第七話 苦手なこと
今日のHRは自己紹介から始まった。
それが終わると、委員会と係を決める。俺は学級委員になった。もう一人の学級委員は拝島好乃だ。
あっさり決まった俺たちを中心にして、他のものについても順次決めていった。ちなみに寝ている女子、割木夕子は依然として寝ていて参加していなったので、最後まで残った図書委員にした。
それらが終わると明日の教科書販売や身体測定についての説明があり、放課後となった。
そういえば、割木はずっと寝ている気がする。というか起きている姿を見たことがなかった。俺が朝早く来た時も既に自分の席で寝ていたし、今も寝ている。確か人間には寝ることのできる限界の時間があるそうだが、そうなると彼女は夜に活動しているのだろうか。
一瞬、ドラキュラが思い浮かんだが、すぐにその考えを振り払った。いくらなんでもそれは無いだろう。
朝作ったおにぎりを食べながら教室を眺める。そこには大体五つ程の中規模グループができていた。一番目立つのは城ヶ崎浜のグループ。お嬢様とその侍女といった感じだ。一番無視できるグループだろう。次が妹子ちゃんのグループ。明るく遊び好きの男女の集まりか。杉目天はここだ。ここも然程問題にはならないだろう。三つ目は昨日話しそびれた活発そうな短髪男子の西翔を中心としたグループ。妹子ちゃんのグループと仲が良さそうだが、こちらは運動好きに見える。四つ目が、話の内容から推測するにオタクのグループだろう。最後のグループは拝島を中心とする女子の集まりか。この二つのグループが厄介かもしれない。それにグループに参加していない人も何人かいるようだった。
とまあ今の状況を考えたが、一概にこの五つのグループに分けられることは無いだろう。
最後のおにぎりを食べ終わると、それを待っていたかのように声をかけられた。
「都靄、来い」
気を抜いていた俺はあっという間に天に持っていた包み紙ごと手を掴まれ、無理矢理席を立たされて引きずられた。
足に机や椅子が当たり痛かったが5メートル程で止まった。
掴まれている手を振りほどき、スラックスに付いた汚れを払いながら立ち上がる。そこに。
「え〜〜!!!」
悲鳴、あるいは黄色い歓声、あるいは金切り声が聞こえてきた。そして反射的にしゃがみこんでしまった。
また失態をしてしまい、心臓が高鳴り、冷や汗が出てきた。しかも今度は目の前でだ。印象の悪化は免れないだろう。こういう時は気持ちを切り替えて、明るい笑顔で立ち上がるのだ。そうすれば何とか誤魔化せる。
そう思って立ち上が――
@*☆$*#%♂£◆¢∞+〆!♯※〒>◎
――言葉では言い表したくない音が聞こえてきた。音のした方を見ると、天が黒板に爪を立てて微笑んでいる。その姿を見ただけで音は聞こえないにも拘らず嫌な気分になる。
他にも半分ほどの生徒が耳を塞いでいるのを見て、俺は立ち上がった。学級委員として。
「おい天、な――」
「杉目天さん、何ていう音を出しているのですか。皆さんが迷惑しているのですよ」
目の端に拝島も立ち上がったのが見えたが、城ヶ崎浜が盛大に声を発したことで俺と拝島は動きが止まる。
それに対する天は首を一つ傾げると、両耳から何かを取り出した。そして言う。
「何だ」
城ヶ崎浜は僅かに苦い顔をしたようだが、すぐにいつもの挑戦的な顔に戻る。
「もう一度言いますわ。杉目天さん、皆さんに迷惑になる音を故意に出さないで頂けますこと」
「ああ、そのことなら大丈夫だ。だがあんたも見たろ、都靄のあの反応」
天に問い掛けられ首を傾げた城ヶ崎浜だったが、しばらくすると納得したのか頷いて言う。
「あんた、と呼ばれる筋合いは杉目天さんには一切ありませんが。ですがまあ、そのことには感謝致しますわ」
あれ、何で和解するんだ? しかも何で俺が関係する?
「都靄は知らなくていいぞ」
「そうですわ。都靄様は普段通りになさって下さい」
いつの間にか自分の考えていることを口に出してしまったようだ。
だが……何でだ?




