オカルトの申し子!? 「岡 ルル子」
異変が起こり始めたのは、レッスン中だった。
「ここでキメッ! あさひは後ろを向いて可愛く小走りってどーした?」
のどかが後ろを向くと、あさひ、ヒルネ、帳の三人は、驚いたように突如として後ろを向いた。
「今、鏡に誰かが移ったような……」
「やだ怖いこと言わないでよ」
「ガチで誰かいたって!」
「こ! ……怖いで候」
謎の人影は始まりに過ぎなかった。
「鏡が割れた!?」
「靴ひもが切れた……」
「このレッスン室、49号室なんだけど!?」
「く! ……黒猫が通ったでござる」
「ここ屋内だけど!?」
不吉なことが重なっていく。
「とりあえず、今日は温泉入ろう。温泉入って美味しいもの食べて寝よう」
集中できなくなった4人は、練習を切り上げた。
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「レ~イ~ン~! どうなってるの!?」
「界隈では有名ですよ死寝黒鬼旅館は」
「合宿なのに合宿できなきゃ意味ないでしょ」
のどかとレインは露天風呂に向かう。せめてそこでは平穏に過ごしたい。
「雰囲気だけならまだしもこれじゃあ……」
のどかが呟いていると、前方からゴスロリ少女が歩いてきた。綺麗にそろえられたボブカットの少女をのどかは見逃さなかった。
「赤く染まるのは、一体誰のせいでしょう」
ゴスロリ少女は二人に聞こえるようにすれ違いざまに呟くと、角を曲がり姿が見えなくなった。
「あら怖いですね……のどかさん?」
「ん? あぁそうだね」
矢黒のどかの関心は、既に他に移っていた。そして、なんとなく旅館に対する恐怖心もなくなっていた。
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「大浴場もいいじゃない! 貸し切り状態だし」
「ひ、広いね……」
「こ!! ……声が響くのじゃ!」
大浴場では新米アイドルがリラックスしていた。
「でも風呂場って出るとか言うわよね」
「や、やめてよヒルネちゃん」
髪の長い帳と入念に体をケアするヒルネを置いて、アサヒが一足先に湯舟に浸かる。
「ごくらく~」
「髪洗ってる時に視線感じたりとか~」
「……物音がしたり?」
「お風呂の栓を閉め忘れたり!」
「それは確認ぶそ」
「ぴぎゃおー!!!」
あさひの叫び声がこだまする。
「な、何事!?」
「か、か、か、かがみがっ!」
「か、鏡……?」
ヒルネと帳はあさひの方を向いて話していた。浴槽は鏡と反対の位置なので、二人は鏡を見ていなかったのだ。
「あ」
「……え?」
鏡が真っ赤な手形で埋め尽くされていた。
「ぎゃああああああ!!!!」
「きゃあっ!」
「ああ!? 湯船も真っ赤に!!! 怖い!!!!」
「撤収ー!」
新米アイドル達は、飛ぶようにして大浴場を飛び出した。
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「のどかさん露天風呂には行かないのですか」
「ちょっと待って。多分さっきの子、」
「うおおおおお! 先生! レインさん! 出たーーー!!!」
三人娘が凄い勢いで二人に合流した。
「あか、赤く、大浴場が!」
「幽霊が出ましたぁ!!!!!」
「幽霊とはあのような?」
「「「え?」」」
レインが指さした方を見ると、飾ってあった甲冑が立ちあがっていた。
「それともこっち?」
またもやレインが指さした方を見ると、ろくろ首がいた。
「もしやそちら?」
レインの指した方を見ると、なまはげがいた。
「「「ぎゃああああああ!!!!」」」
「うおおお」
「ゾンビもいる!?」
「ぐるるる」
「お、狼男……?」
「ヒャッハー! 皆殺しだぁ!」
「誰ですか!!!?」
旅館では、バケモノパラダイスが始まっていた。
「あ、思い出した!」
考え込んでいた矢黒のどかが、急に声を上げた。
「何思い出してんのよ、先生! 生命の危機って時に!」
「いいえ、これで解決よ! いるんでしょう? 岡ルル子!」
探偵が犯人を見つけたように、のどかは指をさした。
「見つかってしまいましたか。残念です」
声がするとバケモノパラダイスの面々は壁に寄った。
怪物の群れの中から、ゴスロリボブカット少女が現れた。
「申し訳ありません、レイン様。ご期待に沿えませんでした」
「結構です岡ルル子さん意外と楽しめました」
「え、どゆこと?」
あさひ、ヒルネ、帳は状況を飲み込めずにいた。
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「つまり、全てはレインさんの仕込みだったと」
「てへぺろです全ては会社存続のため社長には許可は取ってあります」
「で、そこのゴスロリ女は」
「アイドル事務所レディプリンセス、通称レディプリ所属 オカルト系アイドル岡ルル子と申します。以後お見知りおきを」
岡ルル子はカーテシーをしてみせた。
「個人チャンネル登録者数15万人のオカルトアイドル。レディプリが老舗事務所ってこともあってアイドル界でもそれなりの知名度を持つアイドルね。まぁ題材が題材だから忌避されてる面もあるけど」
「それでも網羅しているとはのどかさんは勤勉ですね」
「だって有名じゃない。岡ルル子のドッキリ企画」
おもむろに帳がスマホで検索し、あさひとヒルネも画面をのぞき込む。
「あ、本当ですね。再生数凄い......」
「ん? じゃあ今回のも……」
「生中継してます」
その言葉に、4人は固まった。
「美碧ヒルネ! ダンスします!」
「あ!!! ずるいですぅ!!! 赫彩あさひです!!!! 腹から声を出します!!!!」
「ア、アイドル事務所ニジゾノで新人アイドルやってます……今度デビューライブします……よね? あ、あれ、プロデューサーさん? いない……」
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アイドル達が宣伝をし始めたのを見て、矢黒のどかはその場から離れた。
「不満ですか? このような形の宣伝は不本意でしたか?」
先回りしていたのか。岡ルル子が待ち構えていた。
「……そもそも何で受けてくれたんですか?」
「話せば長くなりますが、昔呪いで一家心中しかけたんです」
「え」
「その時にレイン様が助けて下さったので、命の恩人なのです」
「あの時は骨が折れました呪いは完全に払いきれずご両親は慢性的な倦怠感が弟さんは軽い記憶喪失を起こしています」
のどかの後ろから、レインがひょっこり現れた。
「その縁でってことですか?」
「はい。それと個人的にファンなんです」
岡ルル子は矢黒のどかの前に立ち、のどかの瞳を見つめた。
「アイドルだったあなた、」
「そうですか、ありがとうございます。ご協力感謝します」
のどかはルル子を一瞥もせず、その場から離れた。
「今のは良くないのでは」
「プロデュースする上で使えるものは何でも使う。でも……」
「過去というものも難しいですね」
唇を噛み、悔しげな表情を矢黒のどかはしていた。
とにかく今回のことを活かさなければ。
「三人全員トップアイドルにして、絶対成り上がってやる。アイドルじゃなくプロデューサーとしても!」
矢黒のどかの苛立ちを理解する者はまだいない。




