シュバッと舞え! 「美碧〈みあお〉 ヒルネ」
「遅い! 全体的にもたついてる!」
レッスン室でヒルネの声が響く。あさひのダンスをヒルネが見てあげているのだ。
プロデューサーが1時間集合時間を遅らせたことを発端に、ヒルネは自分達だけで秘密の特訓をしてプロデューサーを驚かせようと考えていた。
「手厳しいよ〜! ヒルネちゃぁ〜ん……!」
「あんたのダンスは見てて気持ち悪いの! やたらゆっくりだなって所と速すぎる所がある! 壊れかけのおもちゃみたいで見たくもない! 帷はどう思う!?」
「えっ、私? えーと……元気いっぱいでいいと思う……よ?」
しかし、秘密の特訓はうまくいかない。
「こうやるの! もう一回あたしが踊るからそれ真似して……」
「見て覚えられたら苦労しないよぉ〜!!!」
「うるっさい! あさひ声量落としなさい!」
「ううううううーーー!!!」
「ぐぬぬぬぬぬーー!!!」
ヒルネの教え方に不満を持つあさひとあさひが上達しないことに苛立つヒルネは、唸りながらバチバチと火花を散らし始めた。
この時点であさひは、厳しいダンスレッスンのおかげでフラフラだった。ムカムカっとする気持ちをできるだけ引っ込めて、プンプンしながらヒルネを見つめた。
「ヒ、ヒルネちゃん! 一旦私のダンス見てほしいな? あさひちゃんも休憩しないとだし……ね?」
「……分かった。じゃ帷、そこ立って。覚えてるでしょ?」
あさひは「助かったー!」とでも言いたげな顔をしながら、壁にもたれ掛かり座った。
帷が立ち位置に立ったことを確認し、曲を再生する。音楽をかけながらヒルネは腕組みをした。表情が大分不機嫌なのは、あさひのせいなのもあるが……
「目線下がってんのよ。あと全体的に動きが小さい。自信のなさが出すぎ」
「ご、ごめんなさい!」
帷のダンスもヒルネにしてみれば見ていられない。目線も動きも無意識なのか言えば気付く。目線は上がったし、さっきよりも動きを大きくしてる。だが、
「フリに自信持って! 合ってるんだから不安がってんじゃないわよ!」
「は、はい!」
もっと自信持てばいいのに。見た目じゃうちらはアンタには敵わないんだから。
むかつく。
「0点」
「そんなっ……」
「あさひも0点」
「んにゃぁ〜〜!?自分はできるからってオーボーだよ!!」
「はぁっ!!?? アンタらができないのがダメなんでしょ!」
「そんなこと言ったらヒルネちゃんもお歌うまくないでしょっ!!」
「そ、れは……」
「あとあと……帷ちゃんは0点じゃないと思う! ヒルネちゃんの言ってることも分かるけど、50点くらいはあったと思う!!」
「えっ! あ、ありが……」
「は? 100点じゃないと意味ないんですけど。あたしの足、引っ張らないでくれる? あたしはアンタらとチーム組む必要なんて……」
少しの間、誰も口を開けなかった。ただこの時、美碧ヒルネはやってしまったと理解した。
自分本位の発言はするべきではない。
まして今の自分はこの二人とチームを組んでいるのだ。
あさひの怒った目。帷の戸惑った目。
知っている。前にもあたしは、
「おいっすー。遅れてごめん! 自主練してるって聞いてプロデューサーは嬉しい限りだぜ⭐︎」
ドアが勢いよく開く音がした。矢黒のどかが到着したのだ。
その瞬間、ヒルネは水筒やタオルをカバンに詰め始めた。
「え〜……なんかあった? ヒルネちゃんは何をしてるのかな〜? 今から先生がレッスンしたいんだけどなー?」
「帰る」
「え! ちょっとヒルネ!?」
また逃げるのか。結局自分はダメなんだ。誰かと一緒になんて、どうしてできると思ってしまったんだろう。
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美碧ヒルネが矢黒のどかと出会ったのは、ビル街にある公園だった。
ビルのガラスに反射された自分は、惨めだった。
どれだけこのダンスを練習しても自分はステージに上がれない。
「ワン、ツー、スリー……」
次の大会で踊る予定だったダンス。位置はセンター。あたしが一番上手く踊れた。
「美碧! 周りも見る!」
「ヒルネちゃんってダンスは上手いけど……」
「あの子は前からアレだから」
「とりあえずヒルネがいない時にうちらだけで練習しよ。じゃないとできるもんもできないし」
あたしに合わせろよ。あたしが一番……
「あっ……」
スマホの電池が切れた。同時に音楽も止まった。
「……はぁ」
いっそ他のを練習して動画でも上げるかな。
ダンスレッスンに行かなくなって二週間。何故か一人で練習を続けている。アイツらに報復したい?アンタらよりあたし一人の方が良いって見せつけたい?自分でも理由なんて分からない。ただ、これを辞めたらダメになる気がする。
自分勝手なのは分かってる。でも納得ができない。できる奴に合わせた方がいいじゃん。
パチパチ。おそらく一人だが、かなり大きな拍手が聞こえてきた。
「君、ダンス上手いね。輝いてたよ!」
後ろから声を掛けられた。振り返ると、黒髪に二つのお団子結びをし、ピンクのグラサンを掛けた派手な女が拍手をしながら立っていた。
「は? アンタ誰?」
「通りすがりの大学生よ! あなたのダンス、輝いてたけどもう一声!」
「はぁ!? アンタ何様!?」
美碧ヒルネは、むしゃくしゃしていたのもあり、この不審者に対する悪感情は最高潮だった。
「私は矢黒のどか。私にあなたをプロデュースさせてください!」
なんだこいつ。
「あなたを最高のアイドルにしてみせるわ!」
「アイドルなんて目指してないんですけど」
美碧ヒルネから見た矢黒のどかのファーストインプレッションは、かなり最悪だった。




