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18話 チェーンソー

 メカ・クラブと対峙するジェイコブ・ステイザム。その手には鋏を切り落とした武器が握られている。それは一見して剣のようだが、その刃にあたる部分には夥しい数の小さい刃が付いており、しかもそれが高速回転している。


 あれが、ジェイコブ・ステイザムが使っている伝説の武器チェーンソーか。


『ジェイコブ・ステイザムだとッ!?』


 メカ・クラブから忌々しそうな男の声が響く。

 カニの怪物は切断された腕を庇うようにしてもう一方の鋏をステイザムに向ける。


「フィン様!!」


 レミーが慌てて俺の側に駆け寄って来る。


「大丈夫ですか?」

「あぁ、大丈夫だ」


 彼女の手を借りて立ち上がる。


「お嬢ちゃん、ソイツの面倒を頼むぞ」


 ステイザムが振り返ることなく指示してくる。


「言われなくても……」


「おーい! レミー! フィン!!」


 俺たちの背後から聞き慣れた声、振り返るとルルカが駆けつけて来るところだった。


「ごめん、遅くなった! 何か変なドームみたいなのに阻まれてたんだよね」


 ウィルが創り出したダンジョン・フォールドのことだろう。


「どうしようかと思っていたらアイツが来たんだよ」


 ルルカはステイザムを指し示す。

 彼はチェーンソーをメカ・クラブに向けて対峙している。


「そのデカいオモチャから出てきたらどうだ、ゴーレム・マイスター?」


 メカ・クラブはギリギリと音を立てながら鋏を開き切る。


『ただのオモチャかどうか、試してみるか?』


 男の声と共にメカ・クラブの鋏から魔弾砲が発射される。

 ステイザムはチェーンソーをブーメランのように投げて魔弾にぶつける。

 その間にメカ・クラブは素早い動きで横歩きし、胴の部分が上下に開き、そこからいくつもの鎖付きの錨がステイザムに向けて放たれる。


 ステイザムは巧みに錨を避けて落ちてくるチェーンソーを掴み取ると、勢い良く振るって鎖の部分を全て切り裂いた。


「ごめん、クラゲ召喚士には逃げられちゃったーーって、わっ! こっちにも八爪!」


 別の通りからアリアが駆けてきた。

 その時、メカ・クラブの口の部分が開き、黒い玉のようなモノが吐き出された。


「わっ! あれ爆弾だぜ!」


 ルルカが叫ぶと、なんと俺とレミーを抱え上げて建物の陰に飛び込んだ。その後にアリアが続く。


 次の瞬間、爆炎と共に衝撃音が辺り一面に轟いた。


「みんな大丈夫か?」


 爆炎が収まったところでルルカが問いかけてくる。

 見たところ、誰も怪我はしていないようだ。


「そうだ、ポールたちは!?」


 俺は建物の陰から立ち上がり、彼の名を呼ぶ。


 すると不安気な様子で二人の子供たちは姿を現した。

 良かった。怪我もなさそうだ。


「フィンさん、一体何が起きたの?」

「新手の敵が現れたんだが、ステイザムさんが助けてくれたんだよ」


 煙が立ち込める中、俺たちに背を向ける格好でステイザムは立っていた。

 彼は俺たちを爆風から守ってくれていたのだ。


「あのデカブツゴーレムはどこ行ったんだ?」


 ルルカが海の方を眺めながら言う。

 確かにあのメカ・クラブの黒い巨体の姿がどこにも見えない。


「あの野郎なら、さっさと逃げちまったよ」


 ステイザムかコチラを振り返りながら言う。


「デカい図体の割に意外と素早いヤツだ」


 暗い海にはたださざ波だけが残っている。

 もしもステイザムが助けに来てくれなかったら、きっと俺はあのメカ・クラブに捕らえられていただろう。

 あれ程の怪物を創り出せるのだから、凄腕のゴーレム・マイスターに違いない。


 アリアは彼やウィルを殺害したジェリーフィッシュ・サモナーのことを八爪と呼んでいた。


 一体何者たち何だろう?


 ふと騒々しい音が耳に入った。何者かたちの集団がコチラに近づいてきているようだ。

 俺たちが通って来た海岸沿いの道を進んでいる。


「憲兵どもがやっと来たようだな」

「ヤツらが来るの!?」


 ステイザムの言葉にアリアが反応を示す。


「フィン、憲兵団とは会わない方がいいよ」

「どういうことだ?」

「たぶん、ダゴン深海教団の息がかかっていると思う」

「憲兵団が?」


 この国の治安を守る憲兵にダゴン深海教団の手先が入り込んでいるだなんて……

 しかし、考えてみればノーフェイスのような一見して人間とほとんど変わりない化け物たちがいる以上、ヤツらの脅威がどこに潜んでいたとしてもおかしくはないのだ。


「どうやら訳ありのようだな」


 ステイザムが俺たちの方に歩み寄ってくる。


「この状況を連中に見られたら面倒事になるだろう。特に素性の知れないお前らならな」


 辺りは見回すと、そこかしこにノーフェイスの顔の無い死体が転がっている。


「だから、ここは俺に任せてさっさとこの街から立ち去りな」


 ステイザムはその場に座り込みながら言った。


「ありがたい提案ですわフィン様。この人魚の言うことが本当だとしたら憲兵たちと出くわすのは避けたほうがよろしいでしょう」


 レミーも彼の提案に同意する。

 俺はポールの目線にしゃがみ込んだ。


「ポール、海岸沿いとは別の道はあるのか?」


 問いかけると、ポールはすぐに頷いた。


「う、うん! 丘沿いに、遠回りになるけど道があるよ!」

「わかった。みんなでそっちから北の港に戻ろう」


 俺はみんなにそう言うと、ステイザムの方に向き直った。


「すみません、後をお願いします」


 するとそれまで無表情に近かったステイザムの顔に初めて笑みが浮かんだ。


「随分とデカくなったな、アルバトロスのガキがよ」

「え?」


 ステイザムの言葉の意味が一瞬わからなくなった。


「もしかして、俺のこと覚えていたのか?」

「約束したからな」


 孤児院で交わした約束のことをこの伝説の海洋冒険者は覚えていたのだ。


「さぁ、もう行け」


 彼に促され、俺たちは丘沿いの道を進んだ。

 暗い道を駆けながらも、俺の気持ちは高揚していた。


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