第二話 三つ子
高校初のHRが始まった。
弱気先生の名前は福勢翡翠、男性である。
この日のHRは配布物だけのようで、何種類かの書類を渡され記入すべき所を聞いて、学生手帳とそのカバーをもらい、最後にこれからの予定の書かれたプリントが配られてその説明を受けた。
その間、ずっと先生は抑揚の全く感じられない声で喋り続けていた。
三十分程でHRは終わり、放課後となった。明後日まで似たような日程だ。そこで週末になってしまい、授業は来週からのようだった。俺としては授業前までが勝負なので、今日も含めて5日間も授業が無いのはありがたかった。
俺は誰かと帰ろうと、目についたいかにも活発そうな短髪男子に声をかけた。
「一緒に帰らないかい?」
こう問いかけると、その周りにいた彼の友達と思われる一人が言った。
「あ、入学式の東条都靄君、だったよね」
「ああ。よろしく」
出来る限りフランクにそう言うと、最初に声をかけた短髪男子が手を差し出してきた。
「俺は、に――」
「あんた、ちょっと付き合え」
俺が握手をしようとするとなぜかその腕は誰かによって横に反らされ、短髪男子の言葉を最後まで聞くことができずに引きずられていった。
俺の目に入ったのは、唖然とする短髪男子とその友達、そしてきつい目をした城ヶ崎浜三日月子さんだった。
「姉が失礼しました」
どこかで聞いたような台詞を言うのは、今朝ぶつかった男子生徒の妹だ。
「あたしは別に何もしてねーよ。悪いのは妹子なんだが」
そうぶっきらぼうに言うのは、さっきまで俺の後ろの席に座っていた女子だ。
「ぽわ〜ん」
空を見上げて自らその効果音を発するのは、今朝ぶつかった男子生徒だ。
今俺は下校している。だがなぜこんな声が聞こえるかといえば、それは数分前に遡って説明しなければならない――
――
――こともないだろう。俺はだた単に後ろの席に座っていた女子に腕を掴まれたまま下駄箱まで連れてこられ、そこで待っていた今朝の二人も一緒に四人で下校することとなった。
それにしても、三人の容姿はよく似ていた。一人男子がいるが、その彼も似ている。
身長低め、スラッとした体に腰まで伸びる黒い髪。林檎のような丸い顔と白い肌。ただ違う所は胸の大きさだろうか。誰がどうとは言わない。
「自己紹介がまだでしたね。私は杉目昭。そして姉の杉目天と兄の杉目明です。よろしくお願いします」
「よろしくな」
「よろしくね」
三人兄弟らしいが性格がまるでばらばらだった。だがそんなことよりも一つ聞いておきたいことがあった。
「それで、三人はもしかして三つ子なのか?」
「当たり前だろ。こんだけ顔が似てりゃあ、ドッペルゲンガーでもない限りそうだろ。まあ二卵性だから明はたまたまだろうな」
男気たっぷりの天がそう答えた。大人っぽい昭は頷いている。よく分からない明はさっきからずっと空を見ていた。
本当に性格の全く異なる三つ子だ。よくこうも育ったものだ。親の顔が見てみたい。
「四つ子、かも」
明がぽつりと呟いた。
「なあ、家に来るか?」
天がそっぽを向きながら聞く。
「それがいいかもしれません」
昭が同意した。
このまま帰るよりも有益に思えたその提案に、俺は多少の好奇心を添えて答えた。
「行くよ」
なぜか陰でガッツポーズをする天に言ってあげたかった。見えてる、と。だが言わなかった。というか言えなかった。彼女の横顔があまりにも嬉しそうだったからだ。




