第九話 大豪邸
やはり途中で止まってしまい、結局は運転手にゆっくりと先導されながらやっとのことで大豪邸に到着した。その間メイドたちは微動だにしなかった。脅威的驚異かもしれない。
身長の二倍はあろうかという木製の扉がゆっくりと開かれ、大豪邸内部が露わになった。そして中に一歩入る。
まず目についたのは正面の大きな階段。T字のそれは赤い絨毯が一面に敷かれている。手摺は濃い茶色をした木でできており、その付け根は白い大理石のようだ。階段の奥にもまだ空間が続いている。目線を下に向けると一面の赤い絨毯。今足が置かれている部分も絨毯になっていて、毛足が長くモフモフしているのが分かる。上を見ると大きなシャンデリアが階段の手前のフロア上のに一つ、階段の上に一つ、その更に奥に一つあった。一見蝋燭に火が灯っているような気がしたが、炎が揺れていないところを見ると電気的なものなのだろう。左右の幅は50メートルをゆうに超え、今見える空間だけでも余裕で千人は収容できる広さがありそうだ。壁はベージュ色でよく見ると細かい装飾が至る所に彫られているようだ。各部屋へと繋がるであろう高さ2メートルほどの扉を挟むように等間隔に壁から半分程だけ飛び出して配置された柱には、古代ギリシャのパルテノン神殿を思わせる縦の筋が入り、その上には間接照明が施されているようで仄かに明るくなっている。
さっきの庭とここを見ただけでも、あれだけのメイドが必要な理由がよく分かった。
ちなみに、俺の家は広いだけで手入れはしていない。
城ヶ崎浜はフロア左手の手前から二番目の扉を開けさせ、俺たちに入るよう促していた。
俺たちがそれに気付くと彼女は中に入ってしまい、メイドの一人がその扉を開けたままにしていた。特にそれについて思うことはなく、だがどこかそわそわしている妹子ちゃんや天は彼女に対して申し訳ないとでも思っているのだろうか。人には人に課せられた役割があるというのに。
そんなことを考えながらその部屋に入った。
そこはいくつもの円卓が並べられた部屋、つまりパーティー会場といったところだった。そこで城ヶ崎浜とその侍女のような女子たちが円を作っている。
何気なく近づいてきたウエイターから一つグラスをもらい、俺も輪の中に入る。ワトァワトァしている妹子ちゃんと天はそのウエイターに手引きしてもらってやっと輪の中に入った。
ウエイターに手を握られたことによって顔が赤くなった二人が輪の中に入ると、城ヶ崎浜が高々と宣言した。
「では、ここに『東条都靄公認東条都靄公式ファンクラブ』を設立させていただきます。乾杯」
「「「「「乾杯!」」」」」
……ちょっとまて。
「ちょっとまてーい」
……あ、つい、本当につい、声が訛った。
キョトンとする皆。目が点になってます。今度こそ、失敗して、嫌われてしまっ――
「「「「「キャー!!!」」」」」
「???」
なぜそこでキャーなんだ。しかも真っ赤になった顔に手を当てて体をクネクネさせている。どこぞの宗教集団か、ここは。
「「「「「カワイイー」」」」」
……かわいい。漢字では愛でることが可能である、つまり可愛いと書くがこれは当て字である。古くは小さい対象に対して使われた形容詞。現在のように大人などに対して使われることはなかった。いつの間にか語義が変わっていった単語の一つ。
いやいやいや現実逃避していたら話が分からなくなる。とりあえず、今の状況を説明しよう。カワイイーと言った城ヶ崎浜一同が、妹子ちゃんや天も含み、俺を取り囲んで寒くもないのにおしくらまんじゅうだ。わー、暖かーい。てゆーか熱ーい。
いやいやいや現実逃避していたら話が分からなくなる。ちゃんと話を先に進めよう。
ということで、俺は吠えた。
「ヤメローーーー!!」
エクスクラメーションマークが二つしか付かなかったのは残念だ。




