16話 シャーク軍団
【サメを讃えよ!! サメを恐れよ!! 汝が罪を砕く顎ぞ!! サメを讃えよ!! サメを恐れよ!! 汝が罪を砕く顎ぞ!!】
俺の周りの黒い海水が光に包まれて行く。それはあたかも浄化しているような様相で光は周囲に広がって行く。
そして、大勢の声を合わせた鬨の声が港に轟く。
【サメを讃えよ!! サメを恐れよ!! 汝が罪を砕く顎ぞ!! サメを讃えよ!! サメを恐れよ!! 汝が罪を砕く顎ぞ!!】
光の中から無数の矢が放たれ、ポールを捕らえている触手に突き刺さる。
「うぐぁあ!!」
ウィルは悲鳴を上げ、ポールを放した。
落下する彼を大きな泡が抱え込む。アリアの海底魔法だろう。
彼女はコチラを振り返り頷く。これでポールはひとまず無事だ。
その間にも光の中から何百というサメの頭が姿を現していた。
そして彼らの上半身までがあらわになったところでそれがただのサメたちではないことがわかった。
彼らには手足がある。頭はサメだが、身体はほぼ人間のモノだった。
みな青い鎧を身に着け、武器をその手に持っている。
彼らが一体何者なのか、俺にはわかっていた。
サメズ・シャクリトに従い、邪神の勢力たちに立ち向かった勇敢な者たち。
鮫人族だ。
思わぬ敵の軍勢の出現に半魚人たちは敵意を剥き出しにしてあの邪神の呪言を叫び出した。
俺は建物から下の光に飛び降りた。
すると光の中からホホジロザメが飛び出し、俺をその背に乗せてくれる。
「シャーク元帥、お初お目にかかりまする」
1体の鮫人族が俺の側にやって来て、頭を下げる。そのサメの頭はジンベエザメのモノだった。平べったい頭に大きな口と体が特徴的だ。
彼は他の者よりも豪華な鎧に身を包んでいる。
「閣下、ワシはシャーク将軍と申します」
ジンベエザメのシャーク将軍か。
「シャーク将軍、俺はヤツらを全て倒したい」
「もちろんです閣下。その為に我らは呼び出しに応えました」
シャーク将軍が下に隊列を組んでいる兵士たちを指し示す。
よく見れば、彼らは何種類かの兵種に分かれているようだ。
シャーク将軍はその兵種を簡潔に説明してくれた。
最前列にいるのがシャーク戦士。
主にホホジロザメやイタチザメの鮫人族で構成されており、斧や槍を装備している。
その後ろにはシャーク剣士。
剣のスペシャリストのオナガザメたちで構成。
さらに後方にシャーク弓手。
特徴的な頭の構造により、広い視野と鋭い感覚を持つハンマーヘッドシャークで構成。彼らが使う矢はサメの歯で作られているらしい。
両脇を固めているのがシャーク騎手。
サメにサメが跨っているという奇妙な光景だ。あまり突っ込まないようにしよう。
そして最後尾にはシャーク魔術師。
オンデンザメという少し特殊な海底のサメで構成。青白い目が爛々と光を放っている。
「今はまだこの程度でございますが、閣下の力がより強くなるほど呼び出しに応えることができる兵力は増えていくでしょう」
なるほど、もっと俺が経験を積むことでシャーク軍団はより強力になっていくんだ。
だけど、今はこれで十分だ。
【サメを讃えよ!! サメを恐れよ!! 汝が罪を砕く顎ぞ!! サメを讃えよ!! サメを恐れよ!! 汝が罪を砕く顎ぞ!!】
【イア! イア! クトゥルフ フタグン! イア! イア! クトゥルフ フタグン!】
シャーク軍団の鬨の声と邪神の下僕たちの呪言がぶつかり合う。
【サメを讃えよ!! サメを恐れよ!! 汝が罪を砕く顎ぞ!! サメを讃えよ!! サメを恐れよ!! 汝が罪を砕く顎ぞ!!】
【イア! イア! クトゥルフ フタグン! イア! イア! クトゥルフ フタグン!】
【サメを讃えよ!! サメを恐れよ!! 汝が罪を砕く顎ぞ!! サメを讃えよ!! サメを恐れよ!! 汝が罪を砕く顎ぞ!!】
【イア! イア! クトゥルフ フタグン! イア! イア! クトゥルフ フタグン!】
【サメを讃えよ!! サメを恐れよ!! 汝が罪を砕く顎ぞ!! サメを讃えよ!! サメを恐れよ!! 汝が罪を砕く顎ぞ!!】
「閣下、ご命令を」
シャーク将軍が指示を仰ぐ。
「シャークウォーリアとブレイダーたちは半魚人とノーフェイスたちに突撃し、レミーたちを保護しろ。そしてシャークアーチャーとメイジたちはその援護を。シャークライダーたちは俺と共にウィルを討つ!!」
俺は真っ直ぐ怪物と化したウィルを睨み据える。
「サメズの意思を受け継ぎし者、我、フィン・アルバトロスが命じる。あの忌々しい邪神の下僕たちを一匹残らず喰い尽くせ!!」
俺の命令とともにシャーク軍団は邪神の下僕どもに向けて突撃して行く。
俺は自身が跨るサメに術式付与を行いエア・シャークにして浮かび上がる。
そして周りに集まっているシャークライダーたちにも同じく術式を付与する。
俺たちは編隊を組みながら空を突き進む。
下ではシャーク将軍を中心にウォーリアたちが半魚人たちに攻撃を仕掛けている。武器で斬りかかり、あるいはその強靭な顎で噛み付いたりしている。ジンベエザメの将軍はその巨体でもって半魚人たちを殴り飛ばしていた。
ブレイダーたちはレミーたちのところまで突き進み、彼女たちを守るように展開している。迫りくるノーフェイスたちを剣技でもって撃退していた。
そんな前衛たちを援護するようにアーチャーはサメの歯の矢を放ち、メイジたちは青い魔術の攻撃を放っている。
俺は前方に視線を戻す。
ウィルは迫りくる俺たちに向かって腕の4本の触手を伸ばしてきた。
「散開しろ!!」
それぞれが上下左右に別れて飛ぶ。
ウィルは下半身の2本も使って俺たちが近づけないように触手をがむしゃらに振り回している。2騎のライダーたちが触手に打たれ、吹き飛ばされていく。
俺はファイア・シャークアローで触手を攻撃する。
ウィルの触手は意外に素早い。ヤツの懐まで進むのは中々難しそうだ。
俺は海にいるシャーク将軍に合図を送る。すると彼は後方に命令を発し、アーチャーとメイジたちが一斉にウィルに攻撃する。彼の触手の何本かはその攻撃を防ぐ為に回されている。
これで懐に入りやすくなった。
残りの振り回されている触手には他のライダーたちが喰らいつく。
その間を俺が乗るサメは縫うように飛び進み、ウィルの懐へと入り込んだ。
「なぁ!?」
「終わりだウィル!」
俺はシャークソードを簡易召喚して、驚愕しているウィルの胸に突き刺した。




