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天鎧さんは農民志望  作者: 水溶き片栗粉
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1話 天鎧さんは農民志望

    1話 天鎧さんは農民志望



オル・シュベリア王国。

魔法が一般に浸透しているこの世界で、大陸に存在する、3つの大国の1つ。豊かな土壌と、一部に面した海、そして巨大な鉱山を抱えるこの国は、農業、工業、商業、どれもが高い水準でまとめられており、そこに暮らす国民もまた、その多くが豊かな国の恩恵を受けくらしていた。


「おい!魔導兵団が帰ってきたんだってよ!!」


「おお!今回はいったい何と戦ってきたんだ!?」


「中央通りに行けばわかるだろ?見に行こうぜ!!」


「ナンバーズは誰がいるかな!」


王都に住まう国民が皆、仕事をやめ、国の英雄達の凱旋を見に行くようだ。

城下町の中心に奔る中央通りには、今まさに過酷な任務を終え、帰還した王国魔導兵団の魔導士100人がいた。


「見ろよ!あれ!あれが今回の討伐対象じゃねぇか!?」


「ありゃ、ドラゴンの頭か?それにしてもデカいなぁ。」


「鉱山に現れた邪竜を討伐しにいくって噂は本当だったんだなぁ!」


魔導士たちの隊列の半ばには10人がかりでやっと持てるほどの巨大なドラゴンの頭部が運ばれ、それを見た民衆は英雄達の業績に感嘆のため息をつく。

だがその後にやってきた人物を見て人々はさらなる歓喜をあげた。


「天鎧だ!天鎧様だ!!」


「天鎧、ヴァン=ホーエンハイム様だ!」


「邪竜を倒したのは天鎧様だったんだ!」


「鉱山都市を守ったんだ!」


「流石は天鎧様だ!!!」


皆が邪竜の首の後ろにいる、黒い鎧を身に纏う人物に手を振り声を掛ける。

鎧の人物もそれに応えるよう群衆に向けて手を振っていた。


「あのドラゴン、あんな首がデッケぇてこたぁ、身体の方も相当デカかったんだろうなぁ!」


「そんなやつを倒しちまうなんて、流石は天鎧様だな!」


「魔導兵団序列1位は伊達じゃねぇな!」


民衆が喜び騒ぐ中、魔導兵団の魔導士100人と、鎧の人物、天鎧ヴァン=ホーエンハイムと呼ばれた男は、目的地の王城へと立ち止まることなく進んでいった。


王国魔導兵団とは、オル・シュベリア王国が保持する軍隊の中でも、特に魔法に秀でた才能、実力を持った者が入隊を許されるエリート集団である。


彼らは、軍隊としては異例の約1000人という小さすぎる規模であるにもかかわらず王国軍最強の名を欲しいままにしていた。

更に、その魔導兵団の中でも最強の10人。実力により1位から10位まで序列をつけられた、ナンバーズと呼ばれる者たちがいる。最下位の序列10位でさえ、戦争時において、戦術級魔法を行使することのできる別格の存在である。

今回邪竜を討伐してきた鎧の人物。

彼はそのナンバーズの頂点、序列1位に君臨し、国王から『天鎧』の異名を与えられし者、ヴァン=ホーエンハイムである。


「天鎧ヴァン=ホーエンハイムよ、此度の邪竜討伐、大儀であった。」


天鎧と呼ばれた男は、遠征の成果について報告するため、王城に帰還後、先ず国王に謁見を申し入れた。


「おかげで鉱山を凍結せずに済んだ。リュドミラ鉱山を失っては国力を大きく低下させることになりかねんからな。」


オル・シュベリア王国、国王グスタフ=リマ=シュベリアは帰還したヴァンに労いの言葉をかけるが、一方のヴァンは一切返事をせず黙って跪いているだけ、王の言葉に反応を示さない。

本来、不敬と捉えられてもおかしくない態度だが、そこは魔導兵団序列1位、つまり、王国の最強戦力。誰も指摘することが出来ない。

この場にいる中で唯一諫めることが出来るはずの、宰相アーヴィン=ロッソ侯爵も、諫めるどころかソワソワとヴァンの様子を伺っているだけ。

国王も、かの天鎧のただならぬ様子に、次第に言葉が続かなくなっていく。


そして、国王が言葉を詰まらせてしまったタイミングで、遂に天鎧が口を開いた。


「国王陛下、大事なお話があります。」


その一言で謁見の間に緊張が走る。


「と、ところで天鎧よ。此度の褒賞についてだが!」


国王はあからさまに話をそらした。


「いえ、陛下!褒賞はいりません!ですから、私との、約束を!」


天鎧の圧力に国王は息を呑んでしまい、暫し沈黙が流れる。そして、国王は観念してため息をついた。


「うむ、分かった。後程執務室に来るがよい。アーヴィンも一緒で良いな。」


「は!では後程、お願い致します。それでは失礼いたします。」


そう言ってヴァン=ホーエンハイムは謁見の間を後にした。



謁見の間から去った後、帰還した部隊の後始末を終えた天鎧は、グスタフ国王の執務室に赴いた。ドアをノックし

名を名乗り、返事を確認すると中から扉が開かれる。

執務室の中には3人。1人は国王グスタフ。続いて宰相アーヴィン。最後の1人は齢80を超える老人だ。


「ジフ先生、いらしてたんですか。」


「ほっほっほ。陛下から話を聞いてな、儂も同席させてもらうぞい。」


ヴァンと親しげに話すこの老人はジフ=グレイプニス。王国魔導兵団序列8位、『天導』の二つ名を持ち、嘗て全盛期には序列1位にまで上り詰めた人物である。そして、ヴァンの師匠でもある。


師弟の挨拶が終わると、グスタフがおもむろにヴァンに声を掛ける。


「余としては、あまり聞きたくない話だが、まあ、ジフも呼ばないわけにはいかんだろう。そうであろう?ヴァン=ホーエンハイム卿、いや、ロア村のカイウス。」


国王の言葉にヴァンは最敬礼で答える。


「は!陛下、あの日から10年が経ちました。ヴァン=ホーエンハイムの名を棄て、カイウス=ロアに元の名前に戻ります。」


「ほっほっ!遂にこの時が来てしもうたか。10年、あっという間じゃったのう。」


ジフ老人の暢気な声に宰相アーヴィンが溜息を漏らす。


「笑い事ではないですぞジフ殿。ヴァン、いや、カイウス殿。ということはやはり。」


「はい、村に帰って農民に戻ります!!」




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