憧れの異世界って!!
趣味は異世界もの全般。
中年男性の晋太は憧れの異世界へ!!
勇者召喚なんて優しい世界なんて存在するはずがない。
異世界転生って、無双系多いなと思い、異世界物を書きました。
【プロローグ】
僕の名前は|佐藤 晋太佐藤晋太学生時代にはオタクなんて差別の対象だった。憧れの秋葉、大分に生まれ育った僕には縁のないオタク友達。共働きの親に頼るわけもいかず高校三年間はバイト三昧。大学はもちろん東京、定期で秋葉原に行けるように考えて受験もした。親には大学の費用を半分も出してもらい。バイトも秋葉原と悔いのない大学生活を送れた。就職後は苦労したサラリーマンとして早十数年。ようやく主任と役職がついたのだ……。
会社は基本的に大っ嫌いだ。転職してキャリアアップした二十代後半の妻夫木課長だ。ずっと社歴順に役職が付き、病気などで退職や定年退職、責任に問われ左遷や降格など。ずっとその繰り返しだったのに何が「パワハラ」だ。おかげで後輩に役職をすぐ奪われる。
でも嬉しいこともある。今年最年少次長になった山中 岬ちゃんだ。彼女は容姿端麗で仕事も出来る僕の(元)部下だ。異世界転生しても全ての能力がカンストするだろう。(そして防具は限りなく露出傾向であって欲しい)そんな岬ちゃんが席を立った。
「佐藤君、一服しようか。」時計を見るともう十五時だ。「はいっ」と元気よく返事をし、一緒のエレベーターに乗りこんだ。後ろからは痛い視線を感じたがそんなのはお構いなしだ。岬ちゃんと他愛もない話や仕事の話をし、十五分ぐらいしてオフィスに戻った。席に着くなり小さな声で「あのっ、佐藤主任、ここが分からないんですけど。」岬ちゃんからもらった缶コーヒーを「ずずっ」と大きな音を立てて飲み干すと眉間にしわを寄せて「なんて?ぼそぼそ言っても聞こえないよ。」と言うといつも通り瞳に大粒の涙をため、こぼれないように少し上目遣いだ。心の中でガッツポーズをしながらもう一度オフィス全体に聞こえるように「なに?」と言うと事務のおばちゃん同士がこちらを睨みつけながら「また始まったわよ、向井ちゃんかわいそうに……」と言った。『聞こえてるっつーの』と思いをとどめながら、新入社員の向井ちゃんをいつも通りいびって残りの時間を過ごした。
僕のモットーは『会社でのストレスは会社で発散すること』だ。無事今週も花金を迎えたので帰って異世界動画を漁り尽くさなければ、といつもの帰り道である最寄り駅のホームに着いた。相変わらず東京は人が多いのでわざと一、二本電車をアニメ(基本的に異世界物)を見て逃し、扉の前に陣取り奥まで行くことが座る可能性を高めるのだ。今日も二本目は馬鹿みたいに自分の体を押し込んでこの電車に乗りたいサラリーマンを見て鼻で失笑した。扉に体を押し付けて汗をかく意味が分からない。どうせ次の駅で外に追い出されるのに。ようやく迷惑な客が扉に収まり電車が発車された。すると「次は〇〇番線、快速電車が通過します。」とアナウンスが流れた。
「ふわっ」と風を感じたのもつかの間、誰かに背中を押されたことに気づいたが既に足が地面から離れていた。せめて押した憎い奴の顔を見た。『こいつ知ってる…………妻夫木だ。』すると。
「プワ~ァン」大きな音とがして左を見ると快速電車が迫ってきていた。「くそ~~」と大きな声を出しながら二つの願いをしながら「グシャッ」と脳内に響き渡り、轢かれた。
過去の記憶がフラッシュバック?いや、違う。左足の膝が電車に触れた瞬間から体の左側から順に少しずつ、スローモーションに体が潰れていくのを感じた。今まで感じたことがない激痛を感じながら。
二つの願い。
『妻夫木を呪い殺すことと、異世界転生したい』と。
【一章・いざ、異世界へ】
「起きろぉぉお」
大きな声にびっくりして飛び起きた。勢いよく起きたせいで右側にバランスを崩してしまった。咄嗟に右手を着こうとした瞬間『ズキン』と両方の手首に痛みが走り?理解もできずに右肩から地面に倒れた。
「は?えっ?」と情けない声が出た。声が違う、と思い確かめた「あぁーー、あぁあーゔぅー。はぁ」やっぱり違う。「まぁ、イケボだからいっか。手がどうなってんだ?」声にして確かめながら下を見ると頑丈そうな木製の手錠をされてた。理解が出来ず、首を傾げたかったが横を向いてるせいで傾げることも出来なかった。
すると目の前が急に暗くなった。そして上から野太い声で「おぃ、起きろ!」と言われてこめかみを鈍器(多分槌みたいなものだろう)で殴られた。「いってぇーなっ」と声を荒げたが頭を抱えることもできず、勢いに任せて横に転がった。
うつ伏せになったところで壁に激突した。「また右肩かよっ」と壁を見ながら呟くと『ふわっ』と体が宙に浮いた気がした。今度は首の付け根が痛い、髪の毛を引っ張られたことを察し怒鳴ろうとした瞬間……
「なんだ、おまえ。」と考えるより言葉が先に出た。
「あ?何言ってんだ、オークに決まってるだろ。」目を疑ったが、どこを見ても毛むくじゃら、顔は立派な牙が生えている。ただ、晋太から見て左側は途中で折れている。でもそんなことはどうでもいい。
「やったぁー、異世界転生バンザーイ!」と大きな声で叫ぶと、「うるさい」と一言。『ドカッ』と大きな音と共に晋太は「ヴゥ〜、痛い。」と唸った後に続けて「さっさとこの邪魔な手枷を外せ。このケダモノめ!」とオークを睨め付けながら言った。
オークは「……」とだんまりだ。「僕は勇者候補だぞ。これから僕の下僕となるなら今までの無礼を許そう。心が広いからな。」と晋太は何故かドヤ顔だ。
するとオークは「ガハハハハ」と爆笑した。晋太はたまらず「何がおかしい。いきなりで状況が読み込めないのか?」と不思議そうに言うと……
「勇者候補?何を言っている。牢屋で両手を手錠されているやつが血迷った事を言ってるからではないか!」と言うと「僕は晋太、異世界転生者だ。転生者は決まって勇者候補と相場は決まっている。」と言うとオークは「あー、元はただのヒューマンか。転生と言うだけでそこまで考えれるお花畑な頭は感心するが我が主はそのような意図で召喚などせん。」
晋太はオークの言葉が理解できずに思考が停止した。口を大きく開けた状態で数秒が経ち、これ以上待っても意味がないと理解したオークは目の前の晋太が少し哀れに思い。「おい、エルフ。いや、元ヒューマンか。我が主の召喚の意図は奴隷集めだ。」と優しい口調で、しかし厳しい現実を晋太に突きつけた。
晋太は状況を察したのか手元を見下ろして、手錠を確認した後に再びオークの目を見た。
「嘘だ、俺は勇者になる為に転生されたはずだ。きっとチートスキルが付いてるはずだ!開け、ステータス。」
……何も起きず、オークに爆笑された。「おい、ステータスは飼い主が決まった後ご主人様にギルドで教えてもらえ。奴隷オークションは明日だ、起きたらなこの腐りかけのパンでも食っとけ。」と足元にあるパンを指さした。食べ物を見て、怒りなど忘れて『グゥ~』と盛大におなかが鳴った。飛びついて大きく一口嚙み切ったが、鼻の奥までツンッとカビの匂いが広がった。匂いがたまらず『ぺっ』と吐き出した。そしてオークを睨みつけるとオークが一言「明日の昼のオークションまでそのパンだけだぞ。」と、絶望的な内容にまた思考が停止すると、オークはやれやれと首を横に振りながら他の檻を見回りに行った。
絶望の思考回路からは自分のおなかの音で現実に戻された。一度は諦めて寝ようとしたが空腹で眠れるわけもなく、パンを少し口にちぎって入れた。『ヴウゥ』とカビ臭さに嘔吐いたが、無理やり胃の中に押し込んだ。いつもより鼻が利くのがかえってカビの匂いでマヒしてきたので急いでパンを全部ほおばった。もちろん先程吐き出した分もだ。何とか食べ終わったらすることもなく布一枚の寝床に行き、今度こそ眠りについた。
「起きろぉぉお」
またオークの大きな声で起きた。「寝た気がしない」と晋太はぼやいた。夜の間に叫び声で何度も目を覚ましていた。鞭でしばかれる音や、水掛ける音が聞こえた。転生前のドラマでしか見たことのない拷問だろう。中には女か子供か分からない高い声も聞こえた。拷問後も叫び声が頭の中に残っており、あまり眠れず、寝ても悪夢で何度も目が覚めたからだ。
眠くて目を擦っていると、昨日パンが出てきた場所から器が出てきた。濁ったスープだろうか、匂いを嗅いだら何か土臭い。嫌な予感がしたが一口飲んでみた。「ぶぅー」と盛大にスープらしきものを吐き出した。むせていると『ガンッ!』と大きな音とともに「うるせぇ」と怒鳴られた。でも仕方なかったのだ、匂いの通り泥水だったのだ。喉が乾いたがこんなものを飲んでもかえって喉が渇くだけなので諦めて寝っ転がった。
夜あまり寝れていなかったこともあり、すぐにウトウトとした晋太だったが、オークが檻の前に立った。
「おいっ、行くぞ」と言うと簡単に扉が開いた。「えっ、あいてるんかいっ!!」たまらずツッコミをしてしまった。晋太の会心のツッコミを無視したオークは晋太の手錠に繋がっている鎖を掴み檻から見えていた廊下を進んだ。オークの体が廊下の幅くらい大きく、前は全く見えず、オークの背中を見て歩いていると……『ドンッ』とオークに当たり、晋太は「いっった!!」と頭を抑えていると、『カチャン』と乾いた音が響いた。「来いっ」と檻の中に声を掛けて少し中に入ると手錠の鎖を引っ張り晋太の手錠にある輪っかに繋げた。再び歩きだすとさっきの檻からはゴブリンが出てきた。「くさっ」と呟くとゴブリンに睨まれた。檻の奥から出てきた時によく見ると腰に布が巻いているだけでいろんな箇所に鞭の跡が痛々しく残っており、腰布は濡れていた。『ダッサ!』と睨まれるのが嫌なので心の中で思うとすれ違いざまに胸が膨らんでいることに気づいた。歩く速度を緩めるとオークに鎖を引っ張られ緩めた速度を早めた。別の檻まで行きオークが手をかけると、小さな『ピッ』と小さな音がした。意外にもセンサーか何かでオークが扉に手をかけると開くシステムみたいだ。「案外ハイテクじゃんw」と思わずニヤけてしまった。
そのまま10人?(ほぼ人間の姿をしていないモンスターだったが)を連れて廊下の先の階段を登って行った……。