第一話 逃走
晴天。
蒼天で抜けるような気持ちの良い空だ。
「こんあ状況でさえ無ければな」
『何か言ったか?』
「いんや」
僕の言葉に応える相棒。
景色がゆっくりと背後に移動する。
速く。
速く。
景色の方から流れていくそんな錯覚を覚えた。
駆ける。
疾走と言うべきか。
ビルの屋上を僕は駆ける。
『ポイントEに正体不明の妖怪は出没ナンバー【アンノウン・211】ですッ!』
『捕縛術式を展開しろっ!』
『了解』
跳躍して前方五百メートル先のビルの屋上に飛び移る。
相棒のスピーカーから男性の声が響いた。
奴らの通信を傍受してるんだろう。
暗号化された通信をよくもこう上手く拾えるものだな。
「正体不明の妖怪【アンノウン・211】なんかでは無いわ」
妖怪。
人にして人ならず。
人外の者。
元人或いは、そうではない者。
若しくは物。
それらが変化して人の姿をした存在
それを妖怪と呼ぶ。
奴らは。
「奴らの正体は何なんだろうね?」
僕はビルの屋上から跳躍。
『さて……組織だった動きから察するに国に仕える者達だろうな』
「国仕え? 公務員という事?」
『ああ』
ラジオから聞こえる相棒の声に従い地上を見る。
地上五百㍍上空から。
豆粒ほどの人影。
人の目には見えない小ささ。
だが生憎だ。
僕の目にはここからでも細部まで見える。
警察組織とも違う何かの制服?
陰陽師どもが着ている服に良く似ていた。
確か狩衣とかいった奴か?
絵姿でしか知らないが、平安時代の貴族達が狩猟に出かけるときに着てる衣服に似てたわ。
『そうか』
「興味なさそうだね」
『有ると思うか?』
「ないだろうな」
『分かってるじゃないか』
着地したビルの側壁を僕は重力に逆らい踏破していく。
でもまあ~~やはりあれは似てるな。
狩衣の特徴。
陰陽師の服装に。
身一巾で脇があいている。
襟が円く袖が広かったな。
袖口には袖くくりの紐。
脇は縫い合せていない。
袖つけの前方が開けて後方でわずかに縫い付けてある。
腕の上げ下げがしやすい非常に機能的な造りなのが特徴だ。
現代においても、神宮の衣装として定着してるあれだ。
確か色については基本的に自由だけどな。確か。
とはいえ陰陽師は陰陽寮という部署に仕える役人。
なので階級や年齢によって厳密にはその階級では許可されない色が有ったと思うけど。
確か狩衣をベースに、立烏帽子・袴・扇を身につけたのが基本だったな。
陰陽師は。
あれが本物なら。
「相棒~~あれ本物と思う?」
『本物だろう』
「だよね」
陰陽師とか僧侶って天敵なんだよね。
妖怪とか「都市伝説」の。
「相棒どうする?」
『ここは逃げの一手だな』
「だよね」
なら。
僕は全力で逃げるっ!
周囲の景色が流れるのが急速に速くなる。
体感速度で三倍ほど。
これで逃げおおせるっ!
と思った時だった。
突然何かが視界を塞ぐ。
「は?」
『え?』
僕達は困惑する。
グチャアアアアアアアッ!
何か粘着力のある大きな網にツッコんでしまった。
速度を上げた弊害で躱せなかったのだ。
「『ぎゃああああああああっ!』」
ビョオオオオオオンッ!
勢いが殺されず僕の勢いのまま網が引っ張られる。
その勢いが反動に変わって彼方此方振り回される。
「いやああああっ! 目が回るっ!」
『落ち着けっ!』
ゴム紐に重りを付けて跳ねさせてるような感じで。
気持ち悪いいいいっ!
そう内心で叫んだ。
『よしっ! 捕縛術式が当たったぞっ!』
相棒のスピーカーから敵が何か言ってた気がするが分からなかった。




