夢見る子豚
開いていただきありがとうございます。コメディになっているとよいのですが。少しでも読んだ人がにこりとできますように。
「ねえ、そこの子豚ちゃん」
夜会で出会ったその人は、とても美しい方だった。サラサラの金の髪、柔らかな目、服の上からでもわかる、美しい筋肉。なんて美しい方なんだろうと私は息をつきますの。
「あら、こんばんは。素敵なお方。」
私はできるだけ優雅にお辞儀をします。ええ、私は淑女な子豚ですので。
「君は食べてばかりじゃないか。踊らないのかい。」
素敵なお方は私の積み上げたからのお皿をやや呆れたように眺める。
「お母様に教えてもらいましたの。」
私はできるだけ優雅に見えるようにそのお方を見上げる。あら、いけないわ。口元にソースがついたままですの。扇に隠してこっそりとぬぐう。
「女の子はぽっちゃりしたほうがかわいいのです。」
「ん、うん?」
ぱちぱちと長いまつげをまたたかせて、素敵な方はきょとんとした顔をする。きっと素直な方ですのね。かわいらしくてついにこにこしてしまいます。
「あなた様はどのような女性が好きですの。」
あら、いけない、いきなり好きな女性のタイプを尋ねるなんてはしたなかったかしら。
「ぼ、僕かい?うーん、かわいらしい女性かな。守ってあげたくなるような、そんな人がいいかなあ。」
素敵な方はややはにかみながら答えてくれました。
「なれば私はぴったりですね。」
「あ、はい。」
さて、この素敵な方にぽっちゃりさんの魅力を存分に教えて差し上げましょう。
「この丸みを帯びたお顔。」
「う、うん。」
やや、引いた顔で素敵な方は相槌をうつ。
「丸い顔は愛嬌を感じさせます。赤ちゃんのようなすべすべ感、丸み、それすなわちベビーフェイス。」
「ベビーフェイス。」
「このぷにぷにのつつきたくなるほっぺ。」
「うん、まあ、それは否定しないけど。」
「魔性ほっぺです。」
「魔性ほっぺ。」
素敵な方が驚いたように繰り返す。
「ぽてぽての短い脚。」
「はしれなさそうだね。」
「あなたの後ろを短い脚で追いかけましょう。ぽてぽて追いかけるその姿に誘われるのは。」
「庇護欲。」
「その通りです。」
「動くたびに揺れる二の腕。」
「贅肉。」
「二の腕の柔らかさは胸の柔らかさなのです。つまり揺れる二の腕はおっぱい。」
「二の腕はおっぱい。」
「つまり私はおっぱいが4つ。」
「おっぱいが4つ。」
素敵な方の目が私の二の腕に向く。少し恥ずかしいですの。少し私が身をよじらせれば、素敵な方は顔を真っ赤にして咳ばらいをする。
「ぽってりしたお腹。」
「贅肉の塊。」
「いいえ、ぷにぷにの感触。これは触らずにはいられません。これはもはや。」
「スクイーズ。」
「ええ、しかし、ぷにぷになのはおなかだけではありません。どこを触っても。」
「ぷにぷに、ふかふか。」
「もう私の体は」
「全身スクイーズ。」
「そう、その通りですの。」
「なんてことだ。」
「このわがままぼでぃを保つためには栄養がいります。つまり、こうやって食べることは。」
「必要経費。」
「そう、その通りなのです。わかってくださいましたか。」
素敵な方は目からうろこが落ちたかのように呆然として私を見つめる。
「なんてことだ。子豚ちゃんって魅力的だ。」
あんぐりと私を見つめる素敵な方に私は淑女の微笑みを返しますの。素敵な方は照れたように目を泳がせる。
「その、もし、君が嫌でなければ、今度一緒に食事でもしに行かないかい。僕に子豚ちゃんの魅力を教えてほしいんだ。」
そういって差し出された美しい手に、ふくふくの手をかさねる。
「ええ、よろこんで。」
二人の娘がぽっちゃりの魅力で新たな男性を射止めてしまうのはまた別のお話。
読んでいただきありがとうございました。少しでもにこりとしていただけたなら、幸せです。