合宿するぞ! あさひ!ヒルネ!帳!のどか!
合宿を決めたその日。矢黒のどかは、合宿できそうな場所を探しまくった。
それはもう探しまくった。
「はいそうです! えぇえぇ……えっと次の土日です……急すぎる? ですよねぇ」
だが見つからない。大型連休も明けたこの頃。多くの人が日常に戻ったかと思いきやそうでもないらしい。
「評判の良いとこは大手に取られてる……それ以外も急すぎるだのなんだの……」
とんでもアイドル時代の昨今。アイドル事務所のバチバチ具合は激しいなんてものではない。
新規事務所が一発逆転などと夢見るのも良いが、そう上手くいかない。
テレビ局やレコード会社、果ては学校などの教育機関もアイドル事務所が経営に手を出しているなんてことは少なくない。練習場や合宿所なんかもその一例だ。
「うちの社長の名前を出してもダメかぁ~」
うちの社長は昔はかなりブイブイ言わせていたトップアイドルの一人だ。その名前を出しても断られるということは、芸能界で渦巻く闇が垣間見える。
「利権がよぉ……」
「お困りですかのどかさん」
「!? その声は!」
後ろから突如声を掛けられた。
「伝説的過激アイドル、虹園キララの姪っ子 虹園レインです」
目の横で横ピースをしながら、事務員の虹園レインが真顔で椅子に座るのどかを見下ろしてきた。
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「合宿合宿合宿合宿----!!!!」
「あさひうるさい!」
「ヒルネちゃんもうるさい」
「雰囲気が悪すぎる……」
土曜日。レインのおかげで合宿所を見つけたニジゾノ一行は、レインが運転する車で合宿所に向かうことにした。
しかし、空気が悪い。
あさひはテンションが高い。これはいつも通り。
ヒルネはあさひのうるささに少々苛ついている。多分眠いのもあるだろうが、概ねいつも通り。
しかし、帳の様子がおかしい。
「帳ちゃんは朝弱いのですね」
「そんなことありませんあさひちゃんもヒルネちゃんもうるさいのは事実です合宿するのだから練習まで体力は少しでも温存するべきですうるさいのは頭に直接来ます頭が痛いです頭痛が痛い頭痛が痛い頭痛が……」
「帳車酔いしてない!?」
紫﨑帳の今朝の様子は凄かった。美人が黙って睨む様子は大分怖い。
いつも以上に口数が少なく、目つきが鋭いため、あさひは震えあがり、ヒルネも蛇に睨まれた蛙のようになっていた。少しすれば二人とも調子を取り戻したが。
紫﨑帳は寝起きが悪いのだ。
寝起きが悪い上に車酔いが酷いのだ。
「……きもちわるい」
青ざめた顔から絞り出された声は、社内を混乱の渦に陥れた。
「待って帳ちゃぁーん!!! 出すならエチケット袋に出してぇ~~~~!!!」
「窓! 窓開けて!」
「次からが自分で開けてくださいねハイ全開」
「動画止めないと!」
「撮ってたんかい!」
「うぅぅ……」
「んにゃぁ~~!! エチケット袋はいどうぞ!!!!」
そんなこんなで5人楽しく合宿所に向かいました。
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「ひどい目にあった……」
「そうだね!! ヒルネちゃん!!」
「鼓膜破壊攻撃の方がマシだわ……」
「ご、ごめんなさい……」
「よくあることですドントビーアフレイド」
「恐れてほしいし、溢れたけどね」
先にチェックインを済ませた矢黒のどかと駐車場から荷物を運んできた4人が合流した。
「荷物ありがとう。ということで合宿所到着~! にしても雰囲気あるわよね」
「雰囲気あります!!!」
「雰囲気ありすぎよ!」
「雰囲気ありますね……」
「界隈では有名ですからここ」
4人は一斉に、虹園レインを見た。
「幽霊が出ると有名です」
「「「先に言って!!!!」」」
三人の声が綺麗に重なる。ただ、紫﨑帳は先ほどよりも青ざめ、ブルブル震えていた。
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「まぁ部屋はいいんじゃない?」
客室に通された美碧ヒルネは満足そうに言った。
この合宿所はレッスン室はもちろん、露天風呂に卓球台、マッサージ器、お土産が充実した売店などなどなど一般的な温泉旅館である。
客室も綺麗で利用する分には文句はない。
「でも怖いよ!!!!」
「うるさいと出て来るわよ」
「!!!! !!」
「喋るなとは言ってないんだけど」
「あさひちゃん、このお煎餅食べる? おいしいよ?」
「た! ……食べますわ」
「じゃあ割ってあげるね」
「わ! ……割らないで頂きたい」
「あさひが面白いことになってる。帳はあさひに餌付けしすぎないでね」
帳のマイブームは、あさひに餌付けすることだ。何でも美味しそうに食べるあさひが帳は可愛くて可愛くて仕方がない。
合宿所での部屋割りは、あさひ、ヒルネ、帳の三人が一部屋。のどか、レインの二人で一部屋である。
三人の部屋の様子はもちろん撮影している。
(ツッコミ役はもちろん常識人のあたし、美碧ヒルネよ! 先生にダンス以外も意外と頑張ってると思わせて、練習をもっとダンスダンスダンスダンスダンス……)
(普段通りにって難しいと思ったけど、あさひちゃんが自然体だからあさひちゃんに合わせれば何とかなるかな? 目線を上げて、縮こまらないように……)
(おせんべいおいしぃ~!)
「おせんべいおいしぃ~!」
三者三様の陰謀渦巻く合宿が始まった。
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「あぁ可哀想に。また新たな犠牲者が出てしまうのですね」
大浴場にこだまする少女の声。ゴスロリを着た場違いな少女は水晶玉を見つめる。
少女が手に持つ水晶玉は、浴室の鑑のように曇っていた。




