きらきらの目
「みさきちゃんの目は、いつもきらきらしていてかわいい。ゆいも、きらきらの目が欲しい。」
今年で小学3年生になる私の、小さなころからの願い事。
みさきちゃんの目は、いつもきらきらしている。ピンクだったり、水色だったり、ラベンダー色だったり…いつもいろんな色の光がみさきちゃんの瞳の中を泳いでいる。
私はいつもきまって、こんなことをきく。
「どうしたら、ゆいもきらきらの目になれるの?」
みさきちゃんは、困ったように笑う。そして、きまってこんなことを言う。
「ゆいちゃんも、きらきらの目をしているよ。それに、私の目は普通の目だよ。」
みさきちゃんは、どうしても秘密にしたいらしい。私にも、みさきちゃんに秘密にしていることがあるから、いつもここで堪忍してやるのだ。
「そっか。いつか教えてね、きらきらの秘密。」
またね、と両手を振ってみさきちゃんのお家を出る。みさきちゃんは右手をひらひら振ると、きらきらの瞳を細くすぼめた。
沈みかけた太陽に溶かされそうになって、急いで車に乗り込んだ。
8月のある日、みさきちゃんが入院した。難しい手術が必要で、治るかどうかは、分からないんだって。
私は毎日、みさきちゃんの病室をたずねた。私は毎日、治りますように、ってみさきちゃんの手を握った。でも、握り返してくれる力は、日に日に弱くなっていった。
「みさきちゃん、今日も来たよ。」
夏休みが明けても、真っ赤な紅葉が空を彩っても、みさきちゃんは退院できなかった。
きらきらの消えかかった瞳が、私の方を向く。そして、いつもみたいに、眉をひそめて笑った。
「ありがとう、ゆいちゃん。…ごめんね、せっかく来てくれているのに、全然遊べてないね。」
空気清浄機の音にさえ負けてしまいそうなくらいのか細い声で、みさきちゃんは言った。私は必至で首を横に振る。
「遊ばなくてもいいから、秘密のままでいいから、また、きらきらの目、見せてよ。」
いつの間にか浅くなってしまった呼吸で、ことばがつかえる。やせ細った右手が、私の濡れた頬を撫でた。
「…良いよ。きらきらの秘密、教えてあげる。」
しばらくそうしていた後、みさきちゃんは諦めたように口を開いた。
「もういい。きらきらは、みさきちゃんのだもん。」
「ううん。きらきらはね、ゆいちゃんのなんだよ。だから、教えてあげる。」
みさきちゃんはベッドのボタンを押すと、その動きに合わせてゆっくりと起き上がった。久しぶりに見上げる顔は真っ白で、みさきちゃんのところにだけ、先に冬が来てしまったかのようだった。でも、あのころと変わらない、とてもやさしい瞳で私を見つめてくれた。
「ゆいちゃん、いつも綺麗な色のお洋服を着ているでしょう?ピンクとか、水色とか。だからね、ゆいちゃんを見ていると、私の目までいろんな色になるんだよ。」
「みさきちゃんの目がきらきらなのは、ゆいがいるから、ってこと?」
「そうだよ。ゆいちゃんといるとね、目も、心もきらきらになれるんだ。」
気づけば、みさきちゃんの目にはまた、きらきらが泳いでいた。私の着ているパーカーと同じ、コスモスの花びらみたいな光が、ぽつり、ぽつりとこぼれている。多分、私の目にも水色のきらきらが瞳にあふれていて、部屋いっぱいに飛び交っているのだろう。
「また来るね。今度はもっときらきらにするからね。」
「ありがとう。楽しみにしてるね。」
みさきちゃんがきらきらの付いた右手を振る。私も右手で振り返す。
秘密のきらきらは、きっと、私の願い事をかなえてくれる。




