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Freedom Road  作者: よしお
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第9章 政治への関心

1897年の年末、暗殺未遂事件から数ヶ月が経った頃、エイデンのもとに一通の重要な手紙が届いた。差出人は進歩党の党首、ウィリアム・ジェファーソン上院議員だった。


「フリーマン様、あなたの勇気ある活動に深い敬意を表します。ぜひ一度お会いして、この国の未来について語り合いたく存じます」


エイデンは手紙を何度も読み返した。二十一歳の彼が、国政レベルの政治家から直接面会を求められるとは思っていなかった。


「これは大きな転機になるかもしれません」


サラ・ホワイトが取材で訪れた際、エイデンは率直に相談した。彼女は既にエイデンの信頼できる友人となっていた。


「政治家との関わりには注意が必要です」サラは慎重に言った。「彼らは必ずしもあなたと同じ動機で動いているわけではありません」


「私もそれは理解しています。でも、実際の政治の仕組みを知ることは重要だと思うのです」


エイデンは、アダムス教授にも相談の手紙を送った。返事は予想以上に前向きだった。


「政治への関心を持つことは自然な流れです。ただし、あなたの独立性を失わないよう注意してください。政治家は利用価値のある人物を取り込もうとします」


年明けの1898年、エイデンは首都アルセニア市でジェファーソン議員と面会した。議員は五十代の洗練された紳士で、長年の政治経験を積んだベテランだった。


「フリーマンさん、あなたの活動は素晴らしい。特に暗殺未遂事件での対応は、真の政治家の資質を示していました」


「ありがとうございます。でも、私は政治家になりたいわけではありません」


「政治家にならずとも、政治に関わる方法はあります」ジェファーソンは微笑んだ。「来年の下院選挙で、我が党から出馬する候補者たちの応援演説をしていただけませんか?」


エイデンは慎重に考えた。これまで特定の政党に肩入れすることは避けてきた。しかし、具体的な政策実現のためには、政治的な力が必要なのも事実だった。


「どのような政策を重視されているのでしょうか?」


「教育制度の改革、労働者の権利保護、そして何より、すべての市民の平等な機会の保障です」


ジェファーソンが掲げる政策は、エイデンがこれまで訴えてきた内容と合致していた。


「条件があります」エイデンは言った。「私は党の代弁者ではなく、独立した立場で発言させていただきます。党の方針と異なる意見があれば、それも述べさせていただきます」


「それで結構です。むしろ、その独立性こそが貴重なのです」


こうして、エイデンは初めて政治的な活動に足を踏み入れることになった。


最初の応援演説は、中部の商業都市で行われた。候補者は若い弁護士のデイビッド・ローレンスで、労働法の専門家だった。


「皆さん、私は特定の政党の宣伝のために来たのではありません」エイデンは会場で明言した。「ローレンス氏の政策が、働く人々のためになると信じるから、ここに立っています」


エイデンの率直な姿勢は、聴衆に強い印象を与えた。政治家の常套句ではなく、自分の体験に基づいた具体的な話に、多くの人が共感した。


「私は炭鉱で働き、商業界で学び、そして今、社会活動家として活動しています。どの立場でも感じたのは、制度の改革が必要だということです」


演説後、ローレンス候補は深く感謝した。


「あなたの演説の方が、私の政策説明より説得力がありました。ぜひ今後も協力をお願いします」


しかし、エイデンの政治的活動は、予想外の反響を呼んだ。


保守系新聞『ナショナル・ガーディアン』は、「過激な活動家が政治に介入」という見出しで批判記事を掲載した。一方、進歩系メディアは「真の改革者の政治参加」として歓迎した。


「エイデン、あなたは今、非常にデリケートな立場にいます」


アダムス教授が心配して首都まで会いに来た。


「政治に関わることで、これまでの中立的な立場が失われる可能性があります」


「教授、私は中立でいることが目的ではありません。正しいと信じることを実現したいのです」


「それは理解しています。しかし、政治の世界は複雑です。純粋な動機で始めても、いつの間にか権力闘争に巻き込まれることがあります」


教授の警告は的確だった。実際、エイデンの政治的活動が注目されるにつれ、様々な思惑を持った人々が接近してきた。


「フリーマンさん、我が社の事業に協力していただけませんか?」


大企業の経営者からの申し出。


「君の影響力を使って、我々の政策を支援してくれ」


他の政治家からの要請。


「若いリーダーとして、我々の組織に加わりませんか?」


各種団体からの勧誘。


エイデンはこれらすべてを丁重に断った。しかし、断ることで新たな敵を作ることにもなった。


春になると、エイデンは重要な決断を迫られた。進歩党から、来年の州議会選挙への立候補を強く要請されたのだ。


「あなたならば、確実に当選できます」ジェファーソン議員は熱心に説得した。「そして、議員として実際の政策決定に関わることができます」


エイデンは深く悩んだ。議員になれば、確かに具体的な法案作成や政策実現に関わることができる。しかし、それは同時に政党政治の制約を受けることを意味していた。


数週間の熟考の後、エイデンは答えを出した。


「申し出はありがたいのですが、まだその時期ではないと思います」


「なぜですか?」ジェファーソンは驚いた。


「私はまだ二十二歳です。政治家になる前に、もっと多くの経験を積み、多くの人々の声を聞く必要があります」


実際、エイデンには別の考えがあった。政治家になることよりも、人々の意識を変えることの方が重要だと考えていたのだ。


「政治は結果を出すための手段です。しかし、人々の心が変わらなければ、どんな法律も形骸化してしまいます」


サラとの取材で、エイデンは自分の考えを明確にした。


「私はもう少し、草の根での活動を続けたいと思います。政治的な影響力を持つことは重要ですが、まずは社会の土台を作りたいのです」


この決断により、エイデンは政治界からは一定の距離を保ちながらも、政治的な発言力を持つ独特な立場を確立した。


夏の終わり、エイデンは新しい活動を始めた。全国の若い活動家たちとのネットワーク作りだ。各地で出会った志を同じくする人々と連絡を取り合い、情報交換や協力体制を築いていった。


「一人では限界があります。しかし、同じ志を持つ人々が連携すれば、大きな力になります」


エイデンの呼びかけに応えて、全国から若い活動家たちが集まった。彼らは「アルセニア青年改革ネットワーク」という緩やかな組織を作り、定期的に集会や意見交換を行うようになった。


この一年で、彼の立場は大きく変わった。単なる社会活動家から、政治的な影響力を持つ全国的なリーダーへと成長していた。


「来年はどのような活動を予定していますか?」


サラが年末の特別取材で質問した。


「政治的な活動も続けますが、同時に教育の分野にも力を入れたいと思います。知識こそが真の力だと信じているからです」


エイデンの視野は、既に次の段階を見据えていた。政治の世界に足を踏み入れたことで、社会を変えるためのより具体的な道筋が見えてきたのだ。


二十一歳の若きリーダーは、着実に影響力を拡大し続けていた。政治という新しい武器を手に入れた彼の次なる挑戦が、間もなく始まろうとしていた。

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