第十二話 お弁当
三日目。
朝教室に着くと、昨日と同じように割木が眠っていた。
HR前は比較的穏やかに過ぎていく。
今日のHRは先輩が学校を案内したり、部活動を見てまわる。
数多くの部活や同好会が存在するため、午前のみでは半分も回りきらなかったらしい。
配布されたプリントに全部活動一覧が載っていたが、特に興味深いのは『なにもしない部』だ。一体何をするのだろうか。
まあそういった事は後で考えるとしよう。
放課後になり家で作ってきた弁当を開けようとすると、おずおずといった感じで黄色のハンカチに包まれた物体が差し出さる。
顔を上げるとそこにいたのは岩井琴子だった。
「あ、あの、お弁当、どうぞ」
顔を赤らめながら言う彼女の後ろでは、拝島やその他数人が見守っている。
印象を悪くする必要も、昼食を減らす必要もないので、素直に受け取ることにした。
「ありがとう」
俺が受け取ると、岩井は顔を俯かせながら拝島たちの所に戻っていった。目の端に城ヶ崎浜がこちらを睨んでいた気もしたが、まあ気にしないことにしよう。
ハンカチを解き蓋を開ける。白米に乗った赤い梅干し、お馴染みの黄色い玉子焼き、キャベツの千切りに乗った小さな唐揚げにプチトマト、ヒジキと豆の煮物。それらが機能的に詰められた色彩豊かな弁当は見るからに美味しそうだ。
まずは定番の玉子焼きから食べようと箸を――
「都靄様、私のお、お……」
――取ろうとすると、城ヶ崎浜がさっきまで食べていた弁当を持って話しかけてきた。
「お弁当がどうしたんだ?」
なかなか続きを言わないので言ってみると、城ヶ崎浜はその弁当箱を置いて自分の席に戻ってしまった。残りを食べてもいいのだろうか。
机の上に乗った三つの弁当箱を見つめていると後ろから声がかかった。
「都靄君、大変だね」
振り返ると妹子ちゃんが弁当箱を眺めている。
「岩井さんと三日月子ちゃんの二人からお弁当なんてもらって」
「まあ、腹の足しと家計には助かるから、大丈夫だ」
彼女は少し考える風にすると言った。
「あの二人、結構人気あるのよね。天も都靄君のこと気になってるみたいだし。ねえ、誰選ぶの?」
グッと顔を近付けてきた彼女の問の意味がいまいち分からなかったので、そこはスルーして別のことを言うことにした。
「妹子ちゃん、顔が近いよ」
好感度を上げるため最後に笑顔を付け加えた。
すると妹子ちゃんは唐突に顔をそむけ、机や椅子のぶつかる大きな音を出しながら床に倒れこんだ。
思考が追い付いていないのか体がすぐに動かない。保健委員の夢星宇宙が駆け寄ってきて彼女の容態を調べ始めた時になってやっと動き出した。
近寄ると、夢星はそっと彼女を横たえ俺を見て一言。
「笑顔禁止」
そう言った。そしてもう一人の保健委員、貝川正と共に彼女を保健室に連れていった。
「びっくりしたよー」
俺が三つの弁当を食べ終え保健室に行くと、元気になった妹子ちゃんがそう言いながら出てきた。
「大丈夫?」
「うん。平気」
「そう」
俺はそれを聞いて踵を返そうとしたが、妹子ちゃんに呼び止められた。
「あの、さ」
「何?」
「あの、えっと、私の家、来る?」
真意を問おうと口を開きかけると、彼女が慌てたように付け加える。
「あのあの、別に都靄君が好きとかそういう訳じゃなくてね、ただ今日のお礼をしたいの、そうそう、お礼よ。お礼なんだから天とかとは関係ないんだから」
お礼をされる筋合いは無いはずだが、とは口に出すことはなく俺は同意した。
「いいぞ」
そして三日目の今日は妹子ちゃんと帰ることとなった。




