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時代劇の悪役に転生してしまった


 気がついたら着物を着て月代(さかやき)マゲ姿だった。


「うをお、江戸時代に転生か!」



 俺は歴史オタク。すぐに状況を理解したぜ。

 月代は戦国時代からだが、屋敷の使用人が結っている町人マゲは江戸時代特有のはず。



「若様、おしたくを」

「う、うむ」


 今の歌之助である自分の知識をさらうと、どうやら俺の家は藤山藩で家老を任せられているらしい。



(藤山藩? そんなのあったか?)


 まあ自分が知らない小藩くらいあるか。



 時代は‥ああ五代将軍綱吉の治政だ。生類憐みの令を出して犬公方って呼ばれた。


(これは俺が現代知識とオタク知識で藩政改革無双をする流れか)



 そして尊敬と富を集め、かわいい女の子でハーレム作る。

 異世界転生のテンプレート。

(まー 異世界じゃなくてタイムスリップだけど)




 そして重要なことに気づく。


(あれ、この時代だったら俺もう結婚していてもおかしくないのに)

 記憶を探ってもいない。



 側仕えに聞いてみることにした。


「なあ、俺の縁談ってどうなってるっけ」


「はいはい、例の娘でございますね、順調でございますよ」


 おお、話は進んでいたのか。



「親の病気で家は傾く一方、良い仲だった下級武士の男もそろそろ金が尽きるかと。若様が薬を持って言い寄れば、娘ももう断れませんて」




 ‥‥‥ それ、俺が悪役みたいじゃん。




「御用商人と組んで安い薬の流通をお止めになられたおかげで、我が家にも賄いで大儲け。若様は賢いですなぁ」




 ‥‥‥ うん、俺悪者だった。




(あれだ、悪役令息転生、江戸時代バージョンだ)


 おそらく行動を改めないと破滅エンドが待っている。



「薬の流通って‥確か御用商人の専売にしたから値段が上がったんだよな」


 だったら取り消せば良いだけなんだけど‥


(父上が何て言うか)




 この計画は家老である俺の父親の賛成の元成り立っている。

 おそらく撤回を申し入れても聞き入れてはもらえない。


(自分の一存で解決できる問題じゃなくなってる)




 とりあえず俺は、今できることとして薬を用意させた。

 横恋慕しているお美代ちゃんの父親の病に効くやつ。



 お美代ちゃんの家に着くと、家の中からは話し声が聞こえてきた。

 つい耳をそばたててしまう。


「こんな高価な薬をいただけるだなんて、ありがとうございます」


 誰かが薬を持って来てくれたらしい。


「ご隠居様には感謝してもしきれません」


 ‥‥‥ ご隠居様?


 なぜかキーワードがひっかかる。



「ほっほっほ、ただの隠居の道楽、お気になさらず」

「そうですよ、うちのご隠居、人がいいんですから」

「早く病が治ると良いですな」


 どうやら訪問客は四・五人らしい。



 嫌な予感に、俺はそおっと他の家の陰に隠れて様子を見た。



 カラリと障子戸が開く。

 出てきたのは‥‥



 頭巾をかぶって杖をついた老人が一人、颯爽とした若者二人、美女が一人、お調子者っぽい男が一人。



(そうか)


 俺は悟った。



(これ水戸〇門の世界じゃないかぁ!)



 タイムスリップじゃなかった。

 これ江戸時代じゃなくて時代劇の世界。

 


 そう言えば、眉毛剃っている女性見なかった。みんな歯が白かった。

 つまり知識チートはあんまり関係ない世界。



 そして俺が断罪される可能性がもうすぐ来る世界。


 サアアと音を立てながら血の気が引いていく。


(今すぐ、何とかしないと)




「ご老人、どうか私の犯した過ちをお聞きください!」



 俺はご老公一行が泊まる宿に押しかけて、懺悔した。

 迷う若者が年長者に意見を聞くフリをして。


 うん、大分引かれたけど。



「一時の気の迷いで、惚れた女性に多大な迷惑をかけてしまいました。どうしたらこの罪をあがなえるでしょう」


「そのようなことが‥」


 ちなみに親の情報も売った。売り払った。

 自分の命の方が大切だよね☆



「あなた様の真心は伝わりましたぞ。それをぜひお殿様にもお伝えしては」

「ご助言、感謝いたす。この御恩はけして忘れませぬ」


 まだ正体に気がついていない設定だから、敬語も最低限だね。

 ちりめん問屋の隠居と家老の跡取りだったら、俺の方が圧倒的に身分が上。

 

 家の不正に悩む若者をアピールしたから、これで我が家が断罪されても俺だけは助けてもらえるかもしれない。



 で、老公にゲロった後で親のライバル派閥にチクる。

 こっちは多少マイルドな表現にして。


 薬の売買を専売制にした結果、薬料が上がり民が困っている、解除したいが父が反対するかも‥ くらいで。


(敵対派閥は清廉潔白で有名って、本当にご都合主義だな)


 まあ生き残るのはこちらの派閥だろう。

 今のうちに乗り変えなくては。



 父親には相談したら秒で怒鳴られた。

「こんな旨い話、手放せるか!」

 だって。

 父上、残念ながら断罪コースです。



 一行が奉行所に乗りこむ前にできる限りの手はうった。


(ちなみに俺は殿に直接意見言える立場じゃない)



 お吟さんのハニートラップは受けてみたかったけど‥

 誰がかかるんだろう? 父上か? 配下の奉行か? どっちでもうらやましい~





 そして数日後。


 奉行所で大立ち回りが起こった。


 なぜか旅の一行が奉行所の不正を暴いた。

 奉行は我が家の手先で、専売以外にも色々やらかしていたらしい。

 

 もちろん奉行所はその者らの口封じを企んだが、なぜか無勢のはずの旅人に返り討ちにあってしまう。

 目撃者の証言によれば、いいタイミングで忍者やくノ一が現れたとか。



 しかも一行の主が、実はやんごとないご身分のご老公であったぁぁぁ!

(内政干渉拒否なんて言葉はこの世界にない!)



 奉行と御用商人は捕縛され、上司の父親も責任を取らされる。


 俺は早めに悪事を訴えたから無罪。

 やったあ!



 あと父親が『蟄居閉門』って言う架空の謹慎刑になったから、早々に家督も相続。


(父上、閉門だといいな。蟄居は部屋から出られないから衰弱死の危険性が高いって聞くし)




 まあ一件落着したから、ご老公たちは旅立って行った。


 俺の破滅フラグはへし折れたぜ!


 あの一行は一度訪れた場所にはもう来ない‥ はず。

(史実と違って、時代劇はそこまでくわしくないんだよなぁ)






 若くして家老になった俺は、思う存分内政チートを振りかざした。

 商品作物の推奨、米が不作な時期に備えて蕎麦や麦の作付け。


(江戸時代と言うより時代劇時代だけど、小氷期や飢饉が来ない保証はないからな)


 時代劇の世界でも手は抜かない。

 王道で俺スゲエエエになってやる。


 流通の見直しと売買の規制緩和も進めたから、薬の価格も落ち着いた。



 お美代ちゃんはお父上が回復したから、意中の下級武士と結婚したらしい。


 まあ俺も? 他の家老筋から嫁もらったから新婚で幸せですけど?

 けっこう美人さんだから、浮気する気も起きない。(まだ)





 それから数年、俺は必死に真面目に働いた。

 その功績を認められて、江戸家老に任命される!


(花のお江戸だ! 今はええと‥ 正徳の治の最中じゃん。景気も治安も安定している江戸暮らし、最高かよ)


 吉原通える‥ は一瞬だけよぎった。一瞬だけ。

 奥さん一緒だから派手にハメは外しませんよ、はい。

 




 しかし俺は気がつかなかった。



 六代目と七代目の将軍の治政はすぐ終わる。

 知識としてはもちろん知っていたはずなのに。



 江戸でもまあまあ活躍した俺は、幕府に出仕の栄光をつかむ。

 これはすごいことだ。藩をあげての名誉である。



 もう俺無双じゃねと、その時は浮かれるだけだった。



 


 

 そう‥ 30半ばで俺が使えたのは、八代将軍徳川吉宗。


 そしてここは時代劇の世界。




 もちろん将軍は暴れん坊だったよ! ヽ(*。>Д<)o゜

 まさかレギュラーで振り回されることになるとは! (⊙ˍ⊙)



「上様~ お待ちください」

「はっはっは、歌之介お前も参れ!」



 パカラッパカラッパカラ‥‥ 

 今日も馬が駆けていく‥‥


             終わり☆


 大岡越前にもこき使われるから楽できません。

 外聞に関わるから吉原ではっちゃけるも無理。


 田沼の改革を先取りしたから、出世だけは出来ます。

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