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落し物  作者: 雨世界
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1 はい。これ、落としたよ。(拾ったものは、……?)

 落し物


 プロローグ


 君が、ずっと昔に捨ててしまったもの。


 君が落とした(なくした)とても大切なもの。


 本編


 ある日、私は誰かの大切な落し物を拾った。


 はい。これ、落としたよ。(拾ったものは、……?)


 私があなたと初めて出会ったのは、大学生になったばかりの、桜の咲き乱れる美しい春の季節のことだった。

 私はその年に、地方から初めて東京に引越しをしてきたばかりで、新しい生活のすべてに不慣れだった。(田舎者と言うよりは、都会に紛れ込んでしまった小さな森の動物のようだった)

 それでも、私は東京での一人暮らしに憧れていたし、頑張って勉強して合格した大学の生活にも、希望に満ちた思いを思っていたし、未来に対して絶望したり、暗い気持ちを持ったりすることは一秒もなかった。(今とは大違いだ)


 大学で新しい友達もできたし、その一人の女の子とは親友と呼べるような関係の間柄にもなった。

 ……恋人はいなかったけど、別に良かった。

 私はそのとき、自分自身のことでいっぱいいっぱいだったから、誰かのことを本当に好きになったり、愛したりすることは、できなかったし、それほど興味もなかった。(自分の夢を叶えることで、頭の中がいっぱいになっていたのだ)


 ちょうどそんなとき、私はあなたと出会った。

 あなたは私の通っている大学に私と同じように通っている、私と同じ年齢の(私のほうが三ヶ月だけお姉さんだったけど)新入生で、私とは違って東京で生まれて、それから今までずっと東京にいて、東京の場所っから一歩も外に出たことがない、という都会の暮らしに慣れた男の子だった。その代わり、地方のことはなにも知らなかった。電車にはとても上手く乗れるけど、土や風や山や本当の海といった自然のことは、本当になにも知らないようだった。(私が東京に憧れたように、怖くて厳しい自然のことは知らないままで、ただ綺麗な風景としての自然に憧れているだけのようだった)


 あなたは子供のような顔をしていて、本当の子供のようなきらきらとしたとても綺麗な目をしていた。(あるいは、あなたは本当に青年の皮をかぶった、成熟した体の中に隠れている小さな未成熟の子供だったのかもしれない。当時はそれほど気にはしなかったけど、今はそう強く思う。あなたはきっといつまでたっても大人になれない人だったんだって、……本当に強く、そう思うんだ)


「どうもありがとう」

 それが私が初めて聞いたあなたの可愛らしい声だった。


 私たちの出会いは、私があなたの落とした大切な『落し物』を拾ったことがきっかけだった。

 それを私があなたに手渡したとき、あなたはなぜかちょっと困ったような、あるいは少しだけ恥ずかしそうな顔をして私を見てそういった。(そんなあなたを見て、私は一目であなたに恋をした。どうしてなのかは今もわからないままだけど、私は本当に落とし穴に落ちるみたいに、すとん、とあなたとの恋に落ちたのだった)

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