第十四話 生徒プロフィール3
階段をドテドテと駆け下りてくる音がした。
「都靄君、ごめーんっ」
言い終わると同時に床に着地したようだ。それからすぐにリビングの扉が開き、妹子ちゃんが姿を現した。
ごめん、と言っているわりにかなりおめかしをしている。そう言うくらいならおめかしは程々にして早く来てほしかった。別に制服でも構わないと思うのだが。
「私ってさ、よく忘れちゃうのよね。だから都靄君のこともなんだよ。うん」
妹子ちゃんは一人で納得すると、俺の隣に腰掛けた。
「まあ、俺は平気だ」
「そう。あ、宇宙儀できたんだ」
宇宙儀を親と同じように羨ましそうに眺めている妹子ちゃんを見て、自然と俺の顔も綻んだ。
「ねえ都も……」
顔をこっちに向けて話しかけようとした妹子ちゃんの動きが止まった。
今日二度目の出来事に、俺はどうしたものかと色々と考えを巡らした。
結局。
俺は何をしにここにやってきたのか分からないまま帰宅した。唯一やった有益なことはお茶を一杯だけ飲んだことだろう。後は宇宙儀を見たことぐらいか。
途中電車に乗って一時間かかってやっと家に辿り着いた。
だが家の前に誰かがいた。俺の落ち着けない一日はまだ続くらしい。
「君は」
近付いて話しかけると、やっと俺がいることに気付いたのか驚いた顔をした。
「あ、お、おっはようござ、ざいまっす」
相当慌てているのか声が裏返っている。しかも今は夕方だ。挨拶が違う。
だがそこは流すことにして、その女子、岩井琴子に用件を聞く。
「岩井さんが俺に何の用かな」
岩井さんはしばらく口を金魚の様にパクパクさせていた。俺は辛抱強くそこから出てくる言葉を待つ。
どれくらい待っただろうか。日がもう沈んでしまったのだろうか、空が白い青から群青に変化していく。もう6時を過ぎたのだろう。
そんな時、やっと決心がついたのか岩井さんが口を開いた。
「お、お弁当……」
俺の手に持っている鞄を見つめながらそう言った。
そうだ、結局あの時、妹子ちゃんと教室に戻らずに帰ったから、岩井さんと城ヶ崎浜の弁当箱が入ったままだった。それを返してほしいのだろう。
「あ、大丈夫。明日洗って返すから。って明日は休みか」
「い、いえ、もともと、私が勝手に」
「いいっていいって。食器洗い機に入れるだけだからさ」
「あ、あの、でしたら、私、東条さんの、家、に、おじゃ、ま――」
後半の方はほとんど聞こえなかったが、明日お弁当を取りに来てくれるのだろう。それならありがたい。
「それじゃあ明日来てくれるかな。いつでも家にいるからさ」
「は、はい! きっと、いえ絶対来ます。待っていて下さい。それじゃあ、また明日」
急に明るくなった岩井さんはそう言うと、駆け足で去っていった。そこまで意気込まなくてもいいのだが。
家に入り、鞄の中から弁当箱を三つ取り出して食器洗い機に入れた。電源をONにして作動したことを確認して、自室に行った。
いつものようにコンピュータの電源を立ち上げ、『生徒プロフィール』を開いた。
岩井琴子、拝島好乃の友達。料理は城ヶ崎浜よりもかなり上手。恥ずかしがり屋だが積極的で純粋な女の子だろう。世話を焼くのも好きなのか。
夢星宇宙、保健委員。いつも落ち着いていて、表情の変化も言葉数も少ない。いつも本を読んでいた気がする。印象が薄い。
貝川正、保健委員。野球部に入るのか、坊主頭をしている。西翔の仲間。
西星杪、二年生。関西弁で喋る。俺たち1年7組を学校案内で引率した。
さて、明日は誰が来る事やら。
俺は拝島好乃と色々話してみたい気がしていた。




