第19章 大統領選挙での勝利
1907年の秋、大統領選挙まで残り一ヶ月となった。エイデンは連日の選挙活動で疲労困憊していたが、支持率のリードを維持していた。しかし、選挙戦の最終段階で、予想外の困難が待ち受けていた。
「エイデン、緊急事態です」
選挙本部でエレン・グリーンが深刻な表情で報告した。
「何が起こったのですか?」
「現職大統領が最後の切り札を使ってきました。経済政策に関する機密情報をリークし、あなたの政策が『国家財政を破綻させる』という攻撃を仕掛けてきたのです」
エイデンは資料に目を通した。確かに、彼の包括的社会保障制度は巨額の予算を必要とする政策だった。
「『フリーマンの理想論が国を滅ぼす』という見出しで、保守系メディアが一斉に報道しています」
「支持率はどうなっていますか?」
「三ポイント下落して、五十五パーセントです。まだリードしていますが、差は縮まりました」
エイデンは冷静に考えた。これは選挙戦の最大の危機だった。
「反論の準備をしましょう。詳細な財政計画を公表し、実現可能性を証明する必要があります」
その夜、エイデンは経済政策チームと徹夜で対応策を練った。
「問題は財源です」経済顧問のロバート・フィッシャーが説明した。「社会保障制度の財源をどう確保するかが鍵となります」
「富裕層への課税強化と、行政効率化による経費削減で対応できませんか?」
「理論的には可能ですが、政治的な反発は避けられません」
エイデンは決断した。
「真実を話しましょう。理想を実現するためには、皆で負担を分かち合う必要があることを」
翌日、エイデンは緊急記者会見を開いた。
「確かに、私の政策には大きな予算が必要です。しかし、それは投資なのです」
エイデンは具体的な数字を示しながら説明した。
「教育への投資は将来的に税収増をもたらし、社会保障制度は消費拡大を通じて経済成長を促進します」
「財源についても明確にお答えします。年収十万ドル以上の高所得者への税率を五パーセント引き上げ、大企業の優遇税制を見直します」
記者からの質問は厳しかった。
「それは富裕層への増税ではありませんか?」
「はい、そうです。しかし、それは公正な負担です。社会全体の利益のために、能力に応じて負担することは当然です」
「企業の競争力に影響はありませんか?」
「短期的な影響はあるかもしれません。しかし、労働者の技能向上と購買力増大により、長期的には企業にとってもプラスになります」
エイデンの率直な説明は、多くの国民に支持された。
「正直な政治家」
「具体的な政策提示」
進歩系メディアは評価したが、保守派の攻撃は続いた。
「社会主義的政策」
「自由経済の破壊」
選挙戦最終週、エイデンは最後の大規模集会を首都で開催した。会場には過去最大の十万人が集まった。
「皆さん、私たちは歴史の分岐点に立っています」
エイデンの声は力強く会場に響いた。
「現状維持か、変革か。過去を向くか、未来を向くか。この選択が、アルセニアの次の四年間を決めます」
群衆は熱狂していた。
「私は約束します。誰一人取り残されることのない社会を作ります。すべての子供たちが平等な教育を受けられる国を作ります」
「そのために必要な負担は、公正に分かち合いましょう。それが真の愛国心だと思います」
演説は一時間に及び、最後は大合唱で締めくくられた。
選挙前日、エイデンとサラは静かな時間を過ごしていた。
「明日で長い戦いが終わるのね」サラが感慨深げに言った。
「そうだね。でも、勝っても負けても、新しい戦いが始まる」
「負けることは考えてないでしょう?」
「もちろん勝つつもりだよ。でも、万が一のことも考えておかなければ」
「あなたなら大丈夫よ。国民はあなたを信じている」
選挙当日、エイデンは早朝から投票所を回った。多くの支持者が声援を送り、握手を求めてきた。
「フリーマンさん、頑張って!」
「あなたに一票入れました!」
投票率は過去最高の八十二パーセントを記録した。特に若者の投票率は九十パーセントを超え、エイデンへの期待の高さを示していた。
夜八時、投票が締め切られた。開票作業が始まると、選挙本部は緊張に包まれた。
「最初の州の結果が出ました」スタッフが報告した。「ニューフォード州、フリーマン候補の勝利です」
歓声が上がったが、エイデンは冷静だった。
「まだ分かりません。最後まで気を抜かずに」
午後十時、重要な転機が訪れた。
「セントラル州とリバータウン州、両方ともフリーマン候補の勝利です」
これで勝利がほぼ確実となった。
「コットンフィールド州も接戦ですが、リードしています」
深夜零時、ついに決定的な瞬間が訪れた。
「全州の開票が終了しました。エイデン・フリーマン候補の勝利が確定です」
選挙本部は爆発的な歓声に包まれた。
最終得票率は、エイデン五十六パーセント、ハワード四十二パーセント。圧勝だった。
「やりました!」
「歴史的勝利です!」
スタッフたちは涙を流して喜んだ。
エイデンはサラと抱き合った。
「ついにやったね」
「これからが本当の始まりよ」
午前一時、エイデンは勝利演説を行った。
「国民の皆さん、このたびは貴重な一票をいただき、ありがとうございました」
全国のテレビとラジオが中継する中、エイデンは謙虚に語った。
「私に投票してくださった方も、そうでない方も、皆さんが私の大統領です。すべての国民のために働くことを誓います」
「この勝利は、変革を求める皆さんの勝利です。私たちは一緒に、新しいアルセニアを作っていきましょう」
会場は大きな拍手に包まれた。
翌朝、ハワード大統領から祝福の電話があった。
「フリーマン次期大統領、おめでとうございます。円滑な政権移行に協力いたします」
「ありがとうございます。ハワード大統領の経験と知識もお借りしたいと思います」
エイデンの勝利は、世界的にも大きな注目を集めた。
「史上最年少大統領の誕生」
「新時代のアルセニアンドリーム」
各国首脳からも祝電が届いた。
しかし、エイデンは浮かれることなく、すぐに政権移行の準備に取りかかった。
「閣僚人事を検討しましょう」
「重要政策の実施計画も作成する必要があります」
三十一歳のエイデン・フリーマンは、ついにアルセニア史上最年少の大統領に選出された。十六歳で故郷を出てから十五年、ついに最高の目標に到達したのだった。
しかし、これは終わりではなく、真の始まりだった。大統領として、彼の真価が問われる時が来ようとしていた。




