曇天
三題噺もどき―さんびゃくななじゅう。
はたと気づくと、一日の半分が終わっていた。
手に持っていたスマホの右上に表示された数字を再度確認してみる。
―やっぱり半日終わっている。これも、自分が起きてから半日なので正午はとうに過ぎている。
「……」
不思議と腹の虫も鳴かなかったので気づかなかった。
いや、不思議でも何でもないか。
起きてからずっとこうしていたんだし。
何もやる気が起きなくて、リビングのソファでゴロゴロしていただけだ。
「……」
しかし、その時間にしてはやけに部屋が暗い。
カーテンがかかってはいるが、レースである。外の光があれば、それなりに明るくはなるはずだ。
確かに、この家は高い建物に囲まれているので、光は入りにくいんだが……この時間は比較的明るさはある。
「……」
あぁ、なるほど。
なぜだろうと外を見れば、曇天だった。
空は灰色でおおわれている。光がなければ暗くなるのは当たり前か。
それでも多少は明るいので、マシな方だろう。電気をつけるほどでもない。
……電気はあまり、明るすぎて好きではない。つけなくてもいいなら、支障がない限りはつけない派である。夜はさすがにつける。
「……」
朝起きていた時には晴れていた気がしているんだけど。
残念ながら今日に限って朝の予報を見ていないので、どうだったのか分からない。
まぁ、雨の予報が入ってはいたのだろう。
昼過ぎから雨が降る所もあるでしょうてきな感じで。
「……」
的中率がすごいとよく聞く様にもなったが、それの半分くらいの確率で外しているのもありそうだよなぁ。
でも、ここ最近の異常気象を見たら仕方ないのかもしれない。
正直言うと、そこまで予報を気にするような質ではないので、どうでもよかったりもするが。
「……」
雨は降っていなさそうだが……果たして今から降るんだろうか。
別に出かける予定もないのでいいのだが。
降ったら降ったで、ただでさえない気力が底辺に落ちる。
今でも落ちているのに、このままだと穴を掘る勢いで気力が沈んでいく。
「……」
曇天は別に嫌いではない。
太陽程攻撃的でもないし、熱くもないし。
むしろ過ごしやすくて、頭一つ抜けているまである。
「……」
ただその後に、在るかもしれない雨というものが苦手で。
確実に来るわけではないとは思うが、それでも多少身構える。
雨音は好きだし、その後の光る世界に癒しを得ることもできるので、嫌いというまではいかなくとも。
「……」
ただ……。
ただ………。
うん。
今日は雨が降りそうだ。
良くないかもしれない。
「……」
こういう時、自分の体質が嫌になる。
これ自体は割と常日頃ではあったりするが、軽度で済む。
しかし、そこに雨が重なると話が違う。
「……」
光がうるさくなってきたので、スマホの画面を閉じ、画面が見えないよう伏せる。
窓から見える空は、重く、暗い。
じぃと。
見つめるように見続ける。
「……」
こめかみのあたりに、痛みが走る。
そのうち頭が万力で絞められたように痛み始める。
鼓膜に、脈動が響き始める。
「……」
今回はいつもよりも酷そうだ。
かと言って薬を飲む気にもならない。あれは嫌いだ。
飲んだ後が最悪だし、最近唇が腫れたりするようになったので、飲むに飲めない。
「……」
痛みが本格的になりだすと、思考はそれに沿うようになる。
同じような痛みで軽減でもしてやろうとでも言う様に。
過去の傷を広げて塩を塗りたくる。
痛む傷でさらに別の傷が出来上がり、広がっていく。
痛みが治まるわけもない。
「……」
これは、かなり耶馬目のやつかなぁ。
ここ最近悪化することがなかったので、油断していた。
ただでさえ、ここ最近色々と不安定になっていたのに……。
悪化することなんて目に見えていたくせに。
「……」
じぃ。
と見ていた空から視線を外し、壁に掛けられている時計を見る。
「……」
ゆっくりと体を起こし、ついでに少し深呼吸をしてみる。
痛みではなく。
傷ではなく。
呼吸音に。
意識を集中させる。
どうということもないが。
薬を取りに行くぐらいの余裕は生まれる。
「……」
ご老人か何かと見紛う程にゆっくりと立ち上がる。
ホントに年を取った気分だ。
とか言うと、両親や祖父母に文句を言われるので口にはしない。
「……」
さて。
とりあえず、薬を飲んで。
効きだすまではゆっくりしてみよう。
どうせ、今日は何もできそうにない。
お題:呼吸音・曇天・傷