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「あー、どうしたもんか」
青年は、困って呟いた。
心の声を、そのまま呟いた。
黒髪黒目、そして象牙色の肌をした、どこからどう見てもThe平民代表と言わんばかりの容姿をしている青年である。
18歳の青年――ヒロは、ある意味で死屍累々の路地裏の光景を見て息を吐いた。
王都、城下町の路地裏。
お世辞にも衛生的とは言えないその場所に、人が転がっている。
人数は全部で四人。
人間種族の女の子一人、同じく人間種族の男性が一人。
そして、魔族の男性が二人。
前者二人は、身なりからしておそらく良いところのお嬢様とその護衛と思われる。
後者二人は、護衛がいるにも関わらずお嬢様に唾をつけようと声をかけた、勇気あるチンピラである。
ちなみに、この四人が転がっている理由だが。
護衛の男性→チンピラ達に倒された。
チンピラ二人→一部始終を偶然目撃していたヒロによって倒された。
お嬢様→悪漢から助かったことに安心して気絶。
こんな内訳だったりする。
ポリポリとヒロは頭をかいて、路地の入口に停めてある軽トラを振り返った。
「このままにしておくのもなぁ、ダメだよなぁ」
もう一度、盛大にため息をついて、ヒロは四人を軽トラへ運んだ。
チンピラ二人と護衛は荷台に。
お嬢様は土臭くはあるが、まだマシな助手席へと乗せる。
チンピラは念の為に、害獣用の縄で縛っておく。
それから自分も運転席へ乗り込み、シートベルトをする。
それから軽トラのエンジンをかけて、片手はハンドルに、もう片方の手はセレクトバーにやる。
そうして、ヒロは慣れた手つきで車を動かして反転させると、来た道を戻ったのだった。
とはいえ、目的地は文字通り目と鼻の先にある農業ギルドの建物だ。
一分もしないうちに、農業ギルドの敷地内に入る。
敷地内の隅には、先程ヒロが野菜を置いてきた無人の直売所がある。
他には、農業ギルドが所有する倉庫や車庫があった。
しかし、その大部分を占めるのは駐車場である。
幸いにも、農業ギルドの建物、その出入り口近くに停めることが出来た。
お嬢様とその護衛の様子を確認するが、起きる気配が無かった。
ヒロは軽トラから降りると、ちょうど知り合いの受付嬢が、早番のために玄関の掃除に出てきた所だった。
「あ、ヒロさん!! おはようございます!!
珍しいですね、朝にこっちの方に来るなんて」
先月配属されたばかりの新人の少女である。
まだ、この国では成人したばかりの15歳だが、よく働くのでほかのギルド職員からも高評価を得ている。
「おはよう、サチさん。
うーん、なんて言うか、人が落ちてたから拾ったんだ。
ギルドマスター、出勤してる??」
言いつつ、ヒロは軽トラの荷台を指さした。
すると、新人受付嬢のサチが目を丸くした。
「すぐ呼んで来ます!!」
パタパタと建物に入り、すぐにギルドマスターを連れて戻ってきた。
この農業ギルドのギルドマスターは、厳ついオッサンである。
昔は、ホントか嘘かは分からないがそれこそ軍に在籍していたことがあるらしい。
「お前な、人は落ちてるもんじゃないぞ。
倒れてるって言うんだ」
ギルドマスターが、そう言って軽トラの荷台と助手席を確認した。
サチも一緒に確認する。
すると、サチが何やら首を傾げてチンピラ二人を見ていた。
しかし、すぐにヒロへ疑問をぶつけてきた。
「なんで、この2人は縄で縛られてるんです?」
「あー、うん、なんでだろーねー(棒)
そういえば、俺がこの四人見つける直前に路地裏から出てきた人いたから、その人がやったのかもねー(棒)」
ヒロは適当に誤魔化した。
ただ、棒読みだったからか、ギルドマスターにはジト目を向けられた。
しかし、なにか言われる前にヒロはとにかく、保護した、の一点張りでとおした。
助けただの何だのと口にしたら、やれ調書だなんだとめんどくさい事になるのが目に見えていたからである。
あとは、家族から、特に母と、母の再婚相手であり現父親である叔父から、害獣相手ならともかく、他種族相手に、
『目立つことはするな』
『荒事には関わるな』
と、それはもうキツく言いつけられているからだ。
それに、この後、ヒロには用事があった。
お昼までに、知り合いの家へ堆肥を運ぶという用事、仕事があったのだ。
その意図やらを組んでくれたのか、ギルドマスターが大きく息を吐き出したかと思うと、
「わかった、こっちからこのお嬢さんの家を調べて連絡入れる。
こっちの魔族の方も、領事館に問い合わせておく」
そう了承してくれた。
ヒロは、軽トラに乗せた四人を降ろす。
すると、他の職員がやってきてお嬢様と護衛、そしてチンピラ二人は担架で中に運ばれていった。
「ありがとうございますー。それじゃ」
挨拶もそこそこに、ヒロは軽トラに乗り込んだ。
その時だった、ギルド内がなにやらザワザワしだした。
視線をやれば、サチが走って戻ってくるところだった。
しかし、気にせずエンジンをかけてヒロはその場を後にした。