シュバッと舞いたい! ヒルネとのどか!
美碧ヒルネは一心不乱に荷物を片付ける。
「全体的にいいんだけどねー周りが見えてないんだわ」
水筒、タオル、イヤホン、スマホ……
「自信はめちゃくちゃ伝わってきたよ。でもな〜」
はい片付け終わり。帰るとしますか。
「あとダンスに集中しすぎ」
「さっきからうるさいんですけど! 通報しますよ不審者がいますって!」
派手な女は、ヒルネに話し続けていた。アイドルのスカウト? あたしはアイドルなんて興味もない。ダンスだけしてろ。
「待って!!また警察のお世話にはなりたくない!!」
「え経験者?」
「イエス経験者!」
「こわ」
「違う! ダンスの!」
派手な女は自信満々に腰に手を当てドヤ顔してきた。
その態度にヒルネはムカついた。
簡単に経験者だとか言わないでほしい。こんな軽そうな奴が。
「あたしぃ〜自分より下手な奴の言うことは聞かない主義なんで」
「ふーん。うまけりゃいいんだ」
「そうですけど?」
派手な女は、腕を組み、カッコつけながらヒルネの前に立った。
「さっきの音源、再生して?」
「充電切れちゃいました」
「じゃあ何の曲か教えて?」
「教えるかバーカ」
「もうっ仕方ないなあ……」
出鼻をくじかれた派手な女は、スマホで何やら検索し始めた。
「……ノワブラって知ってる?」
こちらの反応をうかがうように、派手な女が聞いてきた。
「めっちゃ広告出してるアイドル?」
「トップアイドルの認識がそれとは鍛えがいがあるわね」
だからアイドルになるつもりは、
「ノワール・エ・ブラン。名実ともにトップアイドルよ。ちょっとこの動画見てみて」
「ちょっと! 肩掴まないで!」
ヒルネは到底見るつもりなどない。しかし、肩を掴まれ、スマホの画面を顔面に押し付けられた。
「近すぎなんだよ」
いやでも目に入ったその動画は、ノワブラのMVだった。しかし、ただのMVではない。踊りにフィーチャーしたそれは、美碧ヒルネを魅力した。
『扉を蹴って 明日を探す 一歩を踏み出していく』
歌とダンスが合わさってる。
かなり激しいのに、軸がブレてない。難しいフリも多い。なにより……
「なんでこんなに……」
「見てられるのかって? ファンサだよファンサ!」
スマホの画面をずらして、派手な女が顔を出した。
「アイドルはいつでも観客を見ているのさ」
「……だから何? これだけであたしがアイドルになるとでも?」
そうだ、コイツはただの不審者だ。動画を見せたからってコイツが偉いわけじゃない。
「じゃあ、今からソレ踊るね」
「……は? アンタが?」
派手な女は、おもむろにストレッチを始めた。
「君より上手かったら言うこと聞いてくれるんでしょ?」
「随分大口叩くじゃん。じゃあヘタクソだったら通報するから」
「う〜ん……それとよしっ!」
この女、押しが強いな。今のところ、スカウト以外、受け入れちゃってないか?
美碧ヒルネは思った。しかし、ダンスに関しては大丈夫だろう。どうせそこそこだろう。本家のノワブラ以上じゃなかったら何かしら文句言ってや、ろう……
「……は?」
美碧ヒルネは、最初の立ち姿で確信した。この派手な女は、自分よりもノワブラよりも、
「なんで……」
観た者を魅了する。
「くるっと回って、ここでファンサッ!」
ヒルネには分かる。これは、何度も練習した人のダンスだ。誰かと一緒に練習して、自分でも良くしようとしたんだ。それに、ダンスの上手さだけじゃない。
「……なんでそんなに楽しそうなの……」
あたしは、ダンスが好きで好きで好きで……でも、こんなにも辛いのに。
「終了! どうだったって……な、泣いてる!?」
「な、泣いてないし……」
感動したわけではない。ただただ悔しいのだ。負けを認めてしまった自分に対して悔しいのだ。
「君のダンスはもっと輝ける! 私はプロデュースだけじゃなく、レッスンも渡してがする」
矢黒のどかは、わざとらしく右手を差し出す。
「私にあなたを」
「先生って呼ぶから」
「へ?」
ダンスの世界は弱肉強食。これは美碧ヒルネの私見である。
「先生、あたしはアンタを踏み台にする。もちろんアイドルも」
美碧ヒルネは右手を強く握り返す。
「だから、楽しくダンスさせてね。せ〜んせ?」
コイツの技術を根こそぎ奪ってやる。
「お、お手柔らかにね?」
ニヤニヤしながら、自分を見つめてくる彼女を見て、若干の恐怖心を抱きながら、派手な女は向き直る。
「じゃあ改めて自己紹介! 私の名前は矢黒のどか! 現役大学生プロデューサーよ!」
「あたしは美碧ヒルネ。ダンス以外興味ないから」
「……え?」
この言葉が、矢黒のどかを困らせることを矢黒のどかは即座に感じ取った。
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「自分よりダンスが下手な奴の言うことは〜何だっけ〜???」
「ぐぬぬ……」
「自分よりダンスが上手いなら〜何なのかな〜!?!?!?」
「ぐぬぬぬぬぬぬ〜〜!!」
美碧ヒルネは狂犬であるが、扱いが簡単だ。力でねじ伏せればいい。
「んじゃ、ヒルネちゃ〜ん。あやまって♡」
矢黒のどかは美碧ヒルネの文句をダンスバトルで捩じ伏せてきた。
自分が一番目だと思ってたが既に紫崎帷が所属していたこと、チームで活動すること、チームで補い合うために二人にダンスを教えること、間食は控えること、話を聞くこと、エトセトラエトセトラ……
全てをダンスで捩じ伏せた。なので当然今回も……
「言い過ぎた。ごめん……」
美碧ヒルネは謝った。
「そんな……私たちこそ」
「今回のヒルネちゃんは言い過ぎです!」
「あ、あさひちゃん……」
「あさひたちは……チームだよね? あさひがダンスできてないのも分かってる! でも、もっとみんなで頑張りたいの!!! だからヒルネちゃんも」
「分かった分かった。もっと周りを見て……」
「お歌頑張ろうね!!!」
「んぐゅあああっ!?!?」
美碧ヒルネは周りに助けられている。あさひも帷ものどかも優しい。ダンスしか見えていなかった自分にも大分優しくしてくれる。
優しくできない上に自分本位なあたしが嫌だ。
「まぁこのままだとダンスも歌もヤバい集団だから……合宿でもする?」
「合宿!?!!!」
赫彩あさひの目が光った。
「やりたいやりたいやりたいでーす!!!」
ヒルネは少し嫌そうだし帷も戸惑っていたが、あさひのやる気が凄いので、
「やるぞ! 合宿!」
合宿の様子を動画撮って投稿しよう。そう矢黒のどかは決めた。




