団欒
家族の団欒を取り戻そうとする者の、静かな夜の記録です。
近未来の生活の中で、「本物」とは何かをめぐる小さな問いが揺れます。
短いお話なので、気軽に読んでいただければ。
『本物』は識別のための言葉。でも、とても弱い言葉。
だって、『偽物』『紛物』とか対の言葉がなければ存在すらできないんだから。
だから、『偽物』も『紛物』も『本物』がなければ存在できない。
みんなは言う、それはただの言葉遊びだと。
でもそれを、納得させてくれたヒトはいなかったんだよね。誰も。
「あいつはホンモノだー!」
テレビがおっさんの声で叫んだ。そしてエンディングが流れる。
パパはそんなタイプのスポコンアニメを堪能できたご様子。
右手で目頭を押さえながら、鼻をすすっている。なんかやだ。
そんなパパに訊いてみた。
「パパ、何が『本物』だったの?」
「いや、主人公のバッティングの才能のことだろう」
さすがに主人公自身の真贋とは言わない。いいぞパパ、その調子。
「じゃあ、『あいつはニセモノだー!』って言ったら?
『偽物』の才能ってこと? それって何?」
ふふっ、考えてる、考えてるう。
「才能がある様に見せかける、才能?
才能自体が偽物?」
はいっ、語尾は上げないっ、小首は傾げないっ。
ちょっとかわいいと思ってしまう自分がキモい。
仕上げだ。
「見せかける才能って、全く別の才能だし。
偽物の才能とか、才能が偽物とか、そんな他人の価値観と評価、
お前こそ何様だよって感じだよね」
だから、
「だから」
ソファに腰かけたままの、パパの背中側にまわる。
左腕でパパの首を抱き、わずかに左側を向いたパパの左耳あたりに、自分の頬を当てる。
ちょっとクサいよ、と言ったら傷つくだろうか。
今日はここまでだ。パパの後頭部にあるスイッチを長押しする。
ホログラム・ディスプレイが表示され、シャットダウンオペレーションを開始する。
「Shutdown Operation Start.
Wait 20 seconds remaining.
…」
パパは休日の体勢になった。
右側を下にしてソファに横たわる、そして右腕を枕に目を閉じる。
胸のわずかな上下が、スリープモードであることを示す。
「…
Shutdown Operation End.」
ホログラム・ディスプレイが消える。
この問いかけは、私の原器。
家族の団欒を取り戻す。それは未だ遠い。
読んでくださり、ありがとうございました。
作中では「本物/偽物」という言葉を扱っていますが、
これは誰かの価値観や評価ではなく、
語り手自身の“原器”としての問いです。
家族の団欒は、まだ遠い。
でも、その距離を測るための物語でした。




