後始末
研究棟の捜索は、日が落ちる前に終了しました。
広間の物品は殆どが運び出され、床も魔獣の残骸を残して、ほぼ片付けられています。
その残骸から、クラウン・キラの一部とみられる部品が、ご主人によって発掘されました。
洋梨型の小さなガラス容器は、どこかでみた形です。
魔獣は体内にて、捕食した物を悉く粉砕する性質がございます。
腹に収められながら、尚、原形を留める物があるとすれば、それは霊薬が満たされた何かに相違ございません。
クラウン・キラ本体の破壊を裏付ける証拠とも言えますが、そもそも本体の形状すら不明の機器です。
完成品をご覧になった調査員もいらっしゃらず、壊れたと断定するには情報不足、早計という結論になりました。
また、正面玄関の扉ですが、
「魔石の毒は、午前の陽光に晒すのが良い」
というご主人の意見が採用され、ここだけは手つかずのまま置かれています。
大学が用意した警察への最終報告は、概ねご主人の推理通りでした。
魔石や魔獣についても伝えていますが、そこはある程度ぼかし、何者かによって爆発物が投下された点を強調、事件性を主張することで、報告としての体裁を整えています。
グレン警部は黙ってこの報告を受け入れました。
学長室での会話を扉の裏で盗み聞きしていたこともありますし、何より、ご主人が指摘した通り、やはり警察が危惧していたのは、研究棟が反社会的な活動の拠点になっている可能性の方だったらしく、捜査を優先させるため、オカルト的な部分はひとまず無視することにされたようです。
爆発事故は正式に殺人事件へと切り替わり、その後の捜査は警察に委ねることで、研究棟で起きた騒動は、一旦、決着となりました。
ただ。
大学は、犯人について心当たりはないと主張しました。
広間で発見された亡き骸についても、身元が分かるまでは言及しないとのことです。
警察にあの日誌は提出しているとはいえ、容疑者について知らぬ存ぜぬを通そうとする姿勢は褒められた物ではありません。
ですが、秘書さんへの態度からも分かるように、大学内の政治は余人には計り知れない深淵みたいです。
「上々だろう」
ご主人はそう締め括られました。
回収されたキラは幌馬車に乗せて警察署へ運ぶことになりました。
荷を積み込んでいるのはダグさんです。
お仕事は午前上がりでしたが、半端に居残ったついでにと、あの透明な物質の除去や、煙突の検分といった捜索のお手伝いを買って出られたのです。勿論有料です。
ご主人も、後から行われた捜査協力の料金は、きっちり頂きました。
ただ働きにならずに済み、何よりです。
帰り際、作業を終えた皆さんへの挨拶がてら研究棟を覗くと、広間には暗く鮮烈な夕日が差し込んでいました。
すっかり物が片付けられ、寒々しいばかりに広い空間は、どこか物悲しく映ります。
破れた映像記録の中に垣間見た学生達。
彼らと共にクラウン・キラは失われ、そしてその設計図や制作工程、完成図といった資料は、この日の捜索では発見されませんでした。




