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考えたくない少年

人々が寝静まった深海のような深夜。グレイグリーンのくしゃくしゃの三つ編みをひとつ下げた青年が現れた。彼は煉瓦タイルの噴水のある街広場の真ん中へふらふらと歩み寄り、噴水のへりに腰を下ろした。本人はそのつもりだったのだろうが、彼の腰は噴水のへりから滑り落ちて煉瓦の地面にへたり込んだ。そのうちにゆっくりともたげた頭を噴水のヘリに預ける。噴水には一匹の青銅のイノシシがたたずんでおり、逆さまにそれを見上げた。ボッーとしながら、いつか誰かから聞いたこのイノシシの話を思い出した。たしか、画家に憧れていた青年が飢えて街をさまよっていたとき、この青銅のイノシシに出会うんだ。願いを込めて鼻をこするとその願いをかなえてくれるっていうこのイノシシに。青年も画家になりたいという夢を願い、鼻に触れると青銅のイノシシは青年を背中に乗せて町で一番の美術館に連れていくのだが、この後の話が思い出せない。立派な画家になったんだったか、少年が体験したのは走馬灯で、夜を越すことなく燃え尽きたんだか。まあどうせ、そんなもの死が見せた幻想だろう。

「うぅ……。」しばらく動かなくなっていたその酔っ払いはうめき声を上げて、ふらふらと立ち上がると「……思い出すのもめんどくせえ。」とか、ぼそりとつぶやいて色の変わったイノシシの鼻に触れようとした瞬間、青年は激しくふらつき始めた。酔っ払いの足取りではない。まるで見えないなにかにもみくちゃにされているみたいにふらついている青年だったが、依然として夜の街並みは静かに青年を見守り続けている。ついに青年はその場に倒れ込み噴水のへりに頭を強打し意識を手放した。

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