第四話 ファンクラブ
晴は昔から体が弱かったらしい。一度体調を崩すと中々元気にはならないで、徐々に悪化することもしばしばだそうだ。
その原因は頑張りすぎにあった。家に誰もいないからと病弱にもかかわらず家事をして、更に悪化する。そんな悪循環が続いてしまうそうだ。今はそんな悪循環の真っ只中で、学校に登校できるようになるまでしばらくかかるようだ。
「所で明、ファンクラブって何だ?」
実は今までの会話で一番聞きたかったことだ。
空になったはずのカップを口に付けた明は、一口飲んでから答えた。
「城ヶ崎浜三日月子の会長を中心とする東条都靄。向ヶ丘雉唯の会長を中心とする桜岡桜。麻木椎奈の会長を中心とする斉藤尊。円谷瞳の会長を中心とする峰岸聲馨。伊藤静の会長を中心とする杉目兄弟。以上五人それぞれのファンクラブがある。という噂」
その答えに対して、なぜか昭は反論した。
「明、そうじゃないよ。都靄君はファンクラブって何だって聞いたんだから、ファンクラブはその人のファンが集まった学校非公認の集団です、って言えばいいんだよ。そうですよね、都靄君」
昭は見当違いがお得意のようだ。
「あのな昭、誰だってファンクラブがどんなのかなんて知ってるぞ。問題にしてるのは、あれだ。あの五つで四文字の」
「5W1H」
「そう、5W1Hだ。って晴、いつの間に起きたんだ」
リビングの入り口にパジャマ姿の晴がいた。天と昭は立ち上がって晴の所に向かい、またもや明と二人きりになった。
「今日は明と二人きりになることが多いな」
「する?」
……なにをですか、明。なにをするのですか。
「せっ――」
「ストップーーー! それ以上言うと色々と上の方で問題があるんだ!」
なんとか止められてよかった。っていうか、上って何だ?
「せっくす」
…………
今、何と。セック――
「都靄、明の言うせっくすっていうもんは、正確な付け足しをする、っていうことだかんな。もしかして、違うこと考えてたか?」
助かった。危うく言って、否、思ってしまう所だった。
「図星か。そうなんだろ、さっさと言っちまえよ」
慌てていると昭が助け舟を出してくれた。
「天、都靄君が困ってるでしょ。一旦喋るのを止めないと都靄君の意見が聞けないよ」
「ああそうか、ごめんな。それじゃ、聞くとするか」
「はい」
舟はどこか遠くへ行ってしまったようだ。
天と昭がじっと見つめてくる。同じ美顔に見詰められて緊張したが、明がポカ〜ンとか言っているのを見て大分落ち着いた。
「あのさ、何か誤解しそうになっているようだけど」
「話を終わらせた方がいいと思う」
俺の言葉に続けたのは晴だった。
「もう夕方だよ。お兄ちゃんもお姉ちゃん達も昼食も食べないで東条さんを止めおいて」
まるでその姿から、ぷんぷんという効果音が聞こえてきそうだ。
そう言えば昼食がまだだったんだな。いくつか気になることはあるが今日はこれで失礼しよう。
「俺、もう帰るぞ」
「おう、また明日な」
「どうも失礼しました」
「さようなら」
「玄関まで送ります」
上から、俺、天、昭、明、晴だ。
俺は晴と一緒に玄関に向かい、靴を履いた。
「今日は来ていただき、ありがとうございました」
「いや、こっちも興味はあったので」
「そうですか。では、まだ興味がありましたら、どうぞいつでもお越しください」
「そうさせてもらうよ。所で、晴の誕生日は4月1日であってるかな?」
「えっ、どうして私の誕生日を?」
「いや、ちょっと昭に聞いてね。まあ、合っていればそれでいいんだけど。体を大切にね」
「あ、ありがとうございます」
「それじゃ」
「はい、また」
晴に手を振りながら俺は杉目家を後にした。最後にチラリと見えた晴の紅潮した顔を疑問に思いながら。




