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団欒

作者: qmmkruz
掲載日:2026/06/06

家族の団欒を取り戻そうとする者の、静かな夜の記録です。

近未来の生活の中で、「本物」とは何かをめぐる小さな問いが揺れます。

短いお話なので、気軽に読んでいただければ。


『本物』は識別のための言葉。でも、とても弱い言葉。

だって、『偽物』『紛物』とか対の言葉がなければ存在すらできないんだから。

だから、『偽物』も『紛物』も『本物』がなければ存在できない。

みんなは言う、それはただの言葉遊びだと。

でもそれを、納得させてくれたヒトはいなかったんだよね。誰も。



「あいつはホンモノだー!」


テレビがおっさんの声で叫んだ。そしてエンディングが流れる。

パパはそんなタイプのスポコンアニメを堪能できたご様子。

右手で目頭を押さえながら、鼻をすすっている。なんかやだ。


そんなパパに訊いてみた。


「パパ、何が『本物』だったの?」


「いや、主人公のバッティングの才能のことだろう」


さすがに主人公自身の真贋とは言わない。いいぞパパ、その調子。


「じゃあ、『あいつはニセモノだー!』って言ったら?

 『偽物』の才能ってこと? それって何?」


ふふっ、考えてる、考えてるう。


「才能がある様に見せかける、才能?

 才能自体が偽物?」


はいっ、語尾は上げないっ、小首は傾げないっ。

ちょっとかわいいと思ってしまう自分がキモい。


仕上げだ。


「見せかける才能って、全く別の才能だし。

 偽物の才能とか、才能が偽物とか、そんな他人の価値観と評価、

 お前こそ何様だよって感じだよね」


だから、


「だから」


ソファに腰かけたままの、パパの背中側にまわる。

左腕でパパの首を抱き、わずかに左側を向いたパパの左耳あたりに、自分の頬を当てる。

ちょっとクサいよ、と言ったら傷つくだろうか。


今日はここまでだ。パパの後頭部にあるスイッチを長押しする。

ホログラム・ディスプレイが表示され、シャットダウンオペレーションを開始する。

「Shutdown Operation Start.

 Wait 20 seconds remaining.

 …」


パパは休日の体勢になった。

右側を下にしてソファに横たわる、そして右腕を枕に目を閉じる。

胸のわずかな上下が、スリープモードであることを示す。


「…

 Shutdown Operation End.」


ホログラム・ディスプレイが消える。


この問いかけは、私の原器スケール

家族の団欒を取り戻す。それは未だ遠い。


読んでくださり、ありがとうございました。

作中では「本物/偽物」という言葉を扱っていますが、

これは誰かの価値観や評価ではなく、

語り手自身の“原器スケール”としての問いです。


家族の団欒は、まだ遠い。

でも、その距離を測るための物語でした。


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