ゼナーカード
「ねぇ知ってる。三組の山平芽女。ちょー暗いよねー」
「分かるー。陰気だよねぇ」
「せっかく可愛いのに勿体ない」
「止めよこんな話。呪われちゃうよ」
「あんなの嘘でしょどうせ」
私は自分が嫌いだ。初めは周りが嫌いだった。でももう諦めている。そして今は、自分が嫌いだ。こそこそ話は私には何の意味も無い。全て分かるんだからさ。
私には気になっている人がいる。その人は真っ直ぐで裏表の無い人。
登校中、私は同学年の女子達を無視して歩く。目の前には小さな子供を連れて歩く母親がいた。子供は交差点のガードレールに登って遊んでいる。
「こら健太。危ないから駄目って何回言ったら分かるの!鬼呼ぶよ鬼!」
『周りの人が見てるんだから恥ずかしいじゃない。私を辱めないでよ』
信号を待っていると、同じ学校の男子が二人、隣に立った。
『うわー、同じ高校の女子だ。可愛いなぁ。パンツ何色何だろう』
『胸大きいなぁ、触りたいなぁ』
横断歩道を渡ると、向こうから歩いてくるおじさんがこちらに少し視線を移すが、すぐに逸らした。
『うわ、女子高生だよ。スカートに生足ご馳走様です』
歩く度にたくさんの人とすれ違う。それは私にとってただの日常だ。
『今日の会議面倒だな』
『歯磨くの忘れちゃったわ。まぁ誰も気付かないし良いかしら』
『良い天気だなぁ。早く帰りてぇ』
みんな心の中は自由だ。いや、むしろ自由とは言えないのかも知れない。誰もが心清々しく生きている訳じゃない。人に知られたく無い事や、思った事と言動は変えなくちゃいけない。だとしたら不自由極まりない。
私は人の心が読める。正確には見えるのだ。
透視能力と言えば分かりやすいのかな。子供の頃テレビでたまたまやっていた超能力番組。五枚の図形が描かれたカードを裏向きにする。そしてそれを当てる超能力者。ゼナーカードって言うの。私は何の図形か全て分かった。小さい頃はその程度だったけど、今は人の心が読める。当初は頭が痛くなって学校を休む程だった。
今は普通に気にしないでいられる。鳥の鳴く声、車の走る音、誰かの会話。それらと変わりは無い。
校門近くまで来ると、私は肩を叩かれた。
「おはよう。山平」
『おはよう。山平』
「おはよう。佐藤君」
「今日は良い天気だな」
『今日は良い天気だな』
「そうね」
「どうした、何か悩み事か?」
『大丈夫かな、辛そうだ』
「ううん。佐藤君はさ、好きな人とかいるの?」
「な、何だよ急に!」
『急にビックリした』
「ごめんね、変な質問して」
「まぁ、特にいないかなぁ」
『まぁ、特にいないかなぁ』
「そうなんだ」
その時、予鈴が鳴った。
「おっ、急がなきゃ!先行ってるぞ。何か悩んでるならいつでも言って来いな?」
『何か悩んでるならいつでも相談しろよ』
「ありがとう」
ゆっくり歩く私は、のんびりしている事を理由に先生に止められる。
「おい、そんなにのんびりしてるの間に合わないぞ。でも転ばないようにな」
『最近の子は発育が良いな。何カップあるんだこいつ』
私には気になっている人がいる。とっても珍しい、真っ直ぐで裏表の無い人。その人に好きと言えたなら、少しは自分を好きになれるかも知れない。
世の中の人は誰もが心の中では何でも言える。でも私には聞こえてしまう。
「あなたの心の中、誰かが見てるかもよ?」