バチッと見つめて、ドドンと響かせ、シュバッと舞って!
世はアイドルアルティメットハイパー時代。テレビでもインターネットでも様々なアイドルが覇権を握り、その熱狂は日夜高まり続けている。
年頃の女の子たちの多くがアイドルに憧れ、夢を見ている世界だというのに。
スポットライトが生み出す影を知る者は少ない。
夢破れたアイドルに居場所はないのではと錯覚するほどに残酷である。
「……なんかネガティブな文章が続くわね。うちの事務所の宣伝もしてくださいよ社長~」
うちの社長がWEBの記事に載ったというので読んでみると、アイドルを辞めたアイドルについて暗いテンションでつらつらと語るなんとも辛気臭い文が掲載されていた。
記事の最後に、名前と今までの経歴に加えて一応事務所の名前は載っていたが、ここまで見る人は少ないだろう。そもそもこのWEBサイト、今話題のアイドルの特集だの新人アイドルのオーディションだのそういうのを扱ってんだぞ。若い女の子がこんなの読まんだろ。読んでも途中でサイト閉じるわ。
「やめよやめよ。スマホやーめた」
スマホをカバンにしまい、公園のベンチから勢いよく立ち上がる。
大学1年目の4月、高校時代から手伝っていた事務所がようやく形になってきた。難しい手続きも終わり、あと足りないのは……
「スカウト、頑張っちゃうぞー!」
肝心のアイドルである。
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「そうしてあなたが連れてきたのがあの子たちだけど......このままだと全員クビよ?」
5月頭、3人の少女をスカウトして、社長にそう言われた。
「スカウトしてからまだ1か月経ってないですよ!? 早くないですか!」
「だって......ねぇ?」
言い淀む社長の態度に少々の苛立ちを抱えながらも、納得している自分が情けない。なぜなら私がスカウトした3人は……
「プロデューサーさーん!!! おっはよーございまーす!!!」
声量が取り柄の赫彩あさひ。中学2年生。
「先生おはよー。今日は何するの?」
有り余る体力が取り柄の美碧ヒルネ。高校1年生。そして、
「あの......お、おはようございます。」
見た目が武器である紫﨑帳。高校1年生。
この三人、やる気はあるが、問題児である。
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「誠に唐突だが、このままだと全員社長にクビにされます」
「「「えええぇぇぇぇぇ~~~!!??」」」
レッスンルームで三人にそう伝えると、今日一番の大合唱が聞こえた。三人だが。
「なんで!? もしかして……あさひがお歌上手に歌えないから!? じゃあもっと、もーーっと頑張るからぁぁ!!!」
赫彩あさひがそう言いながら泣きついてきた。うえんうえんと泣きながら右足をグラグラと揺らしている。痛すぎる。馬鹿力止めてね?
「ぜんぜいぃぃ~~! あだじも……あだじも、がんばるがらぁぁ~~~~!」
比較的おとなしくしていたヒルネが今まで一番大きな声を出しながら左足をグラグラしてきた。痛いなー。
「あの、どうしてそうなっちゃったんですか?」
体育座りで縮こまっていた帳が質問した。
「端的に言うと君たちが問題児だから」
「あさひと帳はともかく、あたしはそんなことないと思う」
「ヒルネちゃん!? ひどいよぉ~~!」
「ほんとのことだもん」
「うぅ......ごめんなさい……」
「大丈夫だ。問題児には私も含まれているし、みんな揃って問題児だ。同じ問題児同士、頑張ろうな。問題児らしいアプローチで問題児として社長を問題児級にぎゃふんと問題児らしく言わせような」
「問題児問題児うるさいな先生」
やいのやいの言っている間に、プロデューサーは、ホワイトボードにうちのアイドルたちの情報をまとめ始めた。
「まず、赫彩あさひ!」
「はぁい!!!!!」
「長所は、明るい、元気、ポジティブ、前向き。アイドルとしての武器は、声量」
「照れますなぁ~!」
「短所、うるさい、ばか、ブレーキがない、深く考えない、腹ペコ、ダンスが下手、無駄に元気、すぐ寝る、そして......」
「短所の方が多いですよぉぉぉぉぉーーー!!!
「コホン。そして、歌が下手」
「うぐぐぐぐっ!!!」
そうこれが致命的なのだ。赫彩あさひの声量は武器になる。しかし、歌が下手。リズム感がなく、ダンスも組み合わせると、とんでもないことになる。
「次、ヒルネ」
「あたしは自信あるよ。一番アイドル向きでしょ」
「長所は、努力家、プライドが高い、自信家、負けず嫌い、ホウレンソウを欠かさない。アイドルとしての武器は、ダンス力」
「あったりっまえ!」
「短所、話を聞かない、暴走機関車、周りが見えない、見下しがち、協調性がない、腹ペコ、すぐ寝る、素行不良、そして......」
「お~......ひどくね?」
「コホン。そして、ダンス以外頑張る気がない」
「まあ、あたしはダンスが主体のアイドルだし?そこは多めに見てよねぇ」
一番アイドル向きぃ? どの口がである。ダンスに関してはどこに出しても恥ずかしくなく、自分で課題を見つけ、妥協もせずに向上心もある。しかし、美碧ヒルネはアイドルである。ダンサーではない。明確な武器がある以上、現状はこの中で一番アイドルに向いているかもしれないが、彼女の心意気は最もダメなのだ。
「最後、帳」
「は、はい」
「長所は、落ち着いている、頭がいい、静か、話を聞いてくれる、素直、かわいい。アイドルとしての武器は、顔とスタイル」
「あ、ありがとうございます」
「短所は、引っ込み思案で目立ちたくないこと」
「……終わりですか?」
「帳はレッスンも頑張ってるし、着実にステップアップしてる。ただ、君の短所はアイドルとしては、最大の欠点になりうる」
「はい、分かってますぅ......」
紫﨑帳は美人だ。身もふたもないが、顔が良い。スタイルも良く、身長もある。恐らく、モデルとしてもやっていけるだろう。そんな彼女が今まで芸能活動をしていなかったのには理由がある。
極度の引っ込み思案で目立ちたくない、人見知りで人と関わりたくない。そんな彼女の考えが、全てを遠ざけていた。
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レッスンの帰り、電車に揺られながら紫﨑帳は今日のことを振り返る。
「「プロデューサーにも物申します!!!」」
あの後、あさひちゃんとヒルネちゃんが、不公平だとプロデューサーの長所と短所もまとめていた。
長所は確か、大人っぽいこと、レッスンしてくれること、話を聞いてくれること、スカウトしてくれたこと、だったかな。
短所は、秘密主義、ズバズバ言う、厳しい、奢ってくれない、叩き起こしてくる、とかなんとか。
結局今日は悪口大会になってしまった。
でも、私たちをクビにしたら、社長と事務員の社長の姪っ子さんしか会社に残らないよね?本気でクビにするつもりはないんじゃないかな?
電車内でぼーっとしてると、広告のアイドルと目が合った。
「私もいつか……」
小さくつぶやく。電車に揺られ、意識が遠くなる。
眠りに落ちる前にふと、あの日のことを思い出す。
ほんの一月前のこと。だけど、それからの日々が、騒がしく、楽しい日々だったからなのか。もっと昔のことのように感じる。
フードを被り、縮こまりながら、足早に人通りの多い道を歩いていたあの日。
すれ違いざまに、私、紫﨑帳は、プロデューサーである矢黒のどかと、
視線がバチッと合った。




