1話~10話
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生きていけば、生きていくほどに、東京の街に降りたくない駅が増えていく。
小田急線が私を目的地に運ぶ間そんなことを考えていた。
車窓から見える長閑な住宅街の上を、覆い被さるように雲がもくもくと色付けている。
雲間から、宗教画の様な光の筋が降り注ぎ、わざとらしい美しさを作りあげていた。
ここには綺麗なものなんて、ただの一つだって無いのに。
劇的に演出された住宅の屋根を虚ろな眼差しで眺めながら、あと3駅、と数えていた。
目的の駅ではなく、もう二度と降りたくはない、私の心臓を狭く濃く押し込める、そんな駅まで、あと3駅で着く。
どうして電車は同じ駅に止まるのだろう。
小田急線には彼と過ごした駅が多すぎて、どこもかしこも私を過去に引っ張りこんでいく罠が張り巡らされている。
戻れない、戻りたくもない過去を私の頭の中に無理やり再生させながら、電車がゴトゴト足元を揺すぶって走る。
覚束ない足元と電車にぶつかる体、気持ちは唯々、ゴボゴボと水の底に沈んでいくように、重く冷たく暗くなっていった。
自動的に沈んでいく自分の気持ちが嫌いだ。
もう二度と会いたくない人間なのに、思い出だけは良い物だけ残っていくのが不思議だ。
下北沢への到着を知らせるアナウンスが聞こえて、扉が開く。
30手前で付き合った彼とは結局7年続いた。
引き返して別れれば良かったのに、終わった後にはもう恋の適正年齢はとうに過ぎ去って、私自身恋の仕方も分からなくなっていた。
「なんか、疲れちゃったな…」
口からため息のように零れ落ちた言葉が心に刺さり、涙が出そうになる。
涙をこらえて唇を固く閉じる。
目に溜まった涙で視界はグニャグニャと情けなくぼやけていった。
涙が一筋頬に流れた。
たまった涙が零れ落ちたのに、視界は相変わらずぼやけ続けている。
どんどんと、よりひどくぼやけて、ぐにゃりぐにゃりと曲がり始めた。
「??!
…なに??」
気が付いた時には足元がストンと床が抜けるように無くなっていた。
なに?なんなのこれ??
頭の中は混乱しているのに体は動かなかった。
状況が判断できないのに、体自体はそこにあって熱を感じている。
え?
なに??
…私、何か気を失って倒れてるとか?
まさか、死…
死んだ…と、か…?
混乱する頭には、なにも解決が浮かばない。
考えうる一番現実的な答えが、気を失って倒れて、意識だけがある。
もしくは、死だった。
「あ~残念!
良い線はいってるけど、どっちも違うよ。」
鈴のようにかわいい笑い声をキャラキャラとならしながら、見目麗しい豪奢な少年が目の前にふわりと降り立った。
「…っ!」
その光景は、息をのむほどに神々しく輝いていた。
あまりに不自然で、信じがたい事が起きているのに、その少年の容姿がすべての説得力を与えるかのように神秘的に際立っていて、何か不思議な体験が起きていることを深く腑に落ちさせ、逆に現実感を持って迫ってきた。
「…あ、あの、ここはどこ?」
やっとのことで絞り出した声が、情けなく掠れて空間にこだました。
いつの間にか辺りはどこまでも白く、発光したような世界に変わっていた。
「フフフ…
さあ?どこだと思う?」
少年の天使のように麗しい顔が、悪魔のように悪戯に、楽しそうに笑顔を作り、終いには楽しくて仕方ないと言うように、空中で一回転して私の周りを飛び回る。
「ここはね、君のいた世界のどこにもない場所。
天国と言う人もいるし、地獄と言う人もいる。
まあ、君たちが言う、神が住まうところだよ。」
涼やかで美しい声が私の周りを飛び回る。
少年はふわりと目の前に舞い戻ると、優美な仕草で胸に手を置き
「そして僕が、君たちの言う神。」
クスリと魅力的に頭を傾げながら言った。
「か…神…様…?‥‥??」
「うん!そうだね!
まあ、そんなような存在、って言うのが正しいかな?
君たちの概念とは違うから、完全に同じじゃないけど、平たく言うと君たちの住む宇宙を作った存在。ってところ。」
「…う、宇宙…?
創造主?って言うことですか?」
少年は、上を仰ぎ見て、首を振りながら、さも残念なものを見るように言った。
「なんか違うんだよね、創造とか、僕は君たちの考える万能神みたいな感じじゃなくてさ。
僕が自己紹介するなら、世界を制作するメイカーって言うか…。
宇宙製作者?みたいな?
世界を作るのを趣味として楽しんでるだけって言うか??
」
「‥‥‥‥はぁ?」
新しい概念の発言に、ポカンと口をあけるしかない。
「作った世界に干渉して力を加えようとか、あんまり思ってないし。
だって世界はその世界を作り出した時にプログラムしておいた、法則と流れの力に任せた方が、見てる方としては面白いし、なんだか美しかったりもするしね!」
「作った本人でも驚きがあるような、面白い動きをしてくれたりして。
それが制作者冥利に尽きるというか、これが楽しみで世界作ってるな~って感じがあるからね!」
神妙に腕を組んで百面相したり、大げさな身振り手振りで熱く熱弁する。
近視感のあるそれは、世界制作オタクっといった感じだった。
優美で豪奢な容姿もこれでは台無しである。
‥‥一気に親近感は増したけれども。
「あ、あの…、それで、なんでその傍観者な神様が、私に話しかけているんですか?」
オタクの話は早めに折るのが鉄則である。
「僕、最近日本で遊んでたんだけどさ!
凄い概念を発見したんだよ!
君たち異世界に転生したいんだよね?!
流行ってるもんね?!」
らんらんと輝く瞳を間近い輝かせ、尚も神はまくしたてる。
「や~本当にびっくりしたよ!!
異世界に転生!記憶を持ったまま生まれなおすなんて概念!!
目から鱗!青天の霹靂!雷に打たれたみたいな衝撃だった!!」
神は日本文化をどっぷり学んだらしい用語を駆使しまくってくる。
「本当に面白いことを考えるよね!
そんなこと考えもつかなかったよ!
一本取られたね!」
たはーと言った最高のタイミングのジェスチャーを交え、神は非常に楽しそうに興奮している。
神の日本文化を押し出す用語と熱意に若干引いていく自分を感じてしまう。
…綺麗な顔なのに、なんて残念な神なんだ…。
秋葉で遊んだに違いない。
「でもさ、これ!異世界に転生ってやつ!
か・な・り!難しい技術なんだよ!
何せそんな概念すら存在しなかったんだ!
新しい摂理の構築さ!
無理難題!ミッションインポッシブルさ!」
カタカナ英語も完璧な日本発音である。
「で~も~!
僕なら!
出来た!!
す~~~~~っごく大変だったけどね!」
満面の笑みで両手を広げはしゃいで見せる。
もう私の目には神々しさのかけらさえも見えなくなってしまっていた。
「詳しく聞きたい~~?
あのね!まず 」
「いえ!!!詳しくは大丈夫です!!」
長年の経験で素早くフラグを折っておく、これは3時間コースだ。
「大体言わんとすることは、異世界転生って時点で想像できるんですが…。
なんで私なんですか?
特に誰かを救ってトラックにひかれた覚えもないですし、ホワイト企業勤務ですよ?」
神は話の腰を折られて、可愛く頬を膨らませる。
こんな文化まで習得済みとは…。
「ん~まぁ、ちょっと、選んだりするのは、めんどくさいって言うか~
特にそこに興味は無かったから~
たまたま!
ちょうどそこに君が目について。
すっごいたまたま!連れてきた!」
「なんか、不幸そうな顔してたし、いいかな?って、地球に未練ないかな?
って思って!」
ものスゴイ、偏見に満ちた決めつけ!
「いや!一応私にもありますよ!!地球に未練くらい!
勝手に決めつけないでください!!
ワン○ースとハンター×○ンターの完結まで死ぬわけにはいきません!!」
神様は、はっと息をのみ口を押える。
「ごめん…!!僕は…!とんでもないことをしてしまったね…。
…気持ちは、分かるよ。」
申し訳なさそうな、顔もつかの間だった。
あの、絶対的な神としてのオーラを身にまとうように、優美な仕草を取り戻し手を振る。
「フフフ!
でも、ざ~んねん!」
「もう君の魂は転生を開始してるよ?
フフフ、ごめんね!
もめることも、漫画で履修済みなんだ。」
美しい顔が不敵にニヤリと笑う。
「!!
そんな!…まって!聞いてない!!」
神は高貴な仕草でため息をつき、首をかしげて見せる。
私の体が段々と光り始め、感覚が薄れていく。
「何これ?!」
「君の望みは癒されることらしいね?神社で言ったでしょ?
大丈夫。それっぽい所を選んでおいたよ。」
(そんな!まだ、本当の心残りが!!)
もはや私の体は薄くなり、声を出すことも叶わなかった。
「ああ!そうだチートとか言うシステムあるんだっけ?
僕には何がチートになるのか、ちょっとわかんないんだよね~」
神はマイペースに、楽しそうに語りつ続ける。
(待って!家族に!まだ何も言ってない!!)
声にならない叫びが私にだけこだまする。
「役に立つのか分かんないけど、能力?適当に付けとくね?」
「ふふ!じゃあ!異世界、楽しんで!」
神はその存在に相応しい、完璧に美しく傲慢な笑みを向けた。
(最っ悪!馬鹿!オタク!
神なんて!絶対に恨んでやるんだから~~~~~!!!)
恨み節を心の中で叫びながら、私は自分のけたたましく泣く声で目を覚ました。
端的に言うと私は生まれなおしました。
そう、この異世界に誕生致しました。
最初の頃はもう、赤ん坊と言う立場をフルに利用して、誰にも憚ることもなく大声で泣きわめきました。
あまりの理不尽に、むかつく神の顔を思い出しては、不機嫌に当たり散らし、泣きわめきました。
不自由な体もムカついたし、誰の言葉も分からない、正直最初は視界もぼやけ気味で、気が付いていなかったのもあります。
ここは猫耳、犬耳、リスにウサギにライオンまで!もっふもふのしっぽを持つ獣人達の世界だということを!
それからもう、私の興味は彼らのしっぽとふわふわの耳、前の世界では見なかったような髪色に瞳の色!
不覚にもワクワクしてしまいましたとも!
神はあまりにも心得てやがりました!
感謝はしないけれども、いいお仕事への評価は致しましょう!
神!!
グッジョブ!!!
…とまあ、そんなことを考えてた時もあったけれど、さすがの私も1年を経った時には気がついていた。
私がこの世界では異質な存在なんだって言うこと、私に向ける侮蔑を込めた冷ややかな視線。
生まれた家は異世界だって一目見ただけで分かる豪華な作りで、猫耳メイドも犬耳メイドも何人もいたのに、誰も私に触れもしない。
汚らしいものを見るように私は見られていた。
私はこの家の子供のようだったのに、こんな冷遇。
そして気が付いた、あまりにも私にはしっくりきてる、この
人間の容姿が原因だということに!
しっくりきすぎて、しばらく気が付きもしなかった。
私の容姿は、きっとこの世界では忌むべきものなんだ。
自分にケモミミがない、しっぽもない事、そして獣人さん達に凄く嫌われている存在であること。
それに気が付いた時大泣きした。
ほんとに赤ん坊でよかった。
こんな素敵な世界で、私は嫌われ者で、人間は私一人ぼっちかもしれない。
神!ちゃんと転生させるなら、その世界に適応させてよ!
何なのよ!
私は多分生まれてから一番大きな声で泣いた。
泣いても泣いても足りるはずもない。
「あら~、よしよ~し~。どうしたの~?」
絶望に打ちひしがれる私に、柔らかな声が降りそそいだ。
大きく暖かな手でひょいと私を抱き上げ、胸元で私の機嫌を取る様にゆすりながら、にっこりと優しい笑みでのぞき込む。
「まん、まぁ~!」
私の救世主!唯一私に触れてくれる、この世界の母だ!
この異世界で私に唯一触れてくれるこの美しい女性は、白銀のような髪にところどころ金色が混ざり合い、色素の薄い肌に水色の瞳を持っている。
本当に我が母ながら美しい女性だ。
私は母のことが一目見た時から大好きになった。
この美しい母に嫌われてしまったらどうしようかと思っていたが、話から推測するに他の者に反発されながらも、母は私に愛を与え続けてくれていた。
母の耳は丸みのある白い毛に黒い模様があり、尻尾は長くふわふわでボリュームがある。
尻尾に豹のような模様があることから、元の世界のユキヒョウの様な獣人さんなのかもしれない。
最初は私の家族は、もしや母だけなのではないかと思っていた。
ただ段々と言葉が理解できるようになる内、私には父と兄がいることが分かった。
彼らが会いに来たことは、一度だって無いのだけれど。
私は彼らから嫌われている、そんな話をメイドさんが話しているのを聞いた。
母も早く私を見捨てればいいのにと、そんな悪意のある言葉が、毎日聞こえてきた。
私が生まれた時にすぐに、森に捨てる、または殺してしまう…。
そんな話があったと言う。
それを母が必死に止めた。
私を殺すなら自分も命を落とすと、そこまで言って止めてくれたので、ようやく私は生かされることになった。
この世界で、私の容姿がいったい何を意味するのか、正直どうしてそこまで忌み嫌われるのか。
何もわからない。
何もわからないけれど、私はこの世界に生れ落ちて、毎日泣いていた。
赤ん坊でよかった。
悲しみに暮れて、故郷が恋しくなって、別れた家族に会いたくて寂しくて泣いても、誰も不思議に思わない。
「ラフィ?どうしたの?今日は泣いてばかりね?」
そう言って、優しい水色の瞳が私の心を覗き込むように、見つめる。
私を抱きしめながら、ふわふわと揺らしてくれる。
「ラフィはいい匂いね。ふふふ。
大丈夫、あなたはご機嫌斜めでも、とっても可愛いわ。」
母は私の頭にキスして、ほっぺたにキスをする。
惜しみない愛が、私を安心させ、ボロボロに泣いて、悲しみで荒れ狂った気持ちを暖かに戻していく。
あなたが母でよかった。
この異世界に来て良いことは、それ以外にまだ思いつきもしないけれど…。
「まっま、しゅき」
発音の難しいこの異世界の言葉を、何とか伝える。
母はこんな嬉しいことはないと言ったように、大げさに喜び
「ママも!ママもラフィ―が大好き!」
大好きよ~と言いながらギュッと抱きしめて、頬をすりすりしてくる。
大きな猫さんみたいで、私は思わず笑って、母も満面の笑みで。
幸せな気持ちが空間を満たすようだった。
「大丈夫。ママがあなたのことを守るからね。」
と優しく私の背中をさする。
安心と暖かさに包まれて、私が眠れるまでずっとずっと、愛を与えてくれた。
この一年囲いの付いたベットから、自由に動けない状況が多かったのだけれど、ハイハイが出来たり、つたい歩きが出来るようになって、少しずつ広い部屋のカーペットの上で遊ばせてもらえることも多くなった。
その日もカーペットに座って、絵本を読んで文字の勉強をしたり、文字の書いてある積み木で単語を覚えているところ、可愛い訪問者が迷い込んだ。
タタタタタタタタタッ
小さな足音が私の部屋の扉の外で聞こえるやいなや
「キャンッ!キャン!」
ふわふわのまあるい毛玉が転がり込んできた。
真っ黒でふわふわの毛玉さんは、ハッとして部屋をきょろきょろと見渡す。
ふわふわのしっぽが、迷ったように揺れている。
扉の外でバタバタと足音が聞こえだし、子犬はビクッとなって慌てて私の後ろのクッションの山に飛び込むように隠れた。
バン!と大きな音を立て、扉が乱暴に開く。
「ここですか?!」
犬耳の厳しい顔をしたメイドが、怒りを込めた顔で扉に仁王立ちになっていた。
私はびっくりして、メイドの剣幕に身を固くする。
「…ああ。ここはあなたの部屋ですか。」
後ろから猫耳メイドが顔を出し、じろじろ不躾な視線を向ける。
「お城のこんな外れにあったのね。
フフ…。さすが外れ姫!」
「ああ。なんだか臭いわ!
こ~んな、辛気臭い場所に居るわけないわね!」
嫌味な顔でメイドたちがくすくす笑う。
「一人っきりをお邪魔しました~!
失礼しま~す!」
とても礼節を守っているとは思えない、ぶっきらぼうな物言いで乱暴に扉を閉めて去っていく。
「あ~んなとこに居たら、私たちまで劣等種がうつっちゃう!」
「近づきすぎて、なんかバカになった気がするわ!」
「あんたのバカはもともとでしょ~!」
意地悪な笑い声を響かせてメイドたちが遠ざかっていく。
悪意が私の胸をギュッと掴んだようになって、涙がこぼれる。
こんな悪口は日常茶飯事だ、毎日だ。
大したことじゃない。
こんなことで傷ついていたら、きっとこの世界では生きてはいけないんだ。
そんな風に自分に言い聞かせたのだけれど、人から向けられる悪意には効かなかった。
涙は止まらずに流れ続けた。
悪意に慣れる日なんて、来るのだろうか…。
「クゥ~ン…。」
クッションの山から這い出した黒いふわふわが、とととっと近づき、私の涙をぺろりとなめる。
柔らかい黒いふわふわの毛の間から、可愛い鼻と神秘的な紫色の瞳が心配そうな顔で見つめる。
ふわふわのしっぽと、毛に埋もれてしまったような小さな耳が、今はぺたんと垂れて、しょんぼりしている。
次から次に流れる私の涙を必死にぺろぺろなめて、ふわふわの頭をすりすりと押し付けてくる。
その必死さが、可愛くて。
柔らかな毛がくすぐったくて、私はようやく声を出して笑えた。
私の笑い声に毛玉さんは嬉しそうに飛び跳ねて
「キャンキャン!」
とはしゃいで、すりすりしてくる。
そのあまりの可愛さに、きゅーんとなって毛玉を抱きしめ
「しゅき~!わんちゃ!」
ふわふわの毛に顔をうずめて、母がするように頭とほっぺにキスをした。
「ありあと」
そう言ってワンちゃんのお鼻に鼻をツンとする。
実家に居た猫によくしていた挨拶。
こちらの世界に来て、初めて動物に会えて、可愛くて優しくて、懐かしくて。
また涙が出そうになった。
また私の瞳がじわっとしたのを見て、わんちゃんが頬をペロッとなめて、鼻と鼻をちょんちょん合わせて慰めてくれる。
私はこのわんちゃんが大好きになった。
この世界に来て2番目のいいことかもしれない。
「だいしゅき!」
抱きしめて笑う。
それから、私たちは一緒に積み木遊びをしたり。
わんちゃんに絵本を読んで見せたり。
わんちゃんが、私の歩く練習を応援したり。
その日は多分生まれてから一番沢山笑った。
遊び疲れて、わんちゃんを抱っこして、クッションの山で眠った。
凄く幸せな時間…。
目が覚めたら…、夜になっていて、もうわんちゃんは居なくって、私はベットで眠っていて…。
青白く暗い闇の寒さに、また、寂しくなった。
それからいくつも季節を超えた。
異世界の神秘的な季節の移ろいは、泣いてばかりいた私の目にも新鮮な美しさを見せた。
地球の自然を眺めた時と同じように、世界の神秘を感じるような神聖な気持ちと共に、ここが私の居場所なんだと懐かしいような気持ちにさせた。
5歳になった私には、だんだんとこの異世界のことが分かってきていた。
まず、私の住んでいるこのお屋敷は、本邸とは全く別の建物で、広大な敷地内の隅に建てられた、本邸とは比べ物にならないくらいに、質素な建物だという事。
このことを知った時、地球人の庶民だった私にはかなり衝撃的だった。
質素と言う言葉の使い道を疑いたくなるほどに、どう見ても豪華な作りをして見えたし、地球の実家が丸々3つは入ってしまいそうなほどに、大きなお屋敷だったからだ。
本邸の豪華さとはいったいどの様なものなのか、そこから推測するこの家の財力に少し震える。
生まれたばかりの子供を殺そうなんて、なんて野蛮な世界なのかと思ったけど。
とんでもない家柄と言うことも相まって、非常識が働いたのかもしれない。
そして、その遠く離れた本邸に居る、父や兄とは未だに顔を合わせてすらいない。
森には捨てられなかったが、私は彼らに捨てられたも同然だった。
母は相変わらず私を可愛がってくれたのだけれど、少し前からここへ来る頻度が少なくなってきて、私は寂しい思いをすることが多くなった。
何か、私が悪いことをしたのだろうか。
それとも母の身に何かあったのだろうか。
もしかして、もう私のことを嫌いに…、いや…。どうでもよくなってしまったのだろうか…。
日がな外を眺める日が多くなった。
窓から庭を眺め、空を眺め、そしてまた庭を眺める。
ただ、私は夜には窓辺に近づくことを躊躇ってしまう。
私は、自分の容姿を見ることが怖いのだ。
毎日毎日、あんなに醜いと、気持ち悪いと、冷たい目線で蔑まれるのは私の容姿が見るに堪えないものだからなのではないだろうか。
この屋敷には、不自然なくらいにどこを探しても鏡がなかった。
そこには私に見せないように、と言う意図的なものが感じられた。
だから私は余計に怖くて、未だに自分の姿を見ることを避けている。
私の肌は、母に似て白かったが、胸まで伸びた髪は白銀と言うよりも、なぜか紫がかった金色をしていて、まだ見ぬ父は、こんな髪色をしているのかもしれない。
瞳の色はどんなだろう?
瞳の色は母に似ていたら良いな。
あの水色の瞳が好きだから。
でも…。
もし違う色だったなら、父の姿が少し想像出来るかもしれない。
父には酷い扱いを受けていて、きっと嫌われてる。
私だって嫌いなのに、それでも、どこかで会いたいと思ってしまうのは、前世の優しかった父の記憶が、私にありもしない期待をさせているのだろう。
カランカラ~ン!
…カランカラ~ン!
これまで一度も鳴ったことのない、玄関の呼び鈴が鳴った。
「…失礼致します!こちら、ラフィリア・ルナ・サウザリー・スフィアリム様の御邸宅で御座いましょうかー!」
大きなその呼び声で、にわかに屋敷内がざわざわ慌ただしくなる気配がした。
「…私、帝都に店を構えております。ガスティール商会の者に御座いますー!
どなたか、いらっしゃいませんかー!」
メイドたちが何事かとバタバタと玄関に走る。
「ガスティール商会?!」
「あんな大きな商会が、何の用かしら?!」
「本邸と間違えてない?!」
そんなことを口々に話しながら、お客様を迎える時の定位置であろう場所に整列し、ようやっと扉を開けた。
「いらっしゃいませ。
お待たせ致しまして、申し訳御座いません。
本日はどのような、御用向きで御座いましょうか。」
今までに見たことないほどのピシッとした整列とお辞儀して居るのを、私は玄関ホールの隅で見つからないように隠れて見ていた。
これまで、私を訪ねに来た人なんて一人もいなかった。
と言うか、私ってそんなに長い名前だったのか…。
「御邸宅の主人、スフィアリム侯爵令嬢に礼服の制作を賜りました。
スフィアリム侯爵令嬢に御取次の程宜しくお願い致します。」
メイドたちの間に隠しきれない動揺が走る。
メイド長は動揺を抑えようともしない。
「…っ!
何かの御間違いではありませんか?
ここに居る者は礼服を着るような機会、あろうはずも御座いません!」
ガスティール商会からの使者は、そのあまりに無礼な拒絶の対応に何かを察したように、今度は強めの口調で言った。
「これは、誰よりも高貴な御方からの直接の御依頼なのです。
貴方にそれを止める権利など御座いません。
私を御止めになるのなら、それなりの覚悟をして頂けますか。」
「な!そんな!
そんな言葉!信じられるわけもありませんわ!
あのむすめは、生まれてこの方ここから出た事も御座いませんし、これからだって礼服を着る場に出ることなど!
荒唐無稽なお話!」
「そうで御座います!
貴方の勘違いでないなら、誰かに謀られたのでは?」
口々にメイドが否定の言葉を吐き出していく。
ガスティール商会の使者は名乗っただけだが、その身分を疑われてはいない様だ。
私はあんまりにあり得ない話なので、丸ごとウソなのでは、と少し怯える気持ちが出てきたが、メイドたちには一目でこの使者がガスティール商会の者であると確信はあるらしい。
使者は呆れに軽蔑を含めた顔で言い放った。
「貴方方が侯爵令嬢をどのように扱っておられたのか、透けて見えるようです。
私を止めるのなら覚悟を、と私は伝えましたから、御取次いただけないようでしたら私からまいります。」
そう言ってメイドに冷たい一瞥をくれ、屋敷の中にどんどんと入っていく。
「なっ!!
お待ちください!!」
わらわらとメイドが慌てふためき付いていき、行く先を塞ごうとしている。
使者に付いて、ガスティール商会の者たちが、大きな荷物を抱え後にどんどんと続く。
私は何が起きているのか、訳が分からなくて、混乱と何かが動き出しているような。
この世界に生まれて初めての事件、大きな動きみたいなものが動いた気がして、心の奥が少しワクワクした。
何が起きているのだろう…。
期待と共に、今までが今までだったばかりに、最悪の事態を想像しなければとぐるぐると悪いことの考えをめぐらす。
メイドの一人が、強引に止めようと試みて、荷物を持って来させるまいと阻止しているうちに、リボンの入った箱を転がし、玄関の広間にリボンをぶちまけた。
ガスティール商会の者が慌てふためき拾い集める。
その様を意地悪な顔でメイドが見ていた。
使者は信じられない、といった具合に厳しく睨みつける。
その時だ。
ダダダダダダダッと素早い足音と共に
「ゥワァン!
ワンワンヴァン!」
低い唸り声と共に黒い大きな犬が吠えかかり、広間に嵐のように突入してきた。
黒々と大きな体で怒りのオーラを振りまき、広間低い唸り声が反響させる。
その迫力にメイドたちはへたり込み、皆腰が砕けたように膝をついた。
あの子だ!
あの日出会った黒いふわふわの優しい子犬とは、実は今までもたびたび遊んでいた。
あんなに小さかった子犬も5年の間に目を見張るほど、どんどんと大きくなっていたのだ。
ワンちゃんは人のいないとき、どこからかやってきて、泣いていると慰めてくれ、一緒に遊んでくれた。
この五年間ワンちゃんが居なければ、私はもっと絶望していたはずだ。
「ウォンヴォァン!!ワンワン!!!ヴヴヴうヴ!!」
鋭い声で吠えかかるワンちゃんにびっくりしたけれど、止めなければ!と物陰から飛び出していた。
「ワンちゃん!
吠えちゃだめだよ!」
そう言ってとっさにふわふわの首元に抱き着く。
怒りで我を忘れたような大きな犬に、小さな女の子がいきなり抱き着いたからか、周りは恐れおののき、驚きと恐怖の顔を張り付かせている。
「この子はいい子なの!大丈夫!
びっくりして怒ってるだけだから!!!お友達なの!!」
周りの大人に必死で訴える。
危ない犬だと思われたら、殺されたりするかもしれない。
「ワンちゃん、大丈夫だよ。
この人たち悪いことしないから。
怒らないで。」
ワンちゃんを何とか落ち着かせようとギュッと抱き着いて毛並みを優しく撫でる。
「クゥーン。」
ワンちゃんが優しく鳴き、すりすりと私に頭を預け、いつの間にかこぼれていた私の涙を優しくなめてくれた。
そこにはいつものあの優しい紫の瞳。
鼻と鼻をチョンとして挨拶をする。
「ふふふ。良かった。
心配したよ。ふふふ。」
安心してまた流れ出た涙を、ワンちゃんが丹念になめるのがくすぐったくて思わず笑ってしまう。
ワンちゃんは私を守るように立ちふさがり、低い声で唸る。
「ワン!」
ワンちゃんのその声にハッとしたように、ガスティール商会の使者が
「ようやくスフィアリム侯爵令嬢にお会い出来ました。
では、御召し物の制作の為、場所を移させて頂けますか?」
にこりと優しく笑い使者の人は膝まずく。
私はどうしたらいいのかと思い、ワンちゃんにキュッとしがみ付き、ワンちゃんの瞳を見る。
その瞳は、安心させるように優しかったので、彼らを部屋に案内した。
私にあてがわれた応接室のドアを開け、中に案内する。
前世の私から考えると十分に広く贅沢な部屋に見えるが、失礼があってはいけない。
「あの、ここが私の部屋で、この部屋でよろしいでしょうか?」
この世界で初めて、母以外の親切な大人に私は緊張も隠せもせず、おずおずと聞いた。
「もちろんで御座います。レディ。
ご案内頂き有難う御座います。」
使者の方は恭しく礼をして、大きな羽根飾りのついた帽子を取って挨拶をした。
帽子を脱ぐと虹色に見える色鮮やかな長い髪がキラキラと現れた。
頭の上にぴょこんと飾り羽が生えている。
この方はきっと鳥の獣人さんなんだ。
まじまじと見た使者の方は深い青い瞳を持ち、切れ長の目をした美しい顔をしていた。
私が見とれていると、ワンちゃんがチャチャチャといつものクッションの山にボフっと座り、不服そうに「ワフッ!」と、吠える。
やきもちを焼いているみたい。
久々に会えた、ワンちゃんに嬉しくなって駆け寄って抱き着く。
大きくなったワンちゃんはお座りしていても、もう私よりも背が高くなっている。
首周りのモフモフがちょうど頬に当たって、抱き着いて顔をうずめたくなるのだ。
「ワンちゃんも、さっきは怒ってくれてありがとう。」
ふわふわを撫でてやりながら言うと満足そうな顔をしている。
「でも、皆をあんまり怖がらせちゃだめよ?
皆に怖い子だと思われちゃうでしょ?」
わざと怒った態度で言い聞かせると、「きゅーん」と耳がぺしっと垂れて可愛い反省をする。
大きくなったのに相変わらずとっても可愛い!
こんなに可愛くちゃ怒れない。
ふわふわの首元に顔をうずめて大好きだよ~と思いながら抱きしめる。
「ブハッ!!」
背後で吹き出す声がした。
振り向くと、涙目で顔を赤くした使者の人が、何とか笑いをこらえようと、口を抑えて頑張っている。
ワンちゃんが「バウ!ワウ!」と抗議するように吠える。
「も、申し訳ありません!!
それでは、まずは採寸から、い、致しましょう。」
にやけた口元を懸命に抑えながら、震えつつようやく言った。
「ふー---!」
何とか仕事モードになろうと、大きく深呼吸をしている。
使者の人もワンちゃんの可愛さにやられたのかもしれない。
後ろに控える商会のスタッフの人に向け手を叩くと、皆てきぱきと準備をし始めた。
色調の落ち着いたカーペットに可愛い靴が何足もずらりと並べられ、華やかなドレスの掛かっているラックが次々と運び込まれる。
その中に煌びやか大きな全身鏡があった。
反射的にぎくりと怖くなり、ワンちゃんの後ろに身を隠す。
どうしよう。
怖い。
顔が、あげられない。
ワンちゃんがどうしたの?と言うように心配そうにふんふんと鼻先を私に向ける。
私がワンちゃんの陰で固まっているうちに、着々と準備は進んでいく。
今まで避けていたこと、でもまさか一生避けられるはずもない事。
それが、今来たのだ。
「ではレディ・ラフィリア、こちらにどうぞ。」
私は覚悟を決めた。
固い足取りで顔を上げることが出来ずにおずおずと鏡の前に進み出る。
怖い。
スカートのすそを握り締める私の手を、ワンちゃんがぺろりとなめた。
勇気をもらえた気がして、鏡の中の私と生まれて初めて対峙する。
そこには紫の光沢をもった金の髪に水色の瞳、ピンクのほっぺたの肌の白い、可愛い女の子がいた。
…これが、わたし…?
美しい母にそっくりな顔立ち、大きな瞳に長いまつげ、唇も頬も血色がよく鮮やかだ。
私から見ても美しい少女に見えた。
髪をかき分け、耳を見て見る。
やっぱり、人間の耳だ。
触った感じで、慣れた感触で分かっていたけれど、やはりがっかりした表情は隠しきれなかった。
美しい顔立ちに見えるのに、きっと獣人の姿でないことはこの世界では醜悪に見えるのだろう。
それでは…、どんな格好をしても、私がどんなに努力しても、この世界の人に好かれることは、無理なのではないかな…。
母に似た顔が嬉しかったのに、同時に沸き上がる不安が、鏡の向こうの私の顔を悲しくゆがめていた。
「レディはお美しお顔立ちですね。
私共も飾りがいが御座います。
完成が楽しみです。」
何気ない感じで鼻歌交じりに服の準備をしながら、商会の人が言った。
あまりに自然に褒められて、びっくりして固まってしまう。
そして瞬時に、『ああ、これはお世辞なんだ。』と、気が付き、恥ずかしくなって顔を赤くしてワンちゃんのモフモフに顔をうずめる。
わんちゃんがよしよしと頭を撫でるように頭をすりすりしてくれた。
いつだってこの子は優しい。
私は恥ずかしくって真っ赤になった顔で、いざドレスショッピングに立ち向かうことにした。
がちがちに緊張して棒人形の様になった私を、採寸係の皆さんがニコニコと採寸していく。
ウエストはもちろん、手首や足首足の甲の高さに首周りまで、測れるところは全部測るくらいに細かに採寸されていく。
前世ではもちろん、今世であってもドレスなんてオーダーメイドしたことは無いのだから、そのあまりの緻密さにびっくりして、少し恥ずかしく終始顔を赤くしていた。
「どのような、お色のドレスが良いでしょう。」
「初めてのお披露目ですもの!華やかなものが良いわよね。」
「それでいて、レディの可憐さが引き立つデザインがいいわ~。」
「大ぶりな飾りも素敵ですけど、小ぶりで品のある飾りが贅沢に使われているのがいいと思うわ」
ワイワイと楽しそうに商会の方がドレスを取り出しては、私にさっと合わせ、議論を戦わせては、さささっと手早く私に着つけていく。
ドレスのことなどさっぱりわからない私は、何を言われてもこくこく頷くことしかできず、鏡の中でどんどんいろんなドレスで変身していく私を、魔法みたいな心地で見ていた。
「綺麗な瞳のお色を引き立てるような、水色のドレス!プリンセスラインのドレスに銀の刺繍!背中のふわりとしたおリボン!宝石が散りばめられて、キラキラ輝いていて、まるで妖精のプリンセスのようではないですか!」
鏡の中の私が、嬉しそうに裾をゆらゆら揺らすと、キラキラした宝石が、魔法みたいにドレスを輝かせている。
「待ってくださいまし!この銀色に輝くエンパイヤラインのドレス!シルエットはシンプルですが、美しい模様に軽やかなレース!レースに縫い留められた宝石の輝きが風が吹くだけでもゆれますわ!
布地は発光し輝く、エリーズスイートを使っていますわ!神々しい月の女神のように見えましてよ!」
鏡の中で、ご機嫌な私は小さく一回転をする。すると魔法の粉でもかけられたみたいにレースが輝きながら軽く舞い、発光する軽い布地にふんわりと舞い降りる。
…夢みたい。
それからも沢山のドレスを着て、そのどれもが本当に可愛く夢のようにきれいだった。
皆どんどんとテンションが上がり、白熱し、髪形や化粧の議論を交わし、にこにこと笑いながら、キラキラとドレスを選んでいるうち、楽しい空間は出来上がったのだけど、どれもこれも素敵で決まらない!!と言う、新たな悩みが生まれてしまった。
頃合いを見計らったように、偉い立場の鳥の獣人さんが、
「あ~私共では、素敵過ぎて決めきれない!
どれもこれも似合うのだから、どなたかが決めて頂けたらな~。」
私はもしや私が決めなければいけないのか?!と、緊張する。
ぐるぐる考えて焦っていると、
「わん!」
ワンちゃんがキラキラした瞳で、一つのドレスの横にお座りし、手を示している。
「ワンちゃん、それがいいの?」
「わん!」
どう見てもニコニコの可愛い顔で、自信満々にドレスをおすすめしている。
可愛い!大好き!
「あ!あの!私もこれがいいです!」
鳥の獣人さんは、満面のニコニコ顔で
「では、そちらに致しましょう!」
それを合図に、盛り上がって熱くなった部屋はワッとさらに熱を加えたように笑顔になり、当日のメイクにアクセサリ、髪形などが素早く提案され、決まっていった。
「それでは、私共はこれで。
こちらは、王城よりの招待状に御座います。
急になりましたが、明日着付けとお迎えに上がります。」
差し出された封筒は上等な紙に重みを感じるほどに分厚いカードが入っている。
王城と聞き一気に不安が押し寄せる。
その不安を察したのか、使者の方はすかさず
「安心してください。
決して悪い事では御座いません。」
と美しく優しく笑った。
「ごゆっくりお休みくださいませ。」
そうしてキラキラの魔法の時間が、明日を期待させて、静かに扉の向こうに消えていった。
10話たまったら投稿したいと思っています。
アルファポリスでは毎日投稿していますので、10日ごとの投稿になるかと思います。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/495086802/508693399
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