第一章 クラス征服 プロローグ
そもそも今朝は、一人で登校中の女子高生とぶつかる予定だったのだ。
よくあるだろ。登校中にぶつかる男子高生と女子高生の恋物語。
別に、俺は恋をするつもりは毛頭ない。もう一度言うが、毛頭、無い。ただ、知り合いの多さは目標達成の為に必要である。
それなのに、今朝は男子高生とぶつかったばかりでなく、友達になることすらままならなかった。
これは失敗だ。
まあだが、そんな事で気落ちをする必要もないだろう。これから失敗しなければいいのだから。
まずは第一の計画『クラス征服』から始めようではないか。
ということで入学式。
体育館で行われるそれは色々と重要だ。
俺の第一印象を全校生徒と職員に正しく植え付けるだけでなく、その人々一人一人の容姿を覚えるのだ。
支配者たるもの被支配者全員を知っていなければならないだろう。
「新入生代表、東条都靄」
「はい」
司会進行役の教諭が俺の名前を呼んだ。元気良く返事をして立ち上がる。
俺はこの新一年生代表という立場を確保することに成功していた。無論、これは下準備に過ぎない。これから話す、そう、俺が全校生徒の前で話すというその事実、そして、この場でどれだけ人脈を作る基礎を築く事ができるかが重要だ。
俺は沢山の視線を感じながら、ステージ上にゆっくりと上がる。
演説台のような幅広低めのテーブルを半周して、テーブルに乗ったマイクを挟んで全校生徒と向かい合う。
生徒が、教師が、俺を見ていた。
それを心地よく感じながら一度礼をし、何回も練習した文を話しだした。
「さく――」
「Zzz...Zzz...」
一瞬にして、体育館全体が静まりかえった。突然の事態に、俺はつい、本当につい、声を荒げてしまった。今朝の計画倒れも効いていたのかもしれない。
「そこーーー!」
俺の言葉に被るように、キーンという嫌な音が鳴り響いた。
その鼾をかいていた生徒は無言になり、他にも寝ていたと思われる十数人が顔を上げた。だが俺はキーンという嫌な音を聞いてうずくまり、そして二つも失敗してしまった事を短時間の間だけ後悔していた。
一々説明するが、一つは怒鳴り声を出してしまった事。これでは好印象は抱かないだろう。そしてもう一つはこうしてうずくまってしまった事だ。俺は黒板を爪でギーしたような音は苦手なのだ。これで弱点を知られてしまったかもしれない。
ステージ袖を見ると生徒会役員の人だろうか、小柄な女子生徒が俺を促していた。早く喋れ、という事だろう。
人に従うのは癪だが、こうなっては仕方がない。自業自得だ。
シャキッと立ち上がり、一度咳払いをする。そして体育館を見回してから再び話しだした。
「では、改めて。桜も緑の息吹が映える今日この日、僕たち312名はここ☆☆高校に入学しました。この良き日に僕たちは悦びを持ってこの学校に登校し、そして無事入学式を迎えることが出来たことを嬉しく、そして誇りに思います。中学校よりも更に高度な授業、待ち受ける数々の行事、そして何よりも、これから三年間を一緒に過ごす多くの友との出逢い。僕たちはこれらを楽しみにし、これからの学校生活に希望を持っているはずです。僕の希望は学校に在籍する全ての生徒と仲良くすることですが、皆さんは一人一人また違った希望を持っていることでしょう。その希望を忘れずにこれから三年間を充実の中で過ごし、より活気溢れるものにしていきましょう。以上で、挨拶を終わりにしたいと思います。新入生代表、東条都靄」
一歩下がり、軽い会釈程度の礼をする。
いつの間にか鳴りだした拍手を全身で感じながら、俺はもといた席に戻っていった。




