第一話 英雄
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英雄は、燃えていた。
炎に呑まれ、砕けた金属と共に夜空を落ちていく。
その姿を見上げる少年の瞳には──父の背中か、それとも墜ちゆく流星か。
――数時間前。
2125年。
第三次世界大戦から九十年、第四次世界大戦の終結から三十年。
世界がなお深い傷跡を抱える時代に、ひとりの英雄が空港に姿を現した。
黒塗りの車列がターミナルに滑り込む。
待ち構えていた人々のざわめきが爆ぜるように広がった。
「英雄だ!」
「有馬祐樹が来たぞ!」
群衆の視線と歓声を一身に浴びる男。
NGO〈光の礎〉を率い、停戦を実現した「平和の使徒」──有馬祐樹。
黒い手袋をつけたままの右手を軽く掲げると、群衆の熱は不思議なほど静まっていった。
その後ろを、小さな少年が歩く。
英雄の影に隠れるように、必死に歩幅を合わせて。
「エメロン、遅れるわよ」
母に声をかけられ、少年ははっと顔を上げる。
有馬エメロン──十一歳。英雄の息子である。
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搭乗ゲートの向こうには、ひときわ大きな機影があった。
かつて物資輸送に使われた軍用機を改造し、旅客用に仕立て直した専用のジャンボジェット。
〈光の礎〉が英雄の一行のために用意した特別便である。
「次のドバイ発ケネディ国際空港行き、午後十時。二十二番特別乗り場より出発いたします。本便は貸し切りとなっております」
アナウンスが響く中、祐樹と家族、協力者たちが乗り込んでいった。
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機内は柔らかな照明に包まれていた。
窓外には滑走路の光の帯。
祐樹の隣にエメ、そのさらに隣にはヒルダが座る。
ヒルダ──四代前の米大統領の孫であり、現職大統領の娘。祐樹の活動に加わって以来、家族のように行動を共にしていた。護衛と思しき屈強な男が背後に控える。
正面の席には高身長の少年。祐樹に一礼し、本を広げて黙り込む。
同じ年頃でも、背負うものの重さは違う──
エメは胸の奥に小さなざらつきを覚えながら、窓の外を見つめ続けた。
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やがて灯りが落ち、静けさが訪れる。
祐樹は書類に目を走らせ、ヒルダは窓の外へ遠い視線を投げ、前席の少年はページを繰る。
齢11歳のエメのまぶたは重くなり、父の声がかすかに届いた。
「……エメロン、おやすみ」
小さくうなずき、少年は眠りに落ちた。
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午後十時四十分。
突き上げる衝撃で、エメは目を覚ます。赤い警告灯が点滅し、客席が騒然とする。
「大丈夫だ、落ち着け!」
父の声が響く。
だが、機体は大きく左に傾いていた。
窓の外、左翼は裂け、炎に包まれている。
悲鳴。金属音。荷物が次々と棚から落ちていく。
その直後、機首前方が白い閃光に飲まれた。轟音。爆発。
天井が吹き飛び、酸素マスクが乱舞する。
──そして、夜空が割れた。
雲を突き破り、巨大な流星が墜ちてくる。
その周囲には、無数の小さな光の粒が尾を引いて散っていった。
父が必死に庇おうと腕を伸ばす。
母と姉の叫び。
炎と衝撃に呑まれ、世界が反転する。
英雄は、燃えていた。
視界が白に塗りつぶされ、次の瞬間、闇。
その夜、数多の流星が降り注いだ。
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2125年 黒い車は何で走っているんでしょうかねぇ 多分化石燃料です




