね。


「それは……、描き下ろしイラストですか?」

「殿下が望むなら」


 そう言って、全力で微笑んで見せます。

 国家安寧と私の幸せの為ならば、描き下ろしイラストくらいは軽いものです。

 それに、この世界には魔法があります。

 私は、漫画執筆に特化した魔法を編み出したので、必要ならば、毎日でも描いて見せます。

 そんな覚悟を固めていたら、殿下が滂沱(ぼうだ)の涙を流し、私に向かって跪(ひざまず)きました。


「おおぉ……! 神よ!」


 止めろ!

 衆人環視の中で私を拝むな!

 あと、殿下の側近連中まで拝み始めるな!

 お前らが抱き締めている抱き枕のキャラクターも私が生み出したものだけどさ!


「神ではありません。漫画家です」


 この際、否定したという事実が大事。

 私は、何としても異端審問だけは回避して見せます。

 ですが、そんな私の思いも知らずに殿下達が一斉に声を放ちました。


「「「「「か~み! か~み! 我らの女神!」」」」」


 予行練習でもしたのか⁉

 声を揃えて神コールをするんじゃない!

 新興宗教を開宗した覚えはないぞ!


「神じゃねぇっつってんだろ!」


 ヤバッ!

 思わず、口調が乱れてしまいました!

 ご、誤魔化さないと!


「あっ……!」


 殿下が、驚いた様な表情を浮かべています。

 しかし、上手く誤魔化す言葉が思い浮かびません。

 言い訳を必死に考える私。

 ですが、そんな私に、殿下は熱狂した様な声を上げます。


「……あとがき漫画のノリだぁぁぁぁっ!」


 これも良いの⁉

 ……いや! 確かに、こんなノリのあとがき漫画を描いてましたけど!


「流石は……! 流石は神です!」

「神の御光臨だ!」

「鳥肌が静まらない!」

「感動のあまり、涙が……!」


 殿下と殿下の側近が騒いでいます。

 私は、もう、諦めの境地です。

 此奴らには何を言っても駄目でしょう。

 私は静かに微笑みます。

 きっと、今の私の目は死んでいる事でしょう。

 しかも、私がそんな状況だというのに、この騒ぎはいつまでも収まってくれそうにありません。

 そして、こんな哀れな私を、誰も助けてくれようとはしませんでした。

 そうです。世界は残酷なのです。


 ………………


 あぁぁぁっ! 此奴ら全員、か〇は〇波でぶっ飛ばしてぇぇぇっ!






 後日の話をさせてください。

 私は、どうにか異端審問は免れましたが、何故か漫画聖人に祭り上げられました。

 そして、死後、私は漫画の神様として祀られる事になったのです。


 え?

 何故、自分の死後を知っているかですって?

 それはですね……



 死後に、半笑いの創造神様に捕まって、漫画の神として、天界で今も漫画を描いているからですよ!


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